218、美海のメロンと愚か者達。
活動報告にお礼を載せてます。
よろしくお願いします。
慌てて戻ってきたフミのただならぬ様子にヨイチは少し顔を険しくさせたものの、姪の後ろにいる美少女を見て驚いたように目を見開く。
動物番組のロケ用の衣装であるジャージに着替えた三人は、事務所の車に乗り込んで待っていた。助手席にいるヨイチはそのまま窓から身を乗り出す。
「フミ、こっちは準備できているけど……美海ちゃん久しぶりだけど、どうしたの?」
「そこのコンビニで偶然会ったんです。社長と少しだけ会えないかと言われまして……」
「ロケの時間が迫っているから、別の日に時間をとるというのはダメなのかい?」
「あの、美海ちゃんが『ミクロットΩ』の舞台に出るらしいんです」
「え!?」
「マジかよ!!」
フミの言葉に、たまらず後部座席から外に飛び出すミロクとシジュ。
先日、ヨイチの元に来た高本の話を聞いていたものの、それなりに愛着のあるアニメ『ミクロットΩ』の配役は気になっていた。そこに美海がキャスティングされていると知れば、黙って聞いてはいられない。
驚くオッサン三人を見て、美海は表情を変えずに頷く。
「私は主人公三人の少女の内の一人に抜擢されました。メロン役です」
「え……メロン?」
「メロン役……だと?」
おののくミロクとシジュの横で、ヨイチとフミは「どんな子だったっけ?」と首を傾げつつ思い出そうとする。イチゴ、ミカン、メロンという三人の少女がいて……。
そんな彼らの前で眉間にシワを寄せた美海は、両腕で胸あたりを隠して身をよじる。
「ミロクさん、シジュさん、失礼です。訴えます」
「いや、だって、メロンちゃんはメロン持ってるし……」
「んだな。あの殺人的なメロンはリアルじゃ無理だ」
メロンを連呼する弟二人を見てヨイチは思い出す。主人公の少女三人は中学生の設定だが、その中でもメロンはありえないくらいの巨乳なのだ。ちなみに美海のメロンは成長期は終わっていないものの、アニメのメロンになるには時間も素質もたっぷりと必要であろう。
美海の様子に事態を理解したフミは、一気に氷点下になった視線でミロクとシジュを半眼で見る。
「最低ですね」
「ひっ……」
「こわっ……」
一気に冷え込む周囲の空気に震え上がった二人は、慌ててヨイチの後ろに隠れる。
「もう! 女の子に失礼ですよ!」
「愚かですね。男どもは」
訴えるなどと言っていた美海だが、フミの言葉に傷つき膝をつくミロクとシジュを見て溜飲を下げたようだ。ヨイチは苦笑して口を開く。
「まぁ、許してやってよ美海ちゃん。ほら、フミも頬をそんなに膨らましたら戻らなくなるよ」
「宰相様にそこまで言われては、許すしかありませんね。以後、気をつけるように」
「……はい」
美海の寛大な「お言葉」に、フミも渋々彼らの暴言を許すことにする。それでも何故世の中の男性の多くは、女性のその部分に大きく反応するのかとため息を吐く。
「それよりも宰相様、舞台のアドバイザー高本さんから話を聞かれましたか?」
「聞いているよ。こちらもちょっと考えがあるから大丈夫」
「分かりました。もう手を打っているとは流石宰相様ですね」
「まぁ、僕から何かする前に動いている人もいるだろうし。ありがとうね」
「い、いえ、それでは失礼いたします」
切れ長の目を細め、温かな笑みを浮かべて礼を言うヨイチ。そんな彼から視線を外した美海は、少しだけ頬を染め優雅にお辞儀し、その場を去る。彼女を見送るオッサン三人と女子一人だったが、ヨイチ以外の表情は険しかった。
「またヨイチさん、志摩子さんに続いて女性を落としてますね」
「何やってんだか」
「社長、最近油断しすぎです」
「なんで僕が怒られているのか、訳が分からないんだけど……」
ミロク達の反応に理不尽だと言いながら車に乗り込むヨイチだったが、ロケ現場に向かう車中では舞台について動くべきかとつらつら考える。
「ヨイチさん」
「なんだいミロク君」
「考えがあるんですよね。だったら動きませんか?」
「うーん、考えはあるんだけど、誰に頼もうかと思ってね」
「俺らには言えないんですか?」
ヨイチはバックミラー越しに後部座席のミロクを見る。心配そうに兄を見る弟の、八の字になった眉毛に思わず吹き出す。
「あはは、ミロク君、面白い顔になっているよ」
「酷いですヨイチさん!!」
「ごめんごめん、じゃあロケが終わったら飲みに行こうか。シジュもほら不貞腐れてないで機嫌を直してよ」
「別に不貞腐れてねーし」
窓の外を見ているようで、ヨイチとミロクの会話に意識を向けていたのがバレバレだったシジュに、ミロクはクスクス笑う。
「シジュさんは不貞腐れてるんじゃなくて、心配してたんですよねー」
「あ! ミロクてめぇ! 勝手なこと言いやがって!」
「いひゃいいひゃい! やめへくらふぁい!」
ミロクの両頬を指で摘み、乱暴にみょんみょんと伸ばすシジュ。そんな弟二人に兄は笑顔を見せ、フミもたまらず吹き出した。
やけに伸びるミロクの頬を散々弄んで満足したシジュは、息を切らして涙目になったミロクの色香にやられるという彼の「無意識の逆襲」を受けつつ、ロケ現場まで思わぬ苦行を強いられるのであった。
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