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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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184、打ち上げでの美海の活躍。

 クランクアップを祝う打ち上げは、規模の小さいものだった。

 それはオッサンアイドル344(ミヨシ)のメンバー三人には、スピンオフのドラマ収録が残っているからである。

 ちなみに、スピンオフの放送は第三話終了後からとなっている。その回でヨイチとシジュ扮する教師二人も弥太郎と同じく、主役の司の家臣であるという事が判明するからである。

 スピンオフの収録も終わってから大きな宴会を開くとの事で、その心遣いをオッサン三人は嬉しく思っていた。


「嬉しいね。僕の時は本当に殺伐としていたから」


「ああ、あの主役食ったっていう、アレか?」


「とにかく俺はちょっと肩の荷が下りましたよ」


「監督さんもスタッフの方々も、皆さん良い方ばかりで良かったですね。ミロクさんもシジュさんも初めてとは思えない演技力でしたし」


「ありがとうフミちゃん。君のサポートのおかげだよ」


 隙あらばフミに向かって甘く微笑むミロクに「場所をわきまえろ」とオッサン二人は両側から彼の頬を引き伸ばす。


「いひゃいれふ」


「うるせーよ」


「ここではフェロモン禁止だからね。ミロク君」


 叱っているように見えて、クスクス笑っているヨイチ。シジュはここぞとばかりミロクの頬を伸ばして遊んでいる。相変わらず餅のように伸びる、謎の頬である。


「そういえば、美海さんは来ていないんですか?」


「いや、引っ越しも終わっているはずだし、今日は出演者全員参加ってなっていたはずだから来ると思うんだけど……」


「あの子も何だか不思議な子でしたね」


「育った環境っつーか、家庭環境は色々と影響するからな」


「そうだね。ミロク君が素直で良い子なのも、大崎家の皆さんが居てこそだろうし」


「な、なんで俺の話になるんですか」


 ミロクの美しく整った顔は照れたせいか仄かに赤らんでいる。そんな彼の強い色香に、一瞬黙り込むオッサン二人と乙女一人。


「ごめん、僕が軽率だった」


「まぁ、今のは見られてないだろ……あ。ダメだった」


 そこに立っていたのは、今をときめくシャイニーズ事務所の大人気アイドル『TENKA』のメインボーカルであり、今回のドラマの主役を演じたKIRAだった。

 アイドルらしい所謂『イケメン』の顔を真っ赤にし、ふにゃふにゃに崩れた様子はある意味見ものである。


「おーいKIRA、そっちに居たのかーって、どうしたお前!?」


「KIRA君!! 顔がふにゃふにゃだよ!?」


 遅れてKIRAのいる場所に来たZOUとROUは、今までに見た事もない彼の様子に驚く。未成年の彼らはジュースを飲んでいたのだが、KIRAの持っている飲み物をひったくって匂いを嗅いだりしている。


「大丈夫だよ。ちょっとKIRA君には刺激が強すぎただけだから」


「すぐおさまっから大丈夫だ」


 ヨイチとシジュが慌てる少年達に声をかけるも、彼らはリーダーであるKIRAの異変にパニックになっている。

 もしかしたら自分の所為なのかとミロクが声をかけようとした時だった。

 セットの一部らしき、木の箱に乗っている女の子が一人。何故か顔は逆光で見えない。


「静まれ、男ども!」


 オッサンアイドルと若手アイドルのみならず出演者やエキストラ、ドラマのスタッフまでもが彼女に注目し、辺りは静まり返った。


「美海ちゃん、一体いつからいたの?」


「二十分くらい前からですよミロクさん!」


「しかも照明さんまで巻き込んで……」


「嬉々として受けていただいたのですヨイチさん!」


「いいから降りてこい。パンツ見えっぞ」


「見せパンですシジュさん!」


「だ、だ、だめですよ! み、みせ、見せるとかそういう事じゃないのです!」


 あまりにも無防備に下着を見せる美海に、今度はフミがパニックになりつつどこから用意したのか大きめのバスタオルを彼女の腰に巻きつけてやる。

 本人は一切気にしていないようだが、そういう問題ではないとフミは断固として許さなかった。こういう時のフミは何を言っても聞かないのだが、今回に限っては我が姪の性格に助けられたとヨイチはホッとする。

