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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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232/353

200、神無の疑問と弥勒の見解。

 ふらふらと足を引きずりつつ戻ってきた志摩子を、ダンスチーム『カンナカムイ』のメンバーはそれぞれ嫌な予感と共に迎え入れる。控え室は大部屋で数組のダンスチームが寛いでいたが、それぞれチームごとに先ほどの舞台の出来について盛り上がっていたため、他のチームの異常に気づく人間は居ないようだ。

 大柄な男性が志摩子を部屋の隅にある椅子に座らせると、自分もしゃがみこんで彼女と目線を合わせる。


「で? 今度は何をやらかしたんだ?」


「や、やらかしてない、よ?」


「嘘をつくな。お前の事だから余計な事を言ったんだろう」


「う、ううううるさい神無かんな!! 年下のくせに!!」


「ならもっと年上らしくしろ。そして何をやらかしたのか話せ。リーダーは俺だ」


「うぐっ……」


 このチームの中での最年長は志摩子だが、リーダーは神無かんなと呼ばれた大柄な青年である。和太鼓の担当であり、ダンスもこなす彼はずっとこの『カンナカムイ』を率いてきた。そんな彼に逆らえない志摩子は渋々口を開く。


「……あのミロクって子を欲しいって言った」


「……はぁ? 嘘だろ?」


「だ、だって、皆が欲しいって言ってたじゃん!」


「お前なぁ、あの人達はプロなんだぞ?」


「それが何よ!」


「プロってことは、ちゃんと事務所に所属していてデビューもしている人って事だ」


「そう! それよ! ミロクって子の年齢がさぁ!」


「俺の年齢が何ですか?」


 艶やかなテノールの声にビクリと身体を強張らせる志摩子を見て、神無は訝しげに声が発した方向を見る。そこには気怠げに壁に寄りかかる、やけに色っぽい黒髪の男性がいた。その表情は淡く微笑んでいるものの、目だけは底冷えするような光を宿している。思い当たる名前はあるが、そのあまりにも舞台と違う彼の様子に神無は自信なさげに問う。


「あの、もしや、344(ミヨシ)の……ミロクさんですか?」


「はい。ミロクです。先ほど舞台では乱入失礼しました」


 そう言ってにっこり微笑むミロクだが、目は冷え切ったままだ。彼の様子に、神無は志摩子の「あの子が欲しい」発言を思い出し、慌てて頭を下げる。


「すみません! こいつさっき変な事を言ったみたいで……あの、皆であの舞台が楽しくて話してただけで、本気とかでは……」


「分かってますよ。志摩子さんが本気じゃないという事は」


 ミロクの言葉にホッとする神無だが、次の言葉に再び固まる。


「だって志摩子さん、本当は俺じゃなくてシジュさんを引き抜きたかったんでしょう?」







「ん? ミロクはどうした?」


「おかえりシジュ。ミロク君はトイレだって言ってたよ。……フミはどうしたのかな?」


 控え室に戻ったシジュの後ろにいるフミを見ると、心なしか顔色が悪く見えたためヨイチは声をかけるが、彼女は無言で首を振るだけだ。そんな姪の様子にヨイチはシジュに目をやると、やれやれと言った感じで話す。


「チマ子……さっきの『カンナカムイ』の志摩子が、ミロクが欲しいってマネージャーに言いやがったんだ」


「はい? それは引き抜きってことかい?」


「だな。何か嫌な予感がしてついて行ったが、あんな事言うとはなぁ」


「そうか……あれ? 二人はミロク君とすれ違ってないのかい?」


 ヨイチの言葉にフミはハッと顔を上げると、慌てて控え室を出て行く。ポワポワ頭を振り乱して走って行く小さなマネージャーを、オッサン二人は苦笑して追いかけるのだった。







 凍りついたような無表情になる志摩子の様子に、神無は疑問と戸惑いを感じていた。どんな時でも表情豊かなのが彼女の常であったはずだ。それが今、崩れてしまっている。

 志摩子が学生時代に組んでいたダンスチームは『伝説』と呼ばれ、一時代を築いたチームだった。舞台が終わり344(ミヨシ)のメンバーの一人、シジュだと聞き驚いた。それでも確かに彼らのダンスは素晴らしいと神無は思ったし、彼の『伝説』についても納得した。

 メンバーは皆、メインボーカルのミロクが加われば最強だなどと話していた。志摩子もそうだと同調していたはずだ。

 それなのになぜダンサーのシジュを引き抜きたいと思ったのだろうか。今の『カンナカムイ』に彼は必要だと彼女は考えるだろうかと、神無は疑問に思う。

 そんな彼の横で、志摩子はオドオドしながら話し出す。


「シジュを引き抜きたいなんて……そんな……」


「そうですね。引き抜きたいなんて思ってなかった。だって志摩子さんはシジュさんを困らせたかっただけだから」


「…………」


 黙り込む志摩子に向かって、ミロクは続ける。


「俺を引き抜きたいというのも本心だとは思いますけど、根っこの部分で違和感があったんですよね」


「……なんで分かったの?」


「そりゃ、決まってるじゃないですか」


 そこに駆け込んできたフミと後ろから来たシジュとヨイチを見て、ミロクは蕩けるような微笑みを浮かべると、呆然と自分を見る志摩子に向かって言う。


「シジュさんほどの素敵な人なら、誰だって一緒にやりたいって思うでしょう?」


 椅子に座っているのにすべり落ちそうになる志摩子を、慌てて支える神無も顔を真っ赤にし、見守っていた他の『カンナカムイ』のメンバーも腰砕けたように座り込む。

 駆け込んで来た344のダンス担当は、そのまま回れ右をしたまま震えており、ヨイチに背中をさすられている。

 そして、愛すべき344のマネージャーであるフミは、厳かな表情で言った。


「ミロクさん。やりすぎです」


「ええ!? そんな……良かれと思って……!!」


「ダメです。アウトです。『それ』をしまってください」


「しまう!? 何を!?」


「良いから早くしまいなさい!!」


「だから何を!?」


 プリプリおかんむりの可愛いマネージャーに、内心悶えつつもミロクはとにかく謝り倒して何とか許してもらうのであった。

 ちなみに、フミの後にダンス担当からの照れ隠し説教もあったのは、言うまでもない。








お読みいただき、ありがとうございます。


次回はラジオ回スペシャルです。

お楽しみに!!()

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