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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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255/353

219、梟なカフェと少し強引なオネエ。

 閉店後の撮影のため、店内に他の客の姿は見えない。

 最近の流行りであるという都内某所にある「フクロウカフェ」のロケに、オッサンアイドル『344(ミヨシ)』の三人は来ている。大きな物音や激しい動作はしないようになど、事前の説明を受けている中で、五〇センチほどの生き物を前にミロクは目を輝かせていた。


「こんな近くで初めて見ました。大きいですね……フクロウ? ミミズクですか?」


「ワシミミズクです。この子はもう少し大きくなるんですよ」


「これ以上ですか。それにしても大人しいですね」


「夜行性だからというのもありますが、比較的大人しい種類なんですよ」


 革の手袋をはめた男性店員の手に乗っているモフモフなミミズクは、ミロクを見るとクルリと首を回した。


「うぉっ、すげぇ角度まで持っていくなぁ」


「右も左も百八十度回るって、本当なんだね」


 再びクルリと首を戻したミミズクは、何やら羽ばたこうとして店員がなだめている。


「元気だなぁ、こいつ」


「夜行性なのに、活発なんですね」


「もしかして、ミロク君のところに行きたいんじゃない?」


 それならばと、少し離れた場所にいた女性店員が革の手袋を持ってくる。どうやらある程度大きいフクロウやミミズクの爪は、かなり鋭いらしい。


「この子、名前はなんですか?」


「サスケです」


「他にもサブロウ、ユキムラ、ムサシ、ソウジ……などですね」


「時代があっちこっち飛んでますね……」


 笑顔の店員二人にミロクは苦笑しながらツッコミを入れると、そっと手に乗ってきたサスケを撫ぜる。羽毛の肌触りの良さと、ほんのり温かい生き物の体温に彼は自然と笑顔になる。


「ぐっ……」

「かはっ……」

「……まだ、まだやられんよ」


 ロケ班の撮影スタッフたちから、バトルもののラノベのようなセリフが聞こえてくる。きっと彼らにとって何かとの戦いなのだろう。かなり辛そうな表情だ。

 そんな彼らの攻防(?)はさておき、シジュの頭には手のひらサイズのフクロウが乗っており、ヨイチの腕にはサスケよりひと回り小さいフクロウが目を瞑ってジッと動かずにいる。


「ヨイチさんの子は寝ちゃってますね」


「シジュのところのは……あれ、増えた?」


「こいつら、ひとの頭をなんだと思ってんだ」


 気がつくとシジュの頭にはフクロウが三羽に増えており、何やら楽しそうにしている。今日のシジュは頭にタオルを巻いていたため、頭皮にダメージを負うことはなかった。小さくても爪は鋭いフクロウと触れ合う時は、皮膚の柔らかい部分に乗せない方が良いと店員が言う。


「おい、なんで乗せたんだ」


「すみません。勝手に飛び移ってしまって……」


 足に細いリードをつけているのですぐに戻すことができるが、すごく嬉しそうにしているため、ついそのままにしてしまったらしい。確かにシジュの頭の上を占拠する小さきもの達は、ふわりと羽毛を膨らませてどこか機嫌が良さそうだ。


「やっぱり登りたくなるんですかね」


「小さいっつっても、こいつら子どもじゃねぇだろ」


「動物は別なのかな? 検証が必要だね」


「すんなっ」


 言い合うヨイチとシジュの横で、ニコニコしつつサスケを撫でていたミロクだが、ふと思いついて指を羽毛の中に「もふっ」と入れていく。


「ちょ、おい!!」


「ミロク君!?」


 慌てるオッサン二人を気にすることなく、羽毛の中に沈ませた指をそっと抜き取りミロクはコクリと頷いた。


「やっぱり体は細身なんですねー」


「びっくりしたよ……」


「どこまでも指が入っていく絵面がヤバかった……」


 ミロクに撫でられるのが心地良いのか、特に嫌がる様子もなくサスケはうっとりとした表情で静かにしている。人だけではなく、動物にまで通用するフェロモンは相変わらずな『344(ミヨシ)』だった。







 撮影が終わり、ひと足先に店外へ出たミロクは、外で待っているフミの隣に大柄の男性が立っているのを見て顔をしかめる。しかしすぐにミロクは男の正体に気づいた。


「ええと、お久しぶりです」


「あら、お久しぶりミロクちゃん。元気だった?」


「その姿でオネェ言葉は、違和感しかないですね」


「うふん、あのキャラは目立つからしょうがなく地味にキメてきたのぉん」


 外国人格闘家のような体格をクネクネと動かすのは、いつものオレンジスーツではないプロデューサーの尾根江であった。ダークグレーのスーツに身を包み、黒髪はきちんと分けられいかにも「サラリーマン」といった雰囲気を出している……つもりらしい。

 その体型で普通を出せるのかは不明だが、あの目立つオレンジスーツではないだけで、かなり普通に見えるのは確かだろう。


「ヨイチさんに御用ですか?」


「いいえ、今日は『344(ミヨシ)』に話があって来たのよ。ふふ、悪い話じゃないわ」


 ミロクの横で思わず身構えたフミを尾根江は微笑ましげに見る。そんな彼の視線に少し顔を赤らめつつ、フミは軽く咳払いをしてから口を開く。


「この後の予定は無いと思いますが、社長に確認しておきます。どちらに向かえば良いですか?」


「そこのホテルに部屋をとっているわ。用意できたら連絡してと伝えて」


「分かりました」


「よろしくね」


 そう言うと尾根江はすぐそばに停まっていた黒光りしている外車の後部座席に乗り込むと、颯爽と去って行った。いつにも増して強引な尾根江の様子にフミは少し疑問に感じつつも、同じく首を傾げるミロクを促してヨイチとシジュの元へと向かうのだった。





お読みいただき、ありがとうございます。


もふもふ感が足りない気がします。

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