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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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252/353

216、モデル仕事前の三人と、ファミレスでの一幕。

書籍に付く特典について、活動報告にお知らせがあります。

よろしくお願いします。

 雑誌モデルの仕事は、意識的に『344(ミヨシ)』三人で受けることをしていなかった。三人の都合を合わせるのはテレビ関係の仕事が多く、そうなると他の仕事はどうしても個人で受けた方がスケジュール調整をしやすかったのだ。

 しかし、今回は急きょ『LION』という男性雑誌の仕事を受けることになったと、ヨイチはなぜか楽しげな様子でフミに告げた。


「嬉しそうですね。社長」


「まぁ、三人でモデルの仕事って久しぶりだからね。ミロク君の成長を感じたり、シジュのモデルの仕事っぷりを見たりとか、普段あまりできないから楽しみなんだ」


「午前中に雑誌の撮影で、その後にタムラ動物パラダイスのロケになります。こちらとしては調整しやすかったのですが、今回ずいぶんと急なオファーでしたね」


「例の編集の川口君に頼みこまれたんだよ。専属の外国人モデルが、恋人にフラれたとか言って使い物にならないらしいよ。国に帰るとか言って引きこもっているって」


「専属って、あのイタリア人の……?」


「幸い表紙にする分はあるみたいだけど、中に入れる分が足りないみたいなんだ」


「なんか、こう、情熱的なんですね。イタリアの方って」


 デスクに出してある書類をまとめているヨイチの横で、フミもノートパソコンの電源を落としてパタリと閉じる。しばらく無言だった彼女は、目線を落としたまま口を開く。


「高本さんの話、どうするんですか?」


「どうするって言ってもねぇ……彼のこだわりは分かるけど、こればっかりは……」


「まだ、企画段階なんですよね?」


「そうだね。まだ公開もされていない。キャストも決まっていないからね。……ふむ。そうか」


 フミの言葉を受けて、ヨイチは何やら考え込む。カジュアルなスーツをラフに着こなし、物憂げに切れ長の目を細める叔父の姿を見て「やっぱり格好良いなぁ」と思うフミ。


「おはようございまーす!」


「うぃーっす」


 そこに元気良く挨拶するミロクと、気だるげなシジュが事務所に入ってくる。入り口近くに受付としているスタッフから黄色い声が上がるのはいつものことだ。それなりに慣れてはいても、フェロモンダダ漏れなミロクとオッサンの色香を全面に出しているシジュの二人を相手するのは、女性にとっては色々と大変だろう。


「さて、行きますよ社長! ほらほら、ミロクさんもシジュさんも事務所から出てください!」


 ここは早々に出た方が良いだろうと、フミは考え込んでいるヨイチを無理やり引っ張り出す。そんなマネージャーにミロクは花咲くような笑顔を見せ、そんな彼らを見てシジュは意味深に微笑んだ。


「そんな急がなくてもいいだろう、フミ」


「今日は受付がバイトの子なんですよ。毒にしかなりません」


「俺らは毒かよ……」


「毒……」


 マネージャーに「毒」とキッパリ言われ、少し落ち込みながら車に乗り込むオッサン三人であった。







 近所のファミレスにて、フミの友人である真紀は熱心に書き物をしている。

 サラサラと書くその文字をしばらく見ては消し、また書き始める。そんな彼女を向かい合わせに座っている男性は、文字の書かれた紙を熱心に読んでいた。茶髪にメガネをかけた青年は、今をときめく人気声優の大野光周である。


「それ、台本?」


「そう。次のアニメのやつだよ」


「見して」


「ダメ」


 そんなやり取りしながらも、二人の目線が交わることはない。彼らが今やらなければいけないのは、ネームをきることであり、台本を読み込むことであるからだ。

 特に真紀は人気同人作家であるのだが、最近は商業誌からの仕事も受けるようになっていた。もちろん内容はBLボーイズラブの二次創作ものである。


「あのさ、アニメ『ミクロットΩ』の三期とかやんないの?」


「そんなの言えるわけないでしょう。アニメは知らないけど、舞台とかはあるんじゃない?」


「は?」


「ほらほら、手が止まってるよ」


「そうじゃなくて、言っていいの? そういうの」


「ダメ」


「ダメじゃん!!」


 思わずツッコミを入れる真紀に大野は台本から視線を外し、彼女を見てふわりと微笑む。


「誰にも言わないでしょ? makimaki先生は」


「まぁ、そう、だけど……」


 思わず火照ってしまった顔を誤魔化すように、顔を伏せてネームの続きをやる……フリをする真紀。


「やっぱり先生は可愛いなぁ」


「そういうのはやめて」


「ハイハイ」


 クスクス笑いながら再び台本に目を落とす大野。そんな彼に向かって真紀は思いっきり睨みつけるも、赤くなった頬と潤んだ瞳では攻撃力がまったくない。


「……先生、その目は……やめて……」


「へ? そう?」


 訂正。大野に効果は抜群にあったようだ。


「そうそう。その舞台ってやつは、どこからの情報なの?」


「高本さんだよ。騎士役やった人」


「それは知ってる。オタク舐めんな」


「いや、むしろ舐め……いや何でもないです。高本さん舞台のアドバイサーやることになったらしいんだ。あの人元々舞台出身だから、こういう時によく呼ばれているよ」


「へぇ、そっちは知らなかった」


 大野の前半の言葉を受けて殺気を放った真紀だが、高本に関する新しい情報を得てオタク心を満足させたのか素直に頷く。そんな彼女に大野は密かに安堵した。


「キャスティングとか決まっているの? いや、言わなくてもいいけど」


「うーん。決定ではないけど、どうやらシャイニーズで固めていきたいみたいな話になっているみたいで……」


「はああぁぁああ!?」


 ファミレス内を響き渡る真紀の声に、周りから一斉に注目された二人は、慌てて「すみませんすみません」と言いながら頭を下げたのだった。



お読みいただき、ありがとうございます!

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