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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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285/353

245、やってきた大五郎。

とうとう、この時が……

 事務所のドアを開けたミロクは、モフッとした何かに顔を覆われる。


「んぷっ!?」


「あ、悪りぃ」


 真っ白なモフモフを肩に乗せた美中年が、ミロクの顔についた白い毛をそっと取ってやりながら謝る。その手をギュッと掴んだミロクは、みるみる目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。


「シジュさん!! どこの子ですか!!」


「手、手を離せって!! あと近い!! 顔が近いしなんか甘い!!」


「クゥーン」


「か、か、可愛い……!! お、お名前は!!」


 シジュの肩に乗っているのは真っ白な犬だ。どうやら成犬らしいが、小型犬であるのとモフモフの毛に覆われているため、真っ白い丸いボールにも見える。


「こいつは実家で飼ってるポメラニアンのダイゴロウだ。よろしくな」


「ダイゴロウ君……男の子ですか?」


「いや、メスだ。なんか知らんが歴代の飼ってる犬はダイゴロウって名付けられててな……」


 そう言いながらシジュが床に真っ白な塊を置くと、てててっと奥に走っていく。その可愛らしいお尻を慌てて追いかけようとするミロク。


「大丈夫だ。行き先は分かってるし」


 今ちょうど毛が抜ける時期なんだよなと、どこから取り出したのかシジュはガムテープでミロクのジャケットにペタリと貼って、ダイゴロウの白い毛を取っている。


「……シジュさんのご実家、ですか?」


「まぁな」


 ヨイチは知っているのかもしれないが、ミロクはシジュの家のことや過去のことをほとんど聞いたことがなかった。しかしここにきてダイゴロウ登場という絶好の機会が舞い込んできたことにより、ミロクは胸が高鳴るのを感じている。

 ダイゴロウの走っていった方向に行くシジュの後をミロクはついて行くと、狭い打ち合わせスペースのソファにヨイチが座っていた。そしてその膝の上に当たり前のようにくつろぐダイゴロウがいる。


「ダーイ、ダメだろ。オッサンのスーツが毛だらけになるんだぞ」


「いいよシジュ。今日はもう外に出ないから」


「悪いな。こいつってメスの本能からか知らねーけど、ハイスペックな男が大好きなんだよ」


「可愛い顔して、結構えぐいですね」


「だろ?」


 確かに、オッサンアイドル『344』のメンバーの中で、ヨイチは際立ってスペックが高い。

 小さいながらも、順調に育っている芸能事務所の社長であり、現役のアイドルである。加えて女性に優しく性格も温厚、仕事に関しては常に冷静に物事を捉えていて、腹黒な部分がまた彼にスパイスを与えている。


「うう、ダイゴロウちゃん、俺にも撫でさせて……」


 少しだけしょんぼりとしたミロクに、ダイゴロウは素早く立ち上がりヨイチの膝から降りると、ミロクの元に駆けてくる。それを全力全開の笑顔で受け止めたミロクは、真っ白なモフモフを幸せそうにギュッと抱きしめた。ダイゴロウも尻尾を千切れんばかりに振っている。モフモフの中にある尻尾のため、はたから見るとまるでお尻を振っているようだ。可愛い。絶対的に可愛い。


「ふあぁ……幸せ……」


「ダイゴロウはハイスペックな男も好きだが、イケメンも好きなんだ」


「何というか、本当にメスの本能全開だよね」


 クスクス笑っていたヨイチだが、ふと真面目な表情になる。


「それで、実家で何かあったのかい?」


「んー、まぁな。放っといた俺も悪かったんだけどなー」


 少し垂れた目を閉じて考え込んだ様子のシジュに、モフモフを堪能しているミロクもダイゴロウと一緒に不安げな顔をしている。そんな末っ子を見たヨイチは、やれやれと肩をすくめた。


「後に回せる仕事は調整してしまおう。それで? 話を聞いたほうがいい? それともシジュの実家に乗り込んだほうがいい?」


「おい、それ二択じゃねぇだろ」


「フミちゃーん、会議室あいてるー?」


「あいてますよー」


 ヨイチとシジュのやり取りを聞くやいなや、ミロクはフミに呼びかけて会議室を押さえてもらう。最近サイバーチームが詰めていることが多く、会議室を増やすべきかという検討がされている。

 オッサンアイドルの売れゆきと共に、事務所のスタッフたちもどんどん忙しくなっていた。

 シジュは観念したように大きく息を吐くと、「悪いな」と小さく呟いた。







 シジュの実家は都心から電車で一時間ほど乗ったところにある、歴史ある建物が多くある観光地の近くにある。名家……でもないが、古くから財界人との付き合いが多く、幼い頃から色々と普通ではない習い事をさせられたとシジュは語った。


「社交ダンスは感謝してっけどな。あとマナーとか。ホストん時にめっちゃ役立った」


「へぇ、ホストでマナーですか?」


「上客を掴むには絶対に必要だな。小さなことなんだぜ? エスコートする順番とか、飲み物を出すだけでも順番があるんだからよ」


「いいお客さんほど、マナーを知らないホストは次から絶対呼ばないだろうし、最悪店にも来なくなっちゃうんだよね」


「ヨイチさんよく知ってますね」


「僕らの仕事も似たようなものだよ。心を掴むというところで」


「確かに」


「話が逸れたが、とにかくまぁまぁな家で育ったわけだ」


「シジュさんのご兄弟は?」


「ああ、年の離れた弟が一人あとは妹もいるっけな」


「妹もいたんだ?」


「俺が家を出た時にはまだいなかったからな。母親が出て行って、しばらくして親父が再婚して……反抗期ってやつに任せて出てきちまったんだ。よくある話だろ?」


 少しだけ会話の間があいたところに、フミが温かい紅茶を持ってきた。その香りを楽しんだシジュは、一口飲むとホッとしたように息を吐いた。


「弟は優秀だ。だから後継は俺じゃなくても良かった。好きなように生きようって思ったんだ」


「シジュさん……」


「それでダンスに明け暮れているころ、僕らは会ったよね。あの頃のとんがってたシジュは……」


「あーあーあー!! それでだな!! どうしてダイゴロウを預かることになったのかってことなんだが!!」


「うるさいですよシジュさん」


「ふふ、シジュは照れ屋なんだから」


 膝の上で腹を見せるダイゴロウを優しく撫でるミロクは、シジュの大きい声に顔をしかめた。「すまん」と言いながら椅子に座り直したシジュはヨイチを恨めしげに見ながら続ける。


「俺は、後継ぎは弟でいいと思っていたんだ。だが、うちの連中はそう思ってなかったらしい」


「うちの連中?」


「おう、分家の奴らだな。なんか知らんが実家に乗り込んできて大騒ぎになってるらしい。ダイゴロウが怯えて飯を食わなくなったとかで、古くからいるハウスキーパーの人が事務所まで連れてきたんだ」


 そうため息まじりに語ったシジュに返事をするかのように、白いモフモフは「クゥーン」と鳴いた。



お読みいただき、ありがとうございます!


フンドシイケメンマッチョエルフも、どうぞお召し上がりください!

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