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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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280/353

241、舞台公演は順調……?

遅くなりましたー!!

 日焼けしたその手は健康的な肌色と重なり、逞しいその肉体の凹凸を隈なく滑っていく。その指の行方に時折ピクリと反応しつつも、彼はその手に身を委ねていた。

 ゆっくりと動かすその指は、時には強く、そして柔らかく、ただひたすらに良い所を探っていた。


「シジュ……」


「黙ってろ、もうちょっとだから」


「いや、でもこれ以上は、もう……」


「オッサン、力抜けよ。痛くなるぞ。ここは触らねぇから」


 そう言ってシジュはヨイチの背中を避け、太ももから順に彼の足の筋肉を揉みほぐしていく。


「うー、効くなぁ」


「だろ? 背中庇って他の部分が疲労してるんだ。少しマッサージしといた方が楽になるだろ?」


「ありがとう……って、ミロク君は何をやっているの?」


 事務所のソファに座っていたヨイチは、目の前に膝をついて足をマッサージしているシジュに礼を言いながら、自分の横に座るミロクを見ると、なぜかスマホを構えて動画を撮っている。


「ミハチ姉さんに送るんです。あれから何度も俺に確認のメールがくるんですよ……面倒なんで『現在のヨイチさん』って動画を定期配信しています」


「ゲネプロの時、すごかったよな。舞台に出たヨイチのオッサンをひと目見て、即舞台裏に乗り込んで来たっつーし」


「本人も重度の追っかけだって言ってますからね。練習を見てたら事前になんとかできたって悔やんでました」


「愛されている自覚はあるけど……でもなんで僕じゃなくてミロク君にメールがいくのかな」


「そうなんですよ。姉さんにも本人に連絡しろって言ったんですけど、恥ずかしいって……」


「ああ、ありゃすげぇ大号泣だったもんなぁ……」


「泣き顔も可愛かったけど、それを恥ずかしがるミハチさんも可愛すぎるね」


「爆ぜろ鬱陶しい」


「そろそろ爆ぜましょう」


「えー、これくらい受け取ってよ」


 舞台公演は一週間続く。午前と午後の二回公演で、その間にラジオ以外の仕事は入れないようにしていた。舞台公演が終了したと同時に、忙しくなるだろう彼らは空き時間はしっかり休憩をとるようにしていた。

 そこで、シジュが始めたのはマッサージであった。彼はヨイチとミロクの体を解してやり、しっかりと休むよう指示をしている。

 シジュ自身は大丈夫なのかというと、ミロクがマッサージを習いつつ彼に施している。なかなかスジが良いらしい。さすが何でもソツなくこなせるミロクである。

 完璧主義なミロクならば、きっと素晴らしいマッサージ師にもなれるとシジュが太鼓判を押していた。某事務所社長はアイドルとの兼業でお願いしたいと半泣きである。

 幸いにもヨイチの背中の状態は、舞台での振り付けを変更したのもあり何とか落ち着いている。公演が終わる度に鍼灸院で診てもらっているため、普段よりも体が軽いと本人は喜んでいた。


「メロンお姉様! さっきの演技はどうでしたか!」


「メロンお姉様! バトルシーンの相手をお願いします!」


「……とりあえず、落ち着きましょうか」


 メロンがイチゴとミカンに懐かれて、胸に入れているメロン両方に縋り付かれている。あれはニセモノなメロンではあるが造りがすごくリアルで、今も少女二人の間で「たわわ」に実って揺れている。


「ふむ……」


「揺れてるねぇ……」


「たわわですね……」


 ニヤニヤしながら無精髭を触っているシジュと、感心したようにメロンを眺めるヨイチ。そこに何かを考えつつ真剣な顔で「たわわ」を観察するミロク。

 三人三様のオッサン達であったが、突如吹き荒ぶブリザードに体を震わせる。


「お疲れのようだったので休憩時間が必要かと思いましたけど、まだまだ元気でらっしゃるようですね。うちのタレントさん達は……」


 そう言ったのは、トイプードルのようなポワポワ茶色い髪のマネージャーだった。オッサン達の背後で、しっかりと大地を踏みしめて仁王立ちする彼女の笑顔が可愛くて怖い。ひたすら可愛くて怖い。

 シジュは「さーって、ストレッチしてくるかぁー」と早々に場を離れ、ヨイチは「ミロク君、あとは任せた!」と言って、少女達からメロンを揉みくちゃにされている美海を救出しに向かう。


「あ、えっと、その……」


「はい、なんですかミロクさん」


 ブリザードは未だ吹き荒んでいた。彼女の笑顔が固まったままなのが気になったミロクは、その冷えきった空気を物ともせずに彼女に近づく。心なしかブリザードは弱まってくる。辺りに放たれているのは、現役オッサンアイドルのメインボーカルを務めるミロクの「災害級のフェロモン」である。


「ねぇ、フミちゃん」


「な、なん、ですか」


 ゆっくりとフミに近づいたミロクは彼女の頬を手の甲で軽く撫でると、ふわりと甘い微笑みを浮かべた。


「触りたいって言ったら、怒る?」


「へ!?」


「俺は、触ってみたい」


「うぇ!? ええええ!?」


 驚き仰け反るフミに、ヨイチがぽいっとボール二つ分くらいの柔らかく重いものを投げてよこす。反射的に受け取ったものの、その重さにバランスを崩して倒れそうになったのを、ミロクが慌てて支えようとして見事に二人とも倒れてしまう。


「ひゃぁっ!?」


「ごめ、フミちゃん! なんか柔らかいものを触っちゃって……うわ、え!? これ!?」


「……メロンちゃんのメロン、柔らかいけど結構重いですね」


 ヨイチの投げたのは美海が胸に仕込んでいた「ニセメロン」だった。ミロクとフミはその触り心地に驚きつつも、この重りをずっと仕込んだまま演技している美海を心から賞賛する。こんな重いものを抱えて動き回るとか、どこの◯仙流なのか。




 こうしてメロンのメロメロ事件……憤怒の仁王フミを静まらせることに成功したミロク。

 しかし、さらに恐ろしい事件が起きていることに気づいた者は、この中でただ一人だけであった。


「ミロクさんに……揉まれ……ちゃった……」





お読みいただき、ありがとうございます!!


らっきー!!すけ!!べー!!

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