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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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238/353

203、久しぶりの逢瀬と夜の街。

活動報告でもお知らせしてますが、オッサン三人がインタビューされている記事が

6/16発売予定の2D☆STAR Vol.7に掲載されます!

もしよろしければー、で、ございます!(*´∀`*)

 喫茶店の中に大きなスーツケースを持ち込んだミハチは、それを店員に預けると同時に注文も済ませ、ヨイチの座っているいつもの窓際の席へ行く。彼女の服装はキャミソールに夏用のニットカーディガンとジーンズを合わせたカジュアルなものだ。


「久しぶりに会えたのに、あまり時間がなくてごめんなさい」


「いや、僕の方こそ最近バタバタしていたから、なかなか時間が合わせられなくて。今日も無理に時間を作ってもらっちゃって申し訳ないね」


「夜のフライトで良かったわ。出発前に少しでも会えたし……」


 そう言って、少し照れたように微笑むミハチをヨイチは愛おしげに見る。ここが公共の場でなければ、キスの一つや二つ……いや、それではすまなかったかもしれない。危ないところであった。

 そういう気持ちを一切表には出さず、ヨイチは穏やかな表情のまま口を開く。


「ミハチさんがそんな可愛いことを言うなんて……見送るのが辛くなるよ」


「一週間で帰ってくるわよ。月末は休みを取れそうだから、例の着物のイベントとやらを、こっそり見に行こうかと思っているの」


「ミロク君には内緒なのかい?」


「ふふ、だってあの子恥ずかしがるんだもの。変に緊張させたら悪いでしょ?」


「弟思いだね」


 今度は悪戯っ子のような笑みを浮かべるミハチ。くるくると表情を変える彼女を、ヨイチは楽しげに見つめる。二年前に会った頃は話しかけてもほとんど笑顔を見せなかった彼女が、ここまで表情を変えるようになったのは嬉しいことだと彼の笑みは自然と深まる。

 すると、胸ポケットに入れていた携帯が振動し、ミハチに「ちょっとごめん」と言って取り出したヨイチは、画面を見るなり盛大に顔をしかめてみせた。


「どうしたの?」


「シジュからなんだけど、ミロク君を夜の店に連れて行きたいって……まったく」


「夜の店って……キャバクラとか? フミちゃんが怒るんじゃない?」


「それは平気だと思うよ。連れて行って良いものかな」


「私もそうだけど、あなたも大概過保護よね。あの子もオトナなんだから行くのは自由でしょ。まぁ、一応『アイドル』をやってるから、ヨイチさんの許可は必要かもしれないけど」


「確かにそうだよね。なら大丈夫かな」


「ええ。ミロクをよろしくね、ヨイチさん」


「ん? 僕もついて行くの?」


「当たり前でしょ。シジュさんだけだと不安じゃない」


 過保護に関してはミハチも人のことを言えないだろうと、彼はオトナだから口には出さない。ただ笑顔で承諾するヨイチであった。







 翌日、準レギュラーの動物番組ロケを済ませた三人は事務所で着替えると、途中ミロクの妹ニナの勤める美容院に寄る。そこでノリノリで髪をセットしてくれたニナに見送られ、夜のネオンきらめく繁華街へと繰り出した。


「ねぇ、シジュ。一つ聞きたいんだけど」


「なんだよオッサン」


「このテラッテラでド派手なスーツは、僕らが着る必要あるの?」


「ですよね!! 俺もおかしいなって思ってたんですよ!!」


「ミロクはともかく、なんでオッサンはここに来るまで黙ってんだよ。もっと早くつっこめよ」


「いや、ミロク君もシジュも着てるし、僕だけ着ないのも寂しいなって思って」


「寂しがりだな、オッサン」


「シジュさん!! 着替えましょうよ!! なんかすごい見られてて恥ずかしいですよ!!」


「見られんのはいつものことだろが。気にすんなー、行くぞー」


「シジュさーん!!」


 涙目のミロクの服装は、ラメ入りシルバーのスーツに白のエナメルの靴、シャツは黒で胸元は大胆に開けてシルバーのアクセサリーを着けている。

 対して兄の二人は黒のスーツに黒の革靴。しかしシャツをヨイチは青、シジュは赤である。

 白系を着たミロクの左右をヨイチとシジュが固める。さながら王子と従者二人といったところだろうか。

 道を歩く三人を通りすがる人々は振り返り、唖然としたように見送っている。遠巻きに見ている女性たちも皆一様に顔を赤くしており、店の前に立つ店員たちも驚いた顔でオッサン三人を見ていた。


「出勤途中のホスト三人ってところだね」


「いやいや、ナンバーワンに付き添う格下二人ってところだろ」


「年齢が年齢だし、ちょっとそれはキツいんじゃない?」


「二人とも楽しんでないで、着替えましょう!!」


「ミロク」


 ふと真剣な顔で見つめてくるシジュに、思わずドキッとするミロク。


「黒服の仕事っぷりを見たいなら、このままで行くんだ」


「シジュさん……?」


「この方がきっと楽しいぞ。……俺が」


「シジュ、君が楽しくてどうするんだ。せめてミロク君は楽しませてやってくれよ」


 ため息を吐きながらシジュを諫めるヨイチの横で、呆然とシジュの言葉を聞いていたミロクは、みるみる目を輝かせる。そんな彼の変化に、何かを感じで若干後ずさりするシジュ。


「シジュさん!! 俺の……俺のために!! 嬉しい!! 嬉しいです!!」


 シジュの言葉を最後まで聞いていなかったらしいミロクは、感極まった様子で彼にすがりつく。


「わ、わかった! わかったから! だからその目で俺を見るな近づくなフェロモン混じりの吐息を漏らすな!!」


 じゃれ合う二人の様子を苦笑して見ていたヨイチだが、周りの視線を感じて手を叩く。


「はいはい二人とも、早く行こう。ここで騒いでいたら迷惑だよ」


「すいません!」


「へーい」


「シジュ、後でお仕置き」


「何でだよ! ……っと、着いたぞ。ここだ」


 なんだかんだ話しながら三人が到着したその店の外観は、一見普通のバーにも見える。しかし扉の向こうで待ち構えているのは、着飾ったスーツ姿の男性がずらりと並ぶ壮観なものであった。

 そしてその全員が右手を差し出し、一斉に声を出す。


「いらっしゃいませーーーーー!!」


 一番手前の若者が、爽やかな笑顔を浮かべたまま一歩前に出る。


「ようこそいらっしゃいました。初めてのホストクラブとのことですので、僕がご案内しますね。そしてお久しぶりです。シジュさん」


「ん? 久しぶり?」


 名を呼ばれたシジュは、彼の言葉に首を傾げる。


「約束どおりナンバーワンになりましたよ」


 金髪の前髪をサラリと指先で払う彼は、先ほどとは違う少年のような笑顔をみせた。




お読みいただき、ありがとうございます。

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