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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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223、現地到着とグルメと開催式直前。

 夏休み真っ只中である名古屋駅は、観光客で溢れている。

 その中を頭一つ飛び出している高身長な三人の美丈夫が、行き交う人にぶつかることなくスマートに歩き進んでいる。


「おい、うちのマネージャーはついて来てるか?」


「大丈夫ですよ。俺が見てるんで」


「ミロク君がいるなら、はぐれても大丈夫そうだよね。絶対見つけそう」


 そうやり取りしている間にも、人波に流され行く茶色のポワポワを目ざとく発見したミロク。人としてありえない運動速度で自分の胸元にフミを引き寄せるという、王子的な回収を完了させている。

 そんな二人の様子を見て、ヨイチもシジュも同時に「関東を出ても変わらないクオリティ」と認識し、問題なしとみなす。とりあえず今は移動に集中することにした。


「一度、ホテルに行くよ。後から来る事務所の応援スタッフは車で来るから合流は夜になるかな。それまで時間あるから美味しいもの食べに行こうか」


「さすがオッサン! 太っ腹!」


「ヨイチさん太っ腹!」


「腹まわりは鍛えているけどね!」


 なぜかムッとして言い返すヨイチ。

 ちなみにフミは新幹線でミロクの枕となっていたのと、抱き寄せられて脳内がフェロモン祭りになっているため無言である。一行はいそいそと名古屋駅近くのホテルに向かうのだった。







「いやぁ、美味しいね!」


「美味しいですねヨイチさん!」


「社長、ありがとうございます! 味噌カツ美味しいです!」


「……おい」


「ホテルに戻る前に、手羽先買って行こうか!」


「いいですね! 他にも持ち帰りしましょう!」


「エビフライ美味しいですー! 大きいですー!」


「……おい!!」


 ホテルにチェックインした四人は、その足で名古屋飯を求めて市内に繰り出す……と思われた。そんな彼らの現在地は、名古屋駅の地下であった。

 声を荒げたシジュに、ハムスターのように頬を膨らませたミロクとヨイチ、エビフライをサクサク頬張っているフミがキョトンとした顔をしている。


「ほとんど駅から離れずに終わる気か? このままだと明日イベントに出演してそのまま帰る羽目になるんだぞ?」


「そうは言ってもね、シジュ。僕らが出歩いて良いことは無い気がするんだよ。ほら、ここは地元じゃないだろう?」


「俺は引きこもりたいくらいなんで、ここで名古屋の食を満喫できるのなら嬉しい限りです」


「サクサク? サクサクサク!」


 確かに三人が歩けば目立ってしょうがないだろうし、もはやエビフライが喋っているようなフミを見てミロクのフェロモンが垂れ流し状態になっているのは大惨事になる予感しかない。しょうがないとシジュは夜の名古屋徘徊を諦めつつ、自身も味噌煮込みうどんに手をつけることにした。

 オッサンは胃に優しいチョイスをしがちなのである。







 コスプレパレードの出発地点である大須のとある寺で、開催式も行われる。夏の熱気以外の熱気に包まれたこの場所には、舞台代わりの境内からレッドカーペットが敷かれ『世界大会』の名に恥じない設営がされていた。

 様々なキャラクターの衣装を身につけた、国籍も様々な人達が多く参加している。その様子を少し離れた場所から、オッサンアイドルである『344(ミヨシ)』の三人は見ていた。


「すごいです。まさかロボットアニメに出てくるロボットで出てくるとは……」


「おい、あれ大丈夫なのか!? 下着が見えねぇぞ!?」


「シジュ、あれは肌色のインナーだからだよ。落ち着いて」


「なんでオッサンは落ち着いてられんだよ!」


「そりゃ、事前に色々と調べているからね。僕らが脱いでも問題ないか……とか」


「え!? 脱ぐんですか!?」


「いや、それは考えてないけど、色々な状況を想定しておくことは大事だからね」


 タレントを守る側の人間としても、ヨイチは仕事を受ける際のリスクは常に想定するようにしている。それでもミロクのフェロモン災害のようなことがあるため、なかなか想定内とはいかないのだが。


「ああ、でもこの衣装は暑いなぁ、脱いでいいんじゃねぇか?」


「シジュさんは開けっぴろげだからいいじゃないですか。俺なんかマントも羽織ってるんですよ?」


「僕のフロックコートも地味に暑いよ……」


 少し離れた所にあるビルの一室が控え室となっており、そこではエアコンが効いて涼しい。外の灼熱地獄にいるコスプレイヤー達を讃えるように眺めるオッサン達。

 ドアのノック音と共にフミが来客を告げる。オッサン達の着替えの間、フミはドアの向こうで待機していた。無いとは思うが、過去に突入してきたファンもいるため、マネージャーとしてしっかり見張りをしている。

 もし突入してくるファンがいたとしても、果たしてフミが追い返せるかどうかはこの際どうでもいい。大事なのは人の目があるということだ。それだけでも抑止力にはなるだろう。

 フミが部屋に入って来ると同時に、やけに恰幅のいい男性主催者が入ってきた。このイベントは地域活性化を狙って行われるようになったのだが、今では世界的に有名なコスプレイベントとなっているため、主催者は大忙しらしく汗だくになっている。


「本日はご出演ありがとうございます。外は暑いので気をつけてくださいね」


「いえ、尾根江から聞いた時には驚きましたが……」


 穏やかに微笑んで握手を求める主催者に、ヨイチもつられたように微笑み出された手を握ると、その微笑みを真正面から見てしまった男性は耳まで真っ赤に染まってしまう。


(俺がいつも言われているフェロモンよりも、ヨイチさんの『シャイニーズスマイル』の方がタチが悪い気がするんだけど……)


 そうは思っても口には出さないミロクは、隣にいるシジュを見ると「どうした?」と問うような目線を送って来る。「問題ない」という風に首を振ると、ホッとしたような顔をされる。次兄に心配されたようで、妙にくすぐったく感じるミロク。


(シジュさんもこうやって俺を甘やかすからなぁ……うん。兄二人はタチが悪いってことで)


 脳内で結論づけたミロク。どうやら挨拶の方も終わったらしいヨイチの呼びかけで、一行は会場へと向かうことになった。

 いよいよ開催式である。






お読みいただき、ありがとうございます。


次回はコスプレと……コスプレです!←

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