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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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212/353

181、突然の休日で踊ってみよう。

活動報告にお知らせがあります。

 準レギュラーとなっている動物番組のロケは、今回現地集合とのことだった。

 今日も今日とて異様に目立つ美丈夫、オッサンアイドル三人はフミの運転する車で現場に向かうことにした。


「今回の現場って、カフェなんだよな」


「はい。フクロウカフェですよ」


 早朝の為、まだ眠そうなシジュは気怠げに髪をかき上げるとフミに問いかける。そんな色気を物ともせずに、彼女は番組の内容を思い出しつつ肯定した。

 そんなフミのポワポワ頭を横目で見ていたミロクは、ふと何かに気づく。


「フミちゃん、フクロウって怖くない?」


「大きいのは少し怖いかもですね。何でですか?」


「ほら、フクロウって猛禽類でしょ?小さな動物は捕食されちゃうから……」


「……ミロクさん、私が小さいって言いたいんですか?」


 ぷくっと頬を膨らますフミの様子に、ミロクは蕩けるような笑みを浮かべ、それをうっかり見てしまったのは後ろの二人のオッサン達だったのは安全運転の為には良かったと思われる。


「ああああ!!」


「な、何!? どうしたのフミちゃん!?」


 突然叫んだフミにミロクは驚いて問いかける。

 後ろでメールチェックしていたヨイチはタブレットを落とし、うたた寝していたシジュは慌てて起きて窓ガラスに頭をぶつけている。オッサン二人は大惨事である。


「ご、ごめんなさい。今日、ロケ、無かったです……」


「へ?」


フミは車のスピードを落としハザードランプをつけて一度停める。ハンドルを持つ手が震えるフミを、ミロクは気遣わしげに見つつ問いかける。


「ロケの日時に変更があったってこと?」


「はい。昨日電話で連絡を受けてたんです。今、思い出して……ごめんなさい。スケジュールの変更をし忘れてました」


「本当は丸一日オフになるはずだったと」


「あー、痛ってぇ。何だ今日は休みだったのかよ」


「すみません!!」


 青ざめて謝るフミ。彼女がこういうミスをするのは珍しく、ヨイチは叱るべきかどうするかを悩む。すでに激しく反省している彼女に追い打ちをかける必要はないだろうと、社長から叔父の顔に戻したヨイチは優しく微笑む。


「まぁ、そういうこともあるよ。せっかくだからこの近くの大きな公園に寄って行こう」


「あ、良いですね! たまには自然に囲まれて癒されたいです!」


「俺は何でもいいぜ。公園で昼寝するとか良いよなぁ」


「シジュさん、まだ朝ですよ」


「……ありがとうございます」


 公園に隣接している駐車場に入ると、フミはしばらくしょんぼり項垂れていたが、ミロクがそっと彼女に忍び寄り耳元で囁く。


「下向いてると、いたずらしちゃうよ?」


 一気にシャキッとなるフミに「残念、イタズラしたかったのに」とトドメを刺すミロクの後ろ頭を、ヨイチは容赦なく懐からスリッパを取り出し『すぱこーん!』と引っ叩いた。


「タチが悪いよミロク君」


「痛いです。本音を言っただけなのに」


「さらにタチが悪いよミロク君」


 そんなやり取りが面白く感じたのかフミは堪えきれず笑い出し、オッサン達をホッとさせた。いつもマネージャーに助けられている彼らにとって、今日くらいの失敗は笑って許せる程度のものだ。

 彼女の頑張りを見ていれば、誰もがそうなるだろう。


「そうだ!! なぁ、俺やってみたい事があんだけど!」


「急に元気になりましたね、シジュさんは」


「何か嫌な予感がするんだけど」


「変な事じゃねぇよ。ほら、俺らのドラマの主題歌って『TENKA』が歌ってるだろ?」


「そうだね。いかにもシャイニーズって感じの曲だね」


「それがどうかしたんですか?」


「あれのさ、プロモ見たことあるか?」


 珍しくテンションの高いシジュは、タレ目を大きく開いて満面のキラキラな笑みを輝かせている。嫌な予感がしているヨイチの眉間のシワはどんどん深くなっていく。


「えっと、一応資料として渡されたデータに入ってたので見ましたよ。若いアイドルならではのダンスですよね」


「僕はそういうの昔に散々踊らされたけど、確かに若い子が踊るから良いかもね」


「そう、それさ、俺らで踊って動画撮らないか?」


「はい?」


「何言ってるのか分からないよ。シジュ」


 相変わらずキラキラな笑顔のままで、とんでもない事をのたまうシジュ。彼が言うには大手動画サイトの『踊ってみよう』に匿名で動画を載せたいとのことだった。


「匿名って言っても、どうするんですか?」


「マスクかけて、画質を落とせばバレねぇだろ。オッサン三人で踊ったら面白そうだって思ってたんだよ」


「面白い……ねぇ」


 シジュの言葉にヨイチは頷きながら顎を触っている。社長である彼は『面白い』という言葉に弱い。オッサンアイドル344(ミヨシ)というユニットを組んだきっかけも、彼に尾根江が言った「面白そう」という言葉だった。

