201、繋がる仕事。
ワンクッション。
「着物のイベントですか?」
昼下がりの会議室に打ち合わせとして集まったオッサンアイドル三人は、前日のラジオの話もそこそこに、ヨイチから新しい仕事について聞くことになった。
その内容に、ミロクは少し驚いた顔をする。依頼主は京都の老舗着物メーカーであった。
「例のごとく、尾根江プロデューサーの気まぐれなのか計算なのか。まぁ今回は前者だろうね。『和の着物イベント2017』という企画があるんだけど、そこでのショーに呼ばれたんだよ」
「チ……志摩子達と舞台に立って、それを尾根江プロデューサーが見たからか」
「彼ら『カンナカムイ』のおかげで、お仕事が来たって事ですか?」
「きっかけはそうだけど、そもそもイベントのスポンサーをしている会社のお嬢さんが僕らを知ってくれててね。まぁ色々重なった結果ってところかな」
「俺らが断ったら、あいつらの仕事は無くなるってことか?」
「可能性は高いかもね。着物イベントのスポンサーは和楽器の伝手に事欠かないだろうし。関東で活動している和楽器演奏でダンスするというだけではインパクトが少し弱いかもね」
すったもんだがあった先日の『祭り』終了後、締めのミロク・フェロモンを全員が受けたところで、志摩子達とはとりあえず後日に改めて話をしようということになった。
『カンナカムイ』はダンスなどのパフォーマーやお笑い芸人が多い芸能プロダクションに所属しているらしく、344(ミヨシ)に対して相手の事務所から謝罪の連絡が入った。
如月事務所として実害があった訳ではないので、志摩子はマネージャーから「以後気をつけるように」という注意だけで済んだが、彼女が本当に反省しているかどうかは不明である。きっとリーダーの神無が彼女を見張る事になるだろうと思われる。
「俺は別に良いと思うんですけど、何か心配な事でもあるんですか?」
「お前、この間散々暴走しといて何言ってやがる」
「シジュのことも心配だけど、僕が一番心配しているのはミロク君だよ。大丈夫なのかい?」
「まぁ、俺には志摩子さんの気持ちも分かりますからね。でも、可愛くて愛らしいフミちゃんに嫌な思いをさせたことは、子々孫々にまで後悔させてやろうと思いますけど」
「全然大丈夫じゃねぇだろが!!」
「あはは、冗談ですよ。子々くらいで許しますよ」
「全然冗談に聞こえないよミロク君!!」
そこまで会議室のエアコン設定温度を低くしていないはずだが、室温が少し下がった気がしたタイミングでドアをノックする音が聞こえる。給湯室から戻ったフミが温かい紅茶を淹れてきたらしい。出来たマネージャーである。
「社長、それで着物のイベントの仕事を受けるんですか?」
「そうだね。一応そうしようかって話になっているよ」
フミの言葉にヨイチは答えると、ミロクとシジュの顔を見た。二人ともコクリと頷くのを見ると「じゃあ受けようか」と小さくため息を吐く。
「どうしたんですか?」
「ああ、いや、ちょっとね。じゃあ仕事の概要を説明しようか」
少し疲れた様子のヨイチをミロクは不思議そうに見ながらも、フミの用意してくれた企画書に目を通すのだった。
小さな女性を交互に抱き上げる三人の美形オッサン達。これはまたえらいことをやらかしたなと、ニナはパソコンの画面を見ながら少し笑う。
画面の中の兄は辛そうな顔を少しも見せずに、ずっと笑顔を観客に向けていた。
「休みなく、この後の自分達の舞台もこなしたんだ。お兄ちゃん結構体力ついてきたみたいだけど……」
終わった瞬間、ヨイチとシジュに肩を組まれたミロクは、さすがに足の震えが出ている。それを見てつい吹き出したニナは、部屋のドアをノックする音にびくりと体を揺らす。
「ニナ、ちょっといい?」
「い、い、いいよ! 入って!」
慌ててパソコンの画面に違うウィンドウを開き、声の主である姉のミハチを部屋に入れる。パソコンの前にいる妹を見て少し目を細めたものの、ミハチはそのまま話し出す。
「悪いけど、一週間くらい出張に出るから」
「え? 最近多いね。今度はどこ?」
「シンガポールよ。お土産期待してて」
どこか疲れたように言う姉のミハチを、ニナは気遣わしげに見る。
「姉さん、最近ヨイチさんに会ってる?」
妹の言葉に寂しげに目を伏せつつ、ミハチはそれでも笑顔を見せる。そんな姉の姿に、心の中で某オッサン社長をシメる算段を心の中でつけるシスコンのニナ。
「まぁ、しょうがないわよ。お互い忙しいし……それよりもミロクの動画を私にも見せてよ。パソコンが今手元にないのよね」
「な、なんで! スマホで見ればいいでしょ!」
「大きい画面で見たいし、すぐ動画出せるでしょ?」
「んぐっ……しょ、しょうがないな……」
ブツブツいいながらも、素早くパソコンを操作し『祭り』の配信動画を再生させると、画面の中で汗だくになっているミロク達が笑顔で手を振っている。
「やっぱり見てたんじゃない」
「べ、別にいいでしょ! ほら、お兄ちゃん達の衣装が今回前が開けっぱなしになってるよ!」
「凶器ね」
「だよね」
「あら、ヨイチさんちょっと筋肉つけすぎてるんじゃないのかしら?」
「姉さん……そんな細かい所まで……」
「ミロクの脇腹、ちょっとキレが甘くなってない?」
「あ、本当だ」
オッサン達の知らない所で、着々と筋肉の良し悪しが分かるようになっていく姉妹。
この後、のんきに鼻歌を歌いながら帰ってきたミロクは、姉と妹から自分の筋肉についてダメ出しをくらい、電話でシジュに泣きつくのであった。
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