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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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172、お泊まり会と煮込みハンバーグ。

 事務所に戻ったミロク達は、早速今日泊まる部屋の確認をする。風呂トイレは完備されており布団などは備え付けがあるため、雑魚寝なども出来るようになっている。しかしそこで着替えのことをすっかり忘れていたことに気づく。


「アメニティは置いてあるし大丈夫ですね。明日着る服はモデルの仕事でもらった衣装が置いてあります。あと、パジャマにはこれ使ってください」


 テキパキとフミが指示する中で渡されたのは、以前撮影で使った『モフモフわんころ餅』着ぐるみパジャマだった。


「こ、これは……」

「俺ジャージで良いんだけど」

「モフ餅だー!」


「着てください」


 渋るオッサン達(内一名は笑顔)に向かって、真顔でパジャマを押し付けるフミ。その有無を言わさぬ様子に、若干引きつつ受け取るヨイチ。

 そんな心温まる叔父と姪のやりとりの隣で、自分のスマホを見たミロクが珍しく喜びの声を出す。


「ラッキーです!母が夕飯を多く作ってくれるみたいで、ニナが持ってきてくれるとメールがきました!」


「おいミロク、この歳になってあまり母親に頼るっつーのも……」


「今日は母の必殺『タンシチューの煮込みチーズ入りハンバーグ』ですよ!」


「好意は受け取ってこその親孝行だ!よくやったミロク!」


「シジュ、手の平が見えない内に返すのやめようか」


「だってよぅ、ミロク母の、あの煮込みハンバーグは絶品だっただろ?」


「確かにそうだけれども」


 すっかりミロクの母親が作る料理の虜になっているシジュは、さらに彼女が勉強してきた『筋肉を作るための料理』の研究仲間でもある。

 ハンバーグもチーズも高カロリーだが、今日は特別に許そうとシジュは早くもハンバーグに合う酒を考え始めている。


「そういえばフミ、いつも寮にいるサイバーチームは?」


「確認しましたが、今日は事務所で夜間の仕事をするか、他で泊まるそうですよ」


「なんだ。参加してもらおうと思ったのに」


「それを避けるためみたいですよ。彼らの意