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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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262/353

225、モーニングなオッサン達と拡散される344。

 夏本番を迎えつつあるこの季節に、『コスプレ世界大会』の開催期間は三日ある。その二日目は、決められたゾーンではコスプレをした参加者とともに、観光客や応援に来た人達が記念撮影をしていた。

 その中でも、ゲストとして開催式に出演した『344(ミヨシ)』の三人は、猛暑の中でも笑顔でファン達と交流している。ファンも準備万端で、差し入れがコンビニで売られている凍らせたペットボトルや涼感グッズだった。オッサンアイドルである、ミロク達を気づかうファン達の連携プレーは素晴らしい。


「あ! 加藤……じゃない、佐藤さんも応援に来てくれたんですか!」


 市役所の職員、佐藤の名前をやっと憶えたミロクは、汗の滴る髪をかきあげて笑顔を見せる。仕事とは違ってTシャツとジーンズというラフな格好の佐藤はミロク色香漂う笑顔を向けられたが、驚くことにほとんど表情を変えることなく生真面目に一礼した。しかし佐藤は表情が変わらないものの、気遣わしげに汗だくのミロクを見る。


「ミロクさん、暑い中お疲れ様です。記念撮影とか大丈夫ですか? 実は商店街の皆さんも来ていまして……」


「ええ!? 町内会での旅行先ってここだったんですか!?」


「メインは昨日の夜にやった飲み会なんですよ。今日の夜行バスで帰る予定です」


「それなら記念撮影は今しかないじゃないですか……フミちゃん、大丈夫だよね?」


 少し離れた場所で飲み物やおしぼりを持ってヨイチと話していたフミは、佐藤の姿に驚く。ヨイチとシジュも不思議そうな顔をしていたが、ミロクが事情を話すと「ご近所パワーすごい!」と驚く。元々『344』のメンバーと一緒の撮影は一人一枚で受けているので、そのまま商店街の人たちが希望すれば受けるとフミが佐藤に伝えた。


「ありがとうございます。皆さん喜びます」


 ホッとしたように口元を緩ませる佐藤にミロクは好感を持つ。感情表現が薄く表情に出にくいだけで、彼は基本いい人間なのだろう。ガタイが良く、彼の無表情を合わせると少し威圧感があるのはご愛嬌だ。

 撮影許可が出ている時間いっぱいまで、ミロク達は応じていた。完璧に軍服を着こなした美丈夫なオッサン三人。暑さに耐えてファンサービスにつとめた彼らの姿は、即SNSで流れて拡散される。







 翌日、モーニングを体験しようとホテル近くの喫茶店に繰り出すオッサン三人。落ち着いた雰囲気の店内で、どんなもんかと注文したモーニングの量に驚きつつ朝食タイムとなった。


『コスプレ世界大会にてイケメン発掘!!』

『イイネ! スゴクイイネ! てゆかこの人たち誰?』

『本物より本物っぽい!!』


 ツイッタラーで『コスプレ世界大会』をサーチするミロクは、小倉餡の入ったトーストサンドを頬張りながらスマホの画面をスクロールしていく。ヨイチはコーヒーの飲みながらなぜか出された豆菓子をポリポリと食べていて、シジュはゲンナリとした顔をしている。


「おい、よく朝からそんなん食えるな」


「え? 食べます? 美味しいですよ小倉トーストサンド」


「いらねー」


「ひとくちだけですよ? はい、あーん」


 まるでシジュの言葉を聞いてないかのように、キラキラな笑顔で小倉トーストサンドを差し出してくるミロク。そんな末っ子に少しイラっとしたシジュは、嫌がらせとばかりに大きく口を開けてバクバクと半分以上食べてしまう。


「ああ!! ひどいですよシジュさん!!」


「ん、んん? これ意外とあっさりして美味いな」


「だから美味しいっていったのに!!」


 涙目で残りを食べるミロクに、シジュは「そもそもこんなカロリー高いもん食うなよ」と言いながらも、自分の頼んだ野菜サンドの皿をミロクの前に置いてやる。


「さて、僕らのコスプレ画像はかなり拡散されたようだね?」


「みてぇだな。一部ネットニュースにもなってたぜ」


「それで、どうするんですか?」


 野菜サンドを頬張るミロクの言葉に、ヨイチは笑みを浮かべる。すると遅れて合流すると言っていた、マネージャーのフミが店内に入ってきた。


「社長、サイバーチームと連絡とれました。今から開始するそうです」


「ありがとうフミ。これで少しは影響を与えられるかな」


「ヨイチさん、まさか情報操作……ですか?」


 ミロクは浮かない顔になる。そんな彼にフミは慌てて言う。


「違いますよミロクさん! いや、違わないんですけど、悪いことをするわけじゃないんで!」


「フミちゃん……」


 アワアワしているフミの可愛さに、ミロクは眉間のシワをといて甘く微笑んで、そのポワポワ茶色の頭を撫でてやる。


「ごめん、大丈夫だよ。俺はヨイチさんを信用しているし、綺麗なだけじゃダメだっていうのも分かっているから。ただ、ヨイチさんにとって危ないことだったらと思うと、心配になっただけだよ」


 ミロクの言葉に、ヨイチは心配させて申し訳ない気持ちと嬉しさがないまぜになった、困ったような笑顔になる。


「ありがとうミロク君。危ないことじゃなくて、少しだけツイッタラーで協力してもらうだけだよ」


「協力って、どんな事だ?」


「彼らは『大手』と呼ばれるツイッタラーユーザーだからね、そこで反応すれば拡散が加速する。ネットニュースでも取り上げられているなら、そこからでもいいかもね」


「反応って、どんな風にですか?」


「例えば、ミロク君なら自分の好きなアニメの舞台化決定と記事と、そのキャラクターの完璧にコスプレした人の記事が『近い場所』にあったら……」


 どう思う? と、ヨイチは楽しげに微笑んだ。




お読みいただき、ありがとうございます。


こっそり出した喫茶店は、某駅舎な喫茶店をイメージしました。

小倉トースト美味しかったです。

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