247、息子さんをください。
久しぶりの朝更新……
古民家に高身長の美丈夫が三人もいると、違和感が半端ない……と、フミは苦笑する。
シジュの話を聞いたヨイチが突然「じゃあ、行こうか!」と言い出したのには驚いたが、もう家族同然のような存在であるシジュの困っている姿は見たくなかった。
「叔父さんとミロクさんに負けないくらい、私だってシジュさんをお兄さんみたいに思っているんだから」
そう言ってフミは握りこぶしを作っていると、ちょうど玄関からエプロンを身につけた女性が出てきた。
「お、お客様、ですか? 旦那様に御用で?」
キヨコさん以外のハウスキーパーを数人雇っているらしく、どうやら彼女は美丈夫三人のことを知らないらしい。オッサンアイドルの知名度もまだまだだなと思いつつ、ヨイチはキラキラなシャイニーズスマイルを発動させる。
「どうも初めまして、お約束もなく急に申し訳ない。小野原さんに御用があって参りました。息子さんのことで……と、お伝えしていただければ」
「息子さん……桃矢坊っちゃまのことですかね。少々お待ちくださいね」
小走りに家に入っていく女性の背に、ヨイチは「違いますよ! シジュさんですよ!」と声をかけると、振り返りキョトンとした顔で頷いていた。
「桃矢さんっていうのは、君の弟くんかな?」
「おう。キヨコさんから勉強もスポーツもできる優秀な坊っちゃま、だそうだ」
「ちょっと待ってください。もしやシジュさんも坊っちゃま、って、言われて、いた、んですか? んぶふぅっ」
「うるせー。笑うならしっかり笑え」
「あははっ、坊っちゃまって! あははははっ」
「笑いすぎだ!!」
緊張していたシジュは、笑い転げるミロクにすっかりいつもの調子を取り戻している。彼はわざとそうしたわけではないのだが、結果オーライである。そして密かにフミも、ヨイチの影に隠れて無言で肩を震わせていたりする。
「お客様がた、どうぞー」
先ほどの女性の言葉に、オッサン三人と女子一人は家に入る。
「……変わんねぇな」
「もしかして、一度来られたことがある方ですか? ここの旦那様は模様替えをしたがらない方らしいですよ」
なぜと聞くこともなく、ただ無言で案内されるままに付いていくシジュたちは、奥の仏壇のある部屋に通される。そこにいたのは柔らかな雰囲気で、どこかシジュに雰囲気が似ている壮年の男性だった。
入ってきた美丈夫三人の格好に一瞬気圧されたような様子を見せるが、その視線がシジュに向かうと眩しそうに目を細めた。小さく息を吐くと、彼はハウスキーパーの女性に茶を頼み、ヨイチたちに座るよう促して口を開く。
「あなたが……。初めまして、小野原ムツミです」
「如月ヨイチです。では、唐突ですが言わせていただきます」
「どうぞ」
「息子さんを僕にください」
「なっ……何言ってんだよオッサン!!」
大真面目な顔で一体何をトチ狂っているのかと、シジュは思わず大きな声でつっこむ。ミロクとフミは横で「きゃー」と言いながら仲良く顔を両手で覆い、ムツミはぽかんとした顔でヨイチとシジュを見ている。
が、しかし、みるみる真剣な顔になったムツミは、正座に座り直してヨイチの方を向く。
「本気……なんですね」
「もちろんです」
「そうですか……家を出たとはいえ、シジュは大事な息子です。こちらの都合で息子の幸せを壊したくはない……」
「幸せにしますよ。こう見えて僕は社長ですからね」
「はは、存じていますよ。そうか……シジュは良い人と出会えたんだな……」
穏やかに微笑むムツミは、そのままシジュに目を向ける。話の展開を分かってはいるのだが、微妙な会話のやり取りにどこまで本気か分からないシジュはなぜか動揺していた。
「おい、親父、分かっているよな? キヨコさんから聞いているんだろ?」
「シジュ、父さんはどんなお前でも応援している。可愛いお嫁さんじゃなく、逞しいお婿さんを迎えることになるとはね。反対はしないよ。どうか幸せになって……」
「ちょっと待ったーーー!!」
ムツミの言葉に顔を真っ赤にしたシジュが立ち上がると、ヨイチは噴き出し、ミロクとフミは無言で後ろを向いたまま肩を震わせている。
「気持ち悪ぃこと言ってんじゃねーよ!!」
「シジュが巨乳が好きだったとは知らなかった。父さんびっくりだ。はっはっは」
「ふふ、どうですこの胸筋。シジュはあまり大きくするなって言うんですよ」
「なるほど。ヨイチさんは尽くすタイプですか」
「やめろ!! マジでやめろ!!」
「家族……いや、僕たちは兄弟同然だって言った、あの言葉は嘘だったのかい?」
「燃料を追加すんなああああーーー!!」
スーツでしっかりきめてきたオッサンたちなのに、会話の内容で全てが台無しである。しかもフミを含め、ブランド物のかなり高額な仕立ての良いスーツだ。尾根江プロデュースは伊達ではない。ただただ残念なオッサン達である。
ムツミは、自身がシジュに愛情をしっかりと与えることが出来なかったと、ずっと後悔していた。母親のこともあるが、あの頃とにかく毎日が忙しく家にいる時間が少なかった。ハウスキーパーのキヨコの存在で保っていた息子の心は、良かれと思って迎えた新しい母親の存在で徐々に自分から、家族から離れていったような気がする。
「父さんは応援しているよ。シジュ」
「親父……」
穏やかに微笑むムツミに、シジュはようやく肩の荷がおりたような気持ちになったその時……。
「許しませんよ。兄さん」
音もなく開いた襖から漏れ出でる冷気を、その場の全員が感じた。
色素の薄い柔らかな髪に女性的な顔立ち、細身の体は未だ男性として成熟していないのだろう。シルバーフレームの眼鏡で隠しきれない冷たい目線は、部屋にいる人間一人一人を突き刺すような鋭さだ。
「桃矢……」
シジュは久しぶりに会う弟の尖った様子に、やれやれとため息を吐くのだった。
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