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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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197、オタクの聖地にて344は無双する。

 美しい彩色が施された着物に、複雑な飾り帯を巻いている。

 両手に一つずつ持っている雉の尾羽のようなものはラメ加工されており、動かすたびにライトの光に反射してキラキラ光っていた。

 重力を感じさせないひらりひらりと舞い踊る、まるで蝶のような志摩子は、今日の出演者の中で一番輝いて見えた。


「志摩子さん、すごいですね」


「チームでやってるけど、実質あの子で保っている感じだね」


「あいつもいい歳なんだけどな」


 自分の事を棚に上げ、シジュは呆れたように呟く。そんな彼の言動にミロクは苦笑しつつも、志摩子の踊りの激しさには感心していた。

 ふと、シジュの顔がこわばる。


「……アイツ、何やってんだっ!」


 怒りを滲ませ吐き出すように言い放ち、シジュは舞台で踊り続ける志摩子を睨みつける。盛り上がる音楽と共に、張り出しているエプロンステージへ向かう彼女を、焦ったように見つめている。

 ヨイチは焦るシジュの背中に手を置き、宥めるようにさすってやる。


「シジュ? どうしたんだい?」


「……靴だ」


「靴、ですか?」


「アイツの靴じゃ、客席に張り出してる部分は危険だ」


 志摩子の演目はクライマックスに差し掛かっていた。動画サイトでも人気らしい彼女には、たくさんの観客から声援が送られている。踊りの合間に手を振って応える彼女の足元が、一瞬揺らいだようにミロクには見えた。


「シジュさん! 俺行きます!」


「おい!! ミロク!!」


「やれやれ、ちょっと出番が早まっちゃったね」




 志摩子は絶好調だった。

 普段は失敗するソロのダンスも成功したし、メンバー達も調子が良いらしく全員が揃って決める部分もしっかりとこなせた。

 高まる和太鼓の音と、それに合わせて踏むステップが一体化し、自分達の目指すダンスがどんどん形になっていく気がしていた。


(いける!!)


 客席へ続く道のようになった舞台でクライマックスを迎える流れになっていた。そこへ向かう志摩子は、足元に違和感を感じる。


(え? なんで? リハーサルの時は大丈夫だったのに……)


 靴の素材と床材が合わないのか、上手く踏み込めずにいる志摩子は、今更どうにもならないとこのまま続行する。

 メンバーは踊るだけで精一杯のようで、志摩子のトラブルに気づけていない。この床材の舞台で踊るのはメインダンサーの志摩子だけだ。自分が失敗しなければ良いだけという彼女の考えは、甘いものだと思い知る。

 ターンしようとした瞬間、体が傾ぐのが分かった。


(倒れる……!!)


 もうダメだと彼女は思わず目を瞑るが、体に感じたのは痛みではなく、いつか感じだ温もりと甘い香りだった。


「続けられますか?」


 志摩子が目を開けると、視界に入ったその顔は……大きめの白いマスクをした男性、しかも服装はジャージだ。


「つ、続けます!」


 考えている暇はない。志摩子のチームの見せ場はこれからだ。慌てて立ち上がろうとする彼女を、男性は軽々と抱え上げる。


「え!? ええ!?」


「たぶんあなたは足を痛めてます。このまま続けますよ」


 気づくと志摩子の両脇に、似たような服装の男性が一人ずつ付いている。客席が大いに盛り上がっているところを見ると、彼らも『踊ってみよう』で有名な踊り手なのだろうと彼女は思いつつ、今やるべきことに思考を切り替える。


「リフトでお願いします!!」




 和楽器の音楽と和装のダンスチーム『カンナカムイ』は、演目中メインダンサーのトラブルと思われる一件があったが、突如乱入してきた三人の男性とのコラボだと観客は理解したようだ。

 シャイニーズ事務所の今もっとも輝く若手ユニットとされる『TENKA』の曲のダンスを、『踊ってみよう』で完全コピーを披露した三人。ジャージ姿でマスクをしている彼らは、ダンスに精通しているプロダンサーだと噂されていた。

 出演リストには載っていなかった彼らが舞台にいるということ、それはこのイベントで観客へのサプライズ企画だったのだろうと、会場は大いに盛り上がる。

 『カンナカムイ』のメインダンサーの志摩子を、三人の男性は持ち回りでリフトをしつつ音楽にのせてダンスをする。女性を宙に浮かせた状態でのダンスは、和楽器の幻想的な曲調によく合っていた。


「即興にしては、よく動けるわね」


「リハ見てたからな」


「!?」


 三人の中の一人の口調に志摩子は一瞬目を大きくさせるが、そのまま踊り続ける。

 大きく太鼓が打ち鳴らされ、フィニッシュを決めたと同時に照明は暗転し、ジャージ姿の男性三人にのみスポットライトが当たる。

 流れてくる曲は、『TENKA』のメンバー、KIRAの主演したドラマの主題歌だ。舞台の中央に、三人が各々背中を合わせるようにして立つ。

 

「大丈夫かい、ミロク君」


「なんとかいけそうです。マスクが苦しいですね」


「確かにな。俺はまだまだいけるけどな」


「なら、負けてられませんね!」


 軽口をたたいて何とか自分を鼓舞しようとするオッサン三人。持ち回りでこなしたとはいえ、リフトという動作は若くない彼らの体力を大幅に奪っていた。

 顔の半分をマスクで隠していても、目だけでアイドルスマイルを決める。動作だけでも「シャイニーズのアイドル」っぽいダンスは可能だ。それにはもちろん技術が必要ではあるが。

 彼らのキレの良いダンスは、その服装と合間って絶妙な魅力を引き出していた。あまりにも綺麗に揃った動きに、会場は大盛り上がりだ。

 曲が終わりポーズを決めると、歓声が沸き立ち多くの拍手に包まれていたが、観客は次の彼らの行動に度肝を抜かれる。

 なんと、三人同時に上のジャージを一気に脱ぎ去ったのだ。しかもインナーを身につけていないらしく、上半身裸の状態だ。

 上がる悲鳴と、その美しい完成された筋肉に魅了される人々。もちろんその様子は舞台の後ろに設置されている巨大な液晶モニターに映し出されていたため、会場内すべての人間がその恩恵に預かっていた。

 舞台袖から投げられた三つの衣装を手に取り、それを羽織った三人はマスクを外す。

 少し垂れた目に整った風貌をしているものの、褐色の肌とくせっ毛の髪をワイルドにかき上げるその男性は、軍服のような赤い衣装だ。

 青い衣装を羽織った男性は、その柔和な表情の割に身体は鍛え抜かれた筋肉に包まれており、衣装で隠されるのがもったいないくらいだ。

 そして真っ白な軍服を羽織った男性は、まるで物語に出てくる「王子様」のような甘い笑顔に、その白い肌は踊り続けていたせいか、ほのかにピンク色に上気している。その色香は液晶モニター越しにも伝わるらしく、舞台に近い席の女性たちは皆タオルを口元に当てていた。

 白い王子が口を開く。


「メインボーカル、ミロクです!」


「一応リーダーの、ヨイチです!」


「ダンス担当の、シジュだ!」


「三人合わせてー」


「「「344(ミヨシ)です!! よろしくお願いします!!」」」



お読みいただき、ありがとうございます。



無双は続きます。

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