 それを敏感に感じたミロクは、慌ててシジュに縋りつく。


「そんなシジュさん! 急に言われても俺、踊れませんよ! やるなら今日じゃなくても」


「三人で一日まるっとオフになるなんて、しばらくないだろう?やろうぜーやろうぜー」


「それよりも新曲練習しましょう!」


「ミロク君、それは個人でも出来るから大丈夫だよ」


 すっかり乗り気になったヨイチを止められる者はいない。唯一、彼の行動を変えられる人間は恋人であるミハチだろうが、現在彼女は出張に出ており一週間ほど不在にしていた。


「ヨイチさんは突然なのに踊れるんですか?」


「シャイニーズで昔から使われてる技法だから、そんなに難しくは無いかな」


「俺だけ踊れない動画を撮るなんて恥ずかしいですよ」


「お、出たな完璧主義!俺が教えるから大丈夫だって。マネージャーは撮影頼むわ!」


「任せてください!」


 大人の雰囲気で踊る事が多い344しか見た事がないフミは、正統派アイドルのダンスを踊るミロク達を見てみたかった。そんな欲望を胸に秘めつつ、しっかり車に置いてあるカメラと三人の着替え用ジャージを取りに行くフミ。先程までの落ち込みが嘘のようだ。


「うう、まぁ、フミちゃんが嬉しそうなのでやりますよ。やれば良いんでしょ」


 不貞腐れながらも、早速ヨイチのタブレットを借りて『TENKA』のPVを確認するミロクは、少し嬉しそうに微笑むのだった。








「はい! そこで入れ替わる!」


「ねぇ、ポジションも完璧にする必要があるの?」


「ダメですよ! やるからには完璧に仕上げないとですよ!」


「そう言いながら、ミロクも早速へばってんじゃねぇか。まさか体力落ちたとか言わねぇだろうな」


「は、はは、まさかー」


 肩で息をしながらも、なんとか座り込むのを我慢するミロク。最近忙しい為、スポーツジムに行く頻度が減っているのだ。しかしその中でもしっかりトレーニングをしているシジュに、自分の体力不足がバレたら大変なことになる。


(なんでオフになったのに、ここまでキツいことやってるんだろう)


 それでも笑顔で見ているフミがいるため、情けないところは見せられない。無理矢理笑顔を作り、再び最初から踊り出すミロクは汗だくになっていた。


「トレーニングが不足してるミロクには、ちょうど良い休日になっただろ」


「なんだ、バレてるん、ですね」


「当たり前だ。俺は344の専任トレーナーだからな」


「シジュ、ここのターンの時に首を少し傾げるんだ。そうすると『らしく』なる」


「なるほど、こうやってシャイニーズっぽさを出すのか」


 どうやらシジュもあまり使わない振り付けらしく、ある意味勉強になっているようだ。こんな日も良いなとミロクはほのぼのとした気持ちになる。

 そして、この仕事ではないことを三人で本気でやる、この感じはミロクにデビュー前を思い出させた。


(あの時もこうやって三人でダンスして、フミちゃんに動画を撮ってもらってたなぁ)


 フミの用意してくれたスポーツドリンクを二、三口飲むと、気合を入れて立ち上がる。


「お、気合い入ったな」


「ミロク君、通しでやってみる?」


「はい! どんと来いです!」


「頑張ってください!」


 カメラを構えるフミの声援に、ミロクは笑顔を見せるとメンバーの間に入ってダンスが始まる。


 マスクをつけた三人の男性が、シャイニーズの若手アイドル『TENKA』の曲に乗せて踊っている。

 可愛く首を傾げる仕草や、肩を動かしてコミカルにステップを踏む動きは三人の息がぴったり合っていて、すごく決まっている。

 ジャケットを使う動きは、もちろん三人ともジャージの上着でやっているのが笑いを誘う。


 そして、妙に上手い。


 素人ではないだろうその動きに、視聴者は「プロがやっている?」「三人とも背が高そう」「イケメンか?」などのコメントが飛び交う。

 公式のアカウントではないため、個人の動画というのは分かるが世間はそのキレッキレなダンスに注目した。







「何だよ。これ」


「あ、KIRAも気になる?すごく上手いよね!」


 歌番組の収録に来ていた『TENKA』の三人は、最近話題の動画というのを番組スタッフから教えてもらっていた。出来れば番組内で流したかったようだが、アカウントの主にコンタクトが取れなかったそうだ。

 不機嫌そうに動画を見るKIRAを、メンバーのメガネキャラZOUと、可愛いキャラROUは不思議そうに見る。


「どうしたんだKIRA。別にこういうのは嫌じゃなかっただろ?」


「嫌とか、そういう問題じゃねぇよ。これって、あのオッサン達だろうが」


「ええ!? ヨイチさん達!?」


「まさか!!」


 KIRAの言葉に、改めて動画を確認する二人は目を丸くする。


「本当だな……」


「はぁ、一体何なんだよ。まったく……」


「でもさ、すごく楽しそうだね?」


 動画の中での三人は顔に大きなマスクを装着しているにも関わらず、笑顔で踊っているのが分かる。時折お互い目を合わせて動きを合わせるところなどは、仲良しという感じでとても微笑ましい。


「くそっ……」


 KIRAは動画から目を逸らしそっぽを向いているのを、ZOUとROUはお互い顔を見合わせて吹き出してしまう。

 彼の耳が真っ赤になっているのは、嬉しかったり楽しかったりするときのサインだ。


(素直じゃないんだから)


(憧れの人に踊ってもらえて嬉しいくせにな)


 口に出して拗ねられると困る為、目で会話をする二人。その横で、そっぽを向いたままのKIRA。

 その日『TENKA』の三人は、どこか清々しい気分で歌番組の収録に向かったのだった。








お読みいただき、ありがとうございます。


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