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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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248/353

213、着物イベントの歌ステージ。

活動報告にオッサンアイドルの発売特典情報などを載せています。

あと、PV作ってもらいました。


‪『オッサン(36)がアイドルになる話』6/30発売PASH!ブックス最新刊 https://youtu.be/C82brRLtQR8 @YouTubeより‬

 推しアイドルである『ぬこたんず』の応援に行くということで、ミロク達に挨拶をすませた佐藤は早々に控え室から去る。その後ろ姿を見送った遠野は、サイン色紙を風呂敷で丁寧に包むとため息を吐く。


「ああ、残念です。先ほどの方に玄武を着てもらえたら、シリーズが揃ったのですが……」


「後藤さんですか?」


「佐藤さんだよミロク君。確かに彼は背も高いし、良い体をしていますけど……まぁ、色々と忙しそうでしたから」


「そうですよね。急に着物を着てくれと言われても困りますよね。今回は『344』の皆さんに合うように仕立てたので、高身長じゃないと着こなせないんですよね」


「なるほど。確かに僕らに合わせるとそうなっちゃいますよね」


 苦笑しながら遠野と話すヨイチは、「それよりも……」とミロクとシジュを見る。


「この後のステージは歌だけど、ミロク君大丈夫?」


「ロボットボーカル曲の『桜花さくらばな』は、俺のカラオケの十八番なんで大丈夫です! ……振り付け不安ですけど」


 ウィッグの髪をもてあそびながら、ミロクは唇を尖らしてシジュを軽く睨んだ。


「やめろ。そんな目で俺を見るな。無駄に色気を出すな」


「振り付けはシジュさんじゃないですか。あと色気は出してないですよ」


「はいはい、そろそろ出番みたいだよ。フミ、ちょっと頼みがあるんだけど……」


 ヨイチは軽く手を叩いて弟二人の気を引き締める。そしてフミに向かって何事かを話しているのは、会場に響く和太鼓の音でかき消される。『344(ミロク』のステージの前に『カンナカムイ』が和太鼓のショーを行なっているのだ。そこにはダンサーではない志摩子の太鼓を叩く姿があった。


「チマ子も色々と頑張ってたんだなぁ」


「そうですね。『踊ってみよう』でも人気のグループですし、あのサイトで人気をとるには試行錯誤を繰り返してパフォーマンスしていたんでしょう」


「俺らはポッと出で再生回数すげぇことになってたよな。マスクしてジャージで踊ったやつ」


「あの『TENKA』の動画は、彼らの人気もあるからですかね」


「んだな」


 イベントスタッフに衣装を直されつつ、ミロクとシジュは軽口を叩く。その一部始終を、少し離れたところから遠野は見ている。自分のデザインした衣装を美しく着こなすミロク達の姿に、彼はとても満足していた。







  桜ひとひら 君に散る

  運命さだめと共に 流れゆく

  今一度ひとたびと 君に問う

  想いを知るは 桜花さくらばな


 複雑な音階のメロディを朗々と歌い上げるミロクは、片手で扇子をひらりひらりと躍らせる。

 両側にいるヨイチとシジュは、先ほどとは打って変わって日本舞踊を連想させるような踊りだ。しっかりとした体躯の二人が扇子を使い繊細に舞う様子は、いつもとはまた違う色気で観客をうっとりとさせている。


  巡る季節に 狂い咲く

  薄紅色に 覆われて

  君差し伸べた 白き手を

  振り払うは 想うが故


 和太鼓の音と共に扇子を開き、花が咲く様子を表したかと思うと、パシンと閉じて鋭く切るような動作をし、ゆっくりとターンをしつつ横に向けて再び扇子を開いてゆく。

 和のメロディは、和楽器の神秘的な音色で会場に響き渡る。ひとつひとつの動作を、扇子を使って流れるように舞う三人は、立ち姿だけでも美しい。腰を落としたままの、ゆったりとした動作でブレないのは、鍛え上げた体幹のおかげだろう。

 歌っていたミロクが間奏部分で舞に加わり、その揃った扇子さばきに観客がどよめく。


(何とかなった……って、あっ!!)


 複雑な振り付け部分を踊りきった安心感からか、くるりと回した扇子がミロクの手から飛んでしまう。やってしまったと焦る彼の扇子は、そのまま客席に向かって落ちていく。

 すると、後を追うように二つの扇子が投げ込まれ、受け取った観客の喜ぶ声が聞こえる。


(ヨイチさん! シジュさん!)


 自分の失敗をフォローされたと気づいたミロクが振り返ると、微笑むヨイチの隣でニヤついているシジュが声を出さずに「上を脱ぐぞ」と言ったのが見えた。


(え!? 脱ぐの!?)


 後ろを向いた三人のオッサンは同時に両腕を懐に入れると、和太鼓の一打と共に思い切り腕を振り上げる。

 鍛え抜かれた背筋は汗に濡れており、ライトの光で陰影がくっきりと出ている。そのまま振り向く三人の美丈夫に息を飲む観客達。

 露わになった胸筋から綺麗に割れた腹筋は、帯にとどまった着物のせいで全ては見えないが、そのおかげで被害は最小限に抑えられたというのは後で聞いた話である。

 会場に響き渡る悲鳴と湧き上がる熱気。前列にいる妙齢の女性達はよろめきながら、皆タオルを口元に当てている。

 思わぬサービスショット?に、阿鼻叫喚の観客席。


(なんか、恥ずかしい!!)


 新人アイドルは何でもやらなきゃダメなんだ……と、ミロクは内心涙目になりつつ笑顔で続きを歌っていた。しかし、上半身裸になるというパフォーマンスは、単にシジュが悪ノリしただけである。

 ちなみにヨイチは、自分の筋肉美を周りに知らしめることが出来て満足げな顔をしていた。







「おい、オッサン」


「ん? 何だいシジュ」


「プロテイン禁止って言ったよな」


「……な、何のことかな。飲んでないよ?」


「オッサン、プロテイン入りの菓子とか食っといて、飲んでねぇからいいだろうとか言ったら……」


「ごめんなさい」


「ダメですよヨイチさん。シジュさんの言うこと守らないと」


「ミロク。お前はトレーニング追加。脇の肉が付いてんぞ」


「ええ!? そんなぁ!!」


 出番が終わり、控え室では早速反省会は始まり、客席だけではなく舞台裏でも阿鼻叫喚となっていた。


「何やってるんですかね。あの人たち」


「すいません。いつもあんな感じで……」


「ヨイチさん、素敵な筋肉でふ……」


 ワチャワチャするオッサン三人を冷めた目で見る『カンナカムイ』の神無と、マネージャーのフミ。そして一人目をハートにしている志摩子に、フミは言い知れぬ不安を感じていた。




お読みいただき、ありがとうございます。

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