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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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271/353

233、問題未解決とピンクに戸惑う仁奈。

遅くなりすみません!

 ヨイチが舞台の練習場所にいる『344』メンバーと合流できたのは、夜九時を回ってからであった。遅くなったためフミは帰らせたが、ミロクとシジュは残っていた。

 舞台公演まで借り切っているというダンススタジオを広くしたようなトレーニングルームは、遅い時間ということもありミロク達以外は誰もいない。残っているのは一部のスタッフで、別の部屋でミーティングをしている。

 今日中に合流できると連絡を入れていたとはいえ、心配していたミロクはヨイチの顔を見てホッとしたような笑顔を浮かべた。そんな末っ子のカールがかった黒髪に、ヨイチはポンポンと手を置く


「心配かけたようだね。大丈夫だよミロク君。ミハチさんも来てくれたし」


「姉さんがいたのが果たして本当に「大丈夫」かは不明ですけど、何はともあれお疲れ様です」


「ってことは、解決したのか?」


 板張りの床にペタリと座り百八十度に開脚したシジュは、上半身を前に倒す柔軟運動をしながらヨイチに問いかける。


「いや、何も解決はしていないんだけどね」


「はぁ!?」


「姉さんがいたのにですか?」


「僕らのやったことといえばミハチさんがシャイニーズのお偉方を陥落させて、その混乱に乗じて抜け出してきただけだし」


「おいおい……」


 呆れたようなシジュに、ヨイチは苦笑して「まぁ大丈夫だよ」と言う。


「あとはあっちで何とかすると思うよ。テルミー社長の耳にも入ったようだから」


「おかしいと思ったんですよね。だってあんな大きい会社の社長さんがいちいち会議にヨイチさんを呼び出すとか……」


「個人的になら呼び出されることはあるかもだけどね」


「それ、もしかしてシャイニーズに復帰しろとか、そういうんじゃねぇだろうな」


 ムッとしたような顔で立ち上がるシジュを見て、ミロクもハッとなってヨイチに詰め寄る。


「ちょっとヨイチさん! それはダメですよ! こんな可愛い弟二人を捨てようなんて人でなしですよ!」


「ミロク君、そんなこと僕はしないと分かってて言ってるでしょ」


「もちろんです!」


 久しぶりに緑のスリッパでシジュが「こらっ」と言いながら、ミロクの頭を軽く叩く。


「とにかく、しばらくは呼び出されることはないと思うし、君たちの練習に追いつかないとだからよろしく頼むよ」


 丸一日遅れたのは痛いなぁと呟くシジュに、ミロクは今日練習したことを脳内で反芻すると、悪戯を思いついたような

悪い笑みを浮かべる。そんな末っ子に気づいたシジュも気づいてニヤリと笑う。こういうことに関しては鋭い男である。


「じゃあヨイチさん、早速今からやりましょう。俺、着替えも持って来てますから時間を気にせず付き合えますよ」


「幸い明日は午前中オフだったはずだ。じっくりヤろうぜ」


「一体何を練習したんだ君たちは……こ、こら! そんなとこ触らない!」


 弟二人に両腕をとられ、そのまま『魅惑の腰フリダンス』の強化講習会に突入するヨイチだった……。







「ピンクに?」


「はい。ピンクにしたいんです」


 職場である美容院にて、ミロクの妹ニナは新規の女性客にヘアスタイルの希望を聞いていた。


「ピンクにしたいって、髪の色をピンクにしたいってこと?」


「はい!」


 そんな良い笑顔で返事をもらってもなぁと、ニナは困ったような笑顔を作る。元々感情表現が豊かではないニナだが、接客の時はなるべく意識して表情を作るようにはしている。しかし今回のケースについては作るまでもなく、きっと今の自分は「困ったような表情」になっているだろう。

 高校生であろう彼女は、背中まである黒髪をカラーリングとカットで依頼していた。学生でカラーというのは校則で禁止されている場合もあるため、せいぜいバレない程度に少し明るくする程度染めるのだろうと思っていたが、彼女の口から出て来たのは「ピンク」だった。


「あのね、原色に近い色に染める時って、元の髪の黒をなくすために一度全部脱色しなくちゃダメなの。それでもやるの?」


「はい!」


 どうやら決意は固いようだが、それでも一見「真面目そうな」女の子がここまでする理由が分からない。


「ねぇ、なんでピンクに染めたいって思ったの?」


「ピンクって可愛いじゃないですか」


「まぁ、可愛い? かもしれないけど、あなたがそう思っているの?」


 ニナがそう言うと、彼女は少しだけ頬を染めて俯く。


「彼が、アニメのピンク髪の女の子が好きで。私あんまりファッションとかそういうの分からないけど、彼が好きな子を真似するのが一番近道かなって思ったんです」


「ああ、うん、そう……」


 一体どんな彼氏なんだよと思わないでもないが、同じくアニメ好きな自分の兄は「ピンク髪のヒロインは正義だと思ったら大間違いなんだよ」と言っていた。兄の言うことがすべて正しいとも限らないだろうと、この件に関してニナは一旦心にしまっておくことにする。


「最近、彼は忙しいみたいだったんですけど、明日久しぶりにデートできるんです。だから精一杯オシャレして、可愛くなった自分を見せて驚かせたいなって」


「それは良い心がけだと思うけど……」


 困ったなぁと、ニナは隣の席で別の客の対応をしている店長を見る。若々しく見える男性店長はニナの視線に気づくも、対応している客の話がなかなか途切れないため手助けできない状態のようだ。

 こういう時、よく客からバイトと間違えられる顔であろうとも、スーパーでお酒を買うときに身分証の提示を求められる四十路手前のオッサンであろうとも、それが三回ほど続こうとも、店長を頼りにしているんだなと自覚してしまう。

 まだまだだとニナが反省していると、店の入り口のガラス扉が勢いよく開いた。


「こむぎ!! ここにいるの!?」


「川口さん!?」


 どうやら状況的に解決してくれそうな男性が現れたと安心したかったのに、その男性が明らかにスーツ姿の「社会人」であるのを見て、女子高生の相手としてどうなんだと頭を抱えたくなったニナであった。




お読みいただき、ありがとうございます!


四天王の一人が再登場w(ネット小説の外側でありそうな話、参照w)

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