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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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186、芙美は弥勒に相談する。

 すっかりメンタルがやられてしまっている友人の姿に、これは早々になんとかしなければと奮起したフミは、雑誌モデルの仕事に行くミロクを送り届けることを無理矢理スケジュールにねじ込んだ。

 事務所の社長であるヨイチは、現在三人揃っての仕事以外は受けていない。シジュに限っては『チョイ悪お兄さんモデル』として業界でも重宝されており、出版社の方から車を出すなどの破格の対応をされている。

 それはミロクも同じであり『王子』と触れ合いたいと思う命知らずな人間は多い。それを社長とマネージャーは断っていて、未だに他人との距離を掴むのが苦手なミロクの為にも、なるべく一人で現場に行かせるようにしていた。

 そんなフミが今回のモデルの仕事で送迎するという話に、ミロクは少し不思議な顔をしたものの、フミの事を好いている彼にとっては願っても無い申し出だったために浮き浮きと仕事に出たのだったが……。


「真紀ちゃんのこと?」


「そうなんです。今、真紀が悩んでいることについて相談したくて」


 まぁ、相談と何かあったからだろうなと予想をしていたミロクだったが、実際それだけだとやはり凹んでしまう。

 気力で顔に出さないようにしつつ、フミの話を聞く事にした。


「ええと。つまりツイッタラーで繋がった大野君が『お気に入り』の反応を真紀ちゃんにしていると。それで良くも悪くも反応が多くて、メンタルをやられてしまっていると。ここまでは良いかな?」


「はい。そうです」


「で、なんで俺に相談なの?」


「えっと、それはその、間違ってたら申し訳ないんですけど、ミロクさんなら大野さんと繋がっているかなって」


「……なんでそう思ったのかな。仮にも彼は以前、姉さんとヨイチさんを怒らせた人間だよ」


「だからです」


 現場から少し手前の場所で、端に寄せて車を停めたフミは、助手席に座るミロクを真っ直ぐに見つめる。


「ミロクさんなら、大野さんとメールのやり取りくらいはされていると思いました。そしてそれは叔父も知ってるとは思いますけど」


「うん。そうだね。ヨイチさんから言われたというのもあるけれど、俺は大野君を切ろうとは思わなかったよ。また仕事をするだろうし、彼ならきっと心を入れ替えて乗り越えられるって思ったからね」


「ふふ、やっぱりミロクさんは優しいです」


 嬉しそうに微笑むフミに、優しいと言われたミロクは嬉しくなって花が咲くような満面の笑みで返す。


「ありがとうフミちゃん。俺の事を分かってくれてて嬉しいよ」


「え、あ、あにょ、しょんな……」


 思わぬフェロモン爆撃をくらってしまったフミだったが、ここで倒れるわけにはいかんと何とか気力を振り絞って持ち直す。さすが担当マネージャーである。


「それにしても、大野君ツイッタラーで気になる子がいるって、真紀ちゃんのことだったんだ」


「え? そういう話もしていたんですか?」


「うん。まぁ気になるっていうか、『たまたま気になった』らしいんだけどね」


 人気声優である大野は、ツイッタラーというSNSの『公式アカウント』というものを取得していた。そのアカウントをもらえるのは著名人や芸能人であり、『限られた人間』が使用している偽物防止として配布されたアカウントの事である。

 大野は普段ツイッタラーを、仕事での活動を知らせるツールとして使用していた。

ツイッタラーは『モノモウス』という限られた字数でコメントをし、それに『お気に入り』という反応や、コメントに対する返信、共有をするSNSツールだ。

 有名人になればなるほど、公式アカウントの人間が反応した一般の『モノモウス』は、爆発的に拡散される。

 つまり普段仕事くらいでしか利用していない大野が、真紀の作品に対して反応したために大野のファンや周りの人間が一気に注目し始めたのだ。

 これに関して良いとか悪いとかは無いだろう。

 確かに大野がもっと考えて行動すべきという事もあるのだろうが、大野は真紀に対してここまで大きく反応が寄せられていることを知らない。

 この話を聞いてたミロクも、フミから聞くまでここまで大事になっていたとはと驚いているほどだ。


「その反応には良く言ってくれる人もいるけど、真紀ちゃんのことや作品を誹謗中傷するようなものも多いみたい」


「そんな……ひどいな」


「最初は『私はプロじゃないんだし』って流していたんだけど、さすがに続いているとキツイみたいで……。ミロクさん、大野さんはどうして真紀ちゃんの事が気になったんですか?」


「ああ、最初は好みのイラストだなって思ったんだって。今まではそれで終わっていたんだけど、たまたま真紀ちゃんのページに飛んでイラストを見ている内に気になってきたって言ってたよ」


「何がですか?」


「宰相と騎士のイラストばかりで、王子のイラストが一切無いって」


「……ああ、そういう事ですか」


「え? なに? フミちゃんは知ってるの?」


「え? ……えーと、なんというか真紀ちゃんは宰相と騎士に対して一途というかなんというか、あのその……」


 急にしどろもどろになるフミを「可愛いなぁ」と愛情深く見守るミロクだったが、彼女の顔が真っ赤になっていくのを見てさすがに助けてあげる事にした。


「あはは、知ってるよ。前に真紀ちゃんから本をもらった事があるから」


「え!? えええ!? 真紀ったらミロクさんになんというものを!!」


 その本……薄い本の内容は所謂BLボーイズラブだったが、さっと目を通したミロクは登場人物の一人であるヨイチの鞄にそっと入れておいた覚えがある。薄い本のその後の行方は知れない。

 ちなみに真紀が王子を描かないのはフミの気持ちを知っての事である。さすがに友人の想い人を、男性同士の恋愛のモデルにするのは気がひけたのであろう。


「それにしても、大野君が何も知らないっていうのがちょっとね。ツイッタラーに関してもかなり気を使ってたみたいだし。実際本を出してるなら遠くから見てみたいとか言ってたし」


「え、ストーカー……」


「いやいや、俺も一緒に行く事になっていたんだよ。コミケに行ったことないって言ってたから、仕事なければ付き合うよって」


「まぁ、それなら大丈夫ですかね」


「大野君、ちょっと可哀想になってきたかも」


 フミの警戒心の強さに苦笑するミロクだったが、大野の過去を知る人間はこれが普通なのかもしれない。迷惑だと言っても聞かずに我を押し通す、なかなかの困った人間だったのだ。


「真紀には何て言いましょうか」


「うーん、そうだね」


 形の良い顎を長い指でそっと撫でるミロクの仕草に、思わず見惚れていたフミだったが、頭をプルプル振ってなんとか正気を保つ。

 そんなフミを愛おしげに見ていたミロクは、ふと思いついた。


「うん。じゃあ、本人同士を会わせよう!」






お読みいただき、ありがとうございます!


ちょっと説明っぽくなってしまった…

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