 何かの余興だったのかと、周りの参加者は元どおりに打ち上げを楽しんでいるが、老若アイドル達は一斉にため息を吐いていた。

 すっかり元の顔色に戻ったKIRAが、呆れたように美海に声をかける。


「あーびびった。お前何やってんだよ」


「終わらない反抗期野郎に言われたくはない」


「なんでオッサン達と対応が違うんだよ!」


「己の心に聞いてみよ」


「意味分かんねーし!」


 そう言いながらも彼女と話すのが嬉しいらしく、口元がすこし綻んでいるKIRA。それを生温かく見る『TENKA』のメンバー二人。

 いつの間にそうなっていたんだと二人を見る大人達に、美海は『遺憾』という表情を作り出す。器用な少女である。


「さて、僕たちは挨拶回りしてくるから、子供達は仲良くしているんだよ」


「サー! イエス、サー!」


 ヨイチの言葉に素直(?)に対応したのは美海だけで、KIRAは子供扱いするなと怒り出し向こう脛を美少女に蹴られて痛みのあまり転がり回るのを、メンバーの男子二人は慌てて介抱している。


「ほどほどにね」


「いや、これくらいが丁度いいんじゃねぇか?」


「そうですね。監督さんも楽しそうに見ていますし。案外間をおかずにあの子達に仕事がきそうですね」


 若者(約一名)よ、強く生きろ!!

 そう、心の中でエールを送る、オッサン三人なのであった。







「さて。一つの仕事が終わったわけなんだけど」


 打ち上げも終わり、とりあえず事務所に戻ってきたオッサンアイドル三人とマネージャーの女子一人。

 お茶を入れて一息ついたところで、ヨイチは口を開いた。


「なんだよオッサン、なんかあんのか?」


「新しい仕事ですか?」


「うん。まぁ、新しいっちゃ新しいんだけど、今度の連休の話なんだよ」


「今度の連休ですか? 一ヶ月先ですよね?」


「おい、まさか、また無茶言うとかないよな?」


「僕も正直迷っているんだよ」


「迷う、ですか?」


 お茶菓子を用意してきたフミが、ノートパソコンで344のスケジュールを確認しつつヨイチを見る。


「ほら、この前シジュの提案で『踊ってみよう』にKIRA君達のダンスを踊って、投稿したでしょ?」


「おう。適当なアカウントで投稿したなぁ。なんかすげぇ反響があったってサイバーチームが泡食ってたな。なかなか良かったよなアレ」


「はい! 楽しかったです! またやりましょう!」


「うん。そう。またやるんだよ」


「はぁ?」


「へ?」


 楽しそうに話していたシジュとミロクの表情が凍りつく。フミは状況が分からず、一人首を傾げた。


「いや、おかしいだろ。あれは仕事じゃなかっただろ?」


「そうですよ。あれは遊びだって言ってたじゃないですか」


「ミロク君なら知っているだろう。大手動画サイトで、年に3回大きなイベントがあることを」


 一気に顔が青ざめるミロク。

 彼は知っていた。

 何故なら引きこもっていた間、嫌という程視聴していた動画を思い出す。

 そのサイトで『祭り』と呼ばれるそのイベントには名だたる踊り手や歌い手、神と呼ばれる絵師や楽器演奏者が一堂に会する……


「まさか、それに出演するとか言いませんよね?」


 ヨイチがミロクの言葉を否定することは無く、彼は思わず「おぅふ」と呻き声を上げ、両手で顔を覆うのだった。




お読みいただき、ありがとうございます!

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