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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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249、会いたい気持ちをぶつける。


 散々ミロクたちに弄られてしまっていたトウヤだが、何とか自分のペースを取り戻そうと咳ばらいをして姿勢を正す。

 しかし、その懸命な努力も突然彼の上に降ってきた二つの固まりに邪魔され、可哀想な彼は「ふぎゅっ」と妙な声を上げてうつ伏せになって倒れてしまう。


「モモたん!! シジュにーたん好き好き作戦成功した!?」


「モモたーん、キヨコさん巻き込むの良くないと思うぞー」


「ばっ……!! なんで言うんだ!!」


 思わず口調が乱れ年相応の雰囲気になったトウヤの、背中に乗ってきた物体は小柄な少年二人だった。制服を着ているところから中学生か高校生だと思われるが、なんとなくトウヤに似た顔立ちをしている。


「従兄弟の日向ヒナと、斗夢トムだ。トウヤを合わせて三匹がまったくヤンチャで、何だかんだまとわりついてくるから実家で休める環境じゃなかったんだよなぁ」


「ぷぷっ、そう言いながらもシジュさんは可愛がっていたんでしょう?」


「うっせー」


「シジュは何だかんだ子煩悩になりそうだよね」


「やかましい。ヨイチのオッサンこそだろーが」


「社長はすでに私で片鱗を見せていますからね……」


 そう言ってため息を吐いてみせる姪の様子に、思わずヨイチは苦笑する。確かにこれまで変な虫が付かないように彼は過保護なくらい姪をかまっていた。特にフミの大学時代は暇さえあれば学校へ送り迎えしていたのは、やりすぎだったかもしれないと彼は少しだけ反省している。

 ヨイチの兄ヨミもフミをとにかく甘やかし可愛がっている。それでなぜフミが自立した人間になっているのか、それは彼女の母親シトミから受けた躾と教育の賜物だろう。


「さーて、悪ガキなチビスケども。お前ら何やらかしたんだ?」


 シジュがのっしのっしとトウヤに近づき、彼に乗っかる少年二人の首根っこをつかんで軽々と持ち上げる。小柄とはいえそれなりに重い男子二人を軽々と持ち上げる筋力に、ミロクは思わず「おー!!」と感嘆の声をあげて拍手している。


「シジュにーたん、俺らは悪くないよ」


「俺らはモモたん参謀の言うこと聞いただけだもん」


「ほほう、参謀殿、何か言うことはあるか?」


「……くそっ、裏切ったな」


 そう言って悔しそうな顔をするトウヤの後頭部を、シジュは勢いよくスパコーンと緑のスリッパで引っ叩く。


「おい説明しろ、トウヤ」


 なぜか少し嬉しそうな顔で自分の後頭部を撫でるトウヤだったが、シジュに言われても口を開かない。そこに割って入ってきたのはムツミだった。


「悪かったねシジュ。実はキヨコさんからトウヤの企みを聞いていたんだが、お前に会いたくてそのままにしていたんだ」


「親父……」


「トウヤがキヨコさんに頼んで、家が後継者争いをしていると言わせたらしい。キヨコさんはシジュとやり取りをしているし、きっと信用しているだろうからと」


「それならそう言ってくれりゃ……まぁ、確かに一度帰れと言われても、ほいほい帰ろうとは思えなかっただろうな」


「だろう? それにね……」


 ムツミはシジュと良く似た少し垂れた目を細めると、ヨイチとミロクを見る。


「実は、いつ家に来てくれるのかと楽しみにしていたんですよ。ヨイチさん」


「すみません。シジュを抜きに伺うのはどうかと思いましてね」


「ええ、分かっていますよ。芸能界というのも色々な面がありますし。ちなみにシジュがホストをやる少し前には、寒川さんという男性がこられましてね」


「はぁ!? 黒服やってたサムが来たって!? ここにか!?」


「そうだよ。突然ホストになるって家を飛び出して、どれだけ家族が心配したと思っているんだ」


「いや、それは、悪いと思っているけどな……」


 決まり悪そうにそっぽ向く息子に、ムツミは穏やかに微笑む。


「分かっているよ。あの頃お前は苦しんで、ひたすら足掻き続けていたんだろう。こっちもどう手助けすればいいのか分からなかったんだ……それでね、あの時に寒川さんは言ってくれたんだ」


「言った? 何をだ?」


 ムツミは少し黙り、小さく息を吐く。


「少しだけ息子さんを借りますって。必ず彼をお返ししますからって。まぁ、少しと言われたのにずいぶん時間がかかってしまったようだけどね」


「借りる……」


 シジュはヨイチを見た。自分の上司である彼は、父親に何と言ったのかを思い出す。


「そうだよシジュ。如月社長はお前をくださいって言ったんだ。それくらい本気だってことだろう?」


 ムツミの言葉を受けて、ヨイチは黙ったまま静かに微笑んで頷く。危うく何か熱いものを目の奥に感じたシジュは、慌てて深呼吸してやり過ごそうとするが上手くいかないようだ。目尻を赤くしてそっぽを向いている。


「僕だって、兄さんの芸能活動を止めたいわけじゃないんです。モデルの兄さんは格好良くて、でもそれは多くの人に向けた笑顔で……。それを見てたら、もう帰ってきてくれないんじゃないか……どんどん有名になって手の届かない存在になる前に、どうしても帰ってきて欲しくて……」


 クールで知的だと思っていた弟のトウヤは、今は小さい頃に戻ったかのようにポロポロと涙を流していた。それを見ている従兄弟の二人も彼に釣られてワンワンと泣き出してしまう。フミのハンカチはすでにビショビショで、涙目のミロクが甲斐甲斐しくティッシュを目に当ててやっていた。


「悪かった。これからは盆と正月くらい帰ってくるから、な?」


 そう言ってトウヤの柔らかな髪をわしゃわしゃしてやるシジュは、後ろから「モモたんだけずるい!」と男子二人に飛びかかられてしまう。


「おい兄さんから離れろ! それからいい加減にモモたんはやめろ!」


「可愛いじゃん桃矢の桃の字からとって、モモたん」


「ならモモタロウ? モモノスケ? モモンガ? モモイロインコ?」


「普通に名前でいいだろう!?」


 キャンキャンと騒がしく言い合う男子三人を、オッサンたちは微笑ましげに見ていた。


「それにしても、キヨコさんには頭が上がらねぇな」


「本当に迷惑をかけてしまって……父さんのポケットマネーからボーナス出さないと……」


「ああ、それならこういうのはどうです?」


 そう言ってヨイチが差し出したのは、オッサンアイドル『344』のCDアルバム(メンバー全員のサイン入り)であった。

 こんなもんじゃダメだろうとヨイチの申し出に呆れていたシジュだったが、思った以上に喜んだキヨコから後日ダイゴロウベストショット写真集が届き、それは長いこと事務所の潤いになるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

フタを開ければ単純なことで……


これでシジュ実家編終了です。

日常回入ります。



……その前に、体調治します(´・ω・`)

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