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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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188、スピンオフの打ち合わせする三人。

遅くなりましたー。


「それで、大野君はこれからどうすることになったのかな?」


「公式アカウントではなく、別アカウントでやりとりするとのことです」


「まぁ、ツイッタラーは直接やり取りしないもんだからな」


「シジュさん詳しいですね。やってるんですか?」


「アカウント持ってっけど、見てるだけだからなー」


(シジュさんツイッタラーやってるんだ……)


 意外だと言わんばかりの顔で見てくるミロクを、シジュは「うるせー」と言って彼の頭をわしゃわしゃとかき回す。


「やめてください! せっかくニナがセットしてくれた髪が乱れます! 俺、何も言ってないじゃないですか!」


「顔がうるせーんだよ」


「ひどい!」


 そんな弟二人を見てクスクス笑っていたヨイチは、隣で立っているフミに目を向ける。


「で、真紀さんの様子はどう?大野君の事何か言ってた?」


「真紀曰く『声がドストライク』だそうです」


「声だけ?」


「あの子はリアルに興味ないので、外見とかほとんど憶えてないかも……」


 少しばかり大野が憐れに思ったミロクだが、彼の真紀に対する『外見』への物言いに、ミロクは特に何かしてやる必要はないと心の中で結論づける。

 大野の問題発言はミロクの中にそっと仕舞われているが、それは彼に対して肉体的な語らいをしたからである。

 ほぼ反射神経で言葉を発する癖があるらしい大野を躾けるには、肉体言語が一番だとミロクは学んでいた。もちろん大野の事務所に話を通してあるのは、言うまでもないだろう。


(多少痛めつけてもいいからって大野君の所の社長さん言ってたけど、一体どれだけ問題起こしてきたんだろう……)


 それでもミロクは大野を嫌いにはなれなかった。彼は良くも悪くも正直に生きてきており、それがミロクにはとても魅力的に見えたのだ。

 自分に無いものを持っている大野は、少し眩しく見える。

 その全てを真似しようとは決して思わないミロクだが、自分に欠けているものの一つである事は間違いないだろう。

 それはヨイチも分かっていて、今回の事はミロクに任せていたのもあった。


「じゃあ、今日の打ち合わせに入ろうか。昼からドラマのスピンオフ撮影に入るけど、台本はない。それに対してどうしていくかなんだけど」


「だよな。一応ドラマ本編の放送日にスピンオフも放送されるんだよな。だったら本編の内容に沿った方がいいって事か」


「ゲストも呼ぶって事ですよね」


「第一回は僕らだけだよ。とりあえず三家臣を出して僕らを認識させると」


「いつものコントっぽいヤツでいくか?」


 ここでフミが温かい紅茶をオッサン三人の前に置く。春になったとはいえ、まだまだ冷え込む日が続いており、すこし冷える会議室にいるオッサン達にとって温かい飲み物は有り難かった。


「俺、弥太郎モードになるには、そのままだとキツイんですけど……流れとかヨネダヨネコ先生から貰えないですかね」


「当初の台本から、あらすじだけ取り出したのを作ってもらえそうだね。でも監督としては『素』を出しても良いって話だよ」


「それだとラジオみたいになるんじゃねーの?」


 ラジオでは自分を飾らず、とにかくヨイチとシジュと楽しく過ごしているミロクは、良い香りのする紅茶あを一口飲むと満足気にホワリと微笑む。


「フミちゃん、紅茶美味しいね。ありがとう」


「ど、どういたしまして、です。事務所前の喫茶店のマスターから教えてもらったんですよ」


 ミロクの笑顔から視線を逸らしつつ、礼を言うフミはそそくさと給湯室へ行ってしまう。それを少し寂しそうに見送ったミロクだったが、素早く頭を切り替えてヨイチとシジュに視線を戻す。


「ラジオだと『素』を見せ過ぎることになりますよね。それだとドラマへ目が向かなくなってしまうような」


「んだな。俺とヨイチのオッサンはそのままで良さそうなんだけどな」


「問題はミロク君か」


「うう、弥太郎、弥太郎、クランクアップしたらどう演技していたのか……弥太郎の皮がどこかに落ちてないでしょうか」


「そうだねぇ、ミロク君は天才系だから場の雰囲気があればいけると思うんだけどね」


「なんでもいいけど、皮ってなんだよ」


「猫の皮をかぶるみたいな感じです」


「ミロク君……猫だけでいいんだよ。猫だけで」


 フミがおかわりの紅茶とお茶菓子のマドレーヌ(サイバーチームの手作り)を持ってきた時に見たのは、きょとんとした顔のミロクと横で頭を抱えるヨイチとシジュだった。








 スピンオフドラマの撮影は、基本屋内のスタジオで行われる。

 学校の保健室のセットのみでドラマを進めていかなければならないため、内容にも気をつけなければならない。

 突然「外でドッジボールしようぜ!」などと言ってはいけないのだ。

 控え室で衣装に着替えるオッサン三人だったが、長髪にしなければいけないミロクが一番準備に時間がかかるため、ヨイチとシジュはウィッグを付ける彼の後ろでのんびりと待っている。


「なんか久しぶりな感じがします。このウィッグ」


「長髪のミロク君も、ドラマ放送後はなかなか評判良いよね」


「本当に終わったら役をさらっと忘れるんだな。お前って奴は……」


「シジュさんは引きずり過ぎなんですよ」


「ミロク君、さらっと地雷を踏むよね」


「まぁ確かになー俺引きずりまくるよなー」


「シジュは強くなったよね」


 日本に帰ってきた『あの女』の来襲から、シジュは過去を清算出来たようでサラッと流してみせた。その様子にヨイチは驚く。


「そりゃそうだろ。日々オッサンもミロクも成長してんだ。俺だって前に進んでいかねーとダメだろ」


 白衣の下の黒いシャツはボタンを二つほど外しており、その引き締まった胸筋を見せびらかすように胸を張ってみせるシジュ。

 対して銀縁メガネをかけたヨイチは、スリーピースのスーツをかっちり着ていた。

 そしてミロクはもちろん、学生服である。


「文化祭では遊びでしたけど、仕事とはいえ学生服着る三十代ってどうなんですかね」


「童顔の俳優さんが着たりもするし、そんなおかしな事じゃないと思うけど」


「似合ってりゃいいだろ。あ、そーだ。マネージャーも着てみれば?」


「は、はぁ!?」


 突然の無茶振りに、用意していたペットボトルの水をゴロゴロ落とすフミ。キャップが開いてなくて何よりである。


「あ、それいいね。俺見たいなフミちゃん」


「何言ってるんですかミロクさん!前に着たじゃないですか!」


「それはそれ。これはこれ」


 いつになく男らしい引き締まった顔のミロクは、まるで戦国武将のような覇気を纏っている。


「おお、なんかミロクがすごいやる気を出してるぞ!」


「この感じでいったら良いんじゃないかな?撮影が上手くいったら、ご褒美にフミがコスプレするということで」


「勝手に決めないでくださいー!!」


 フミの叫びは心からのものであったが、社長のヨイチから伝家の宝刀「マネージャーとしてタレントを元気にさせる」を言われた彼女に逆らう術は無く、泣く泣く了承するのであった。




お読みいただき、ありがとうございます。

ミロク君は、まぁまぁ天然です。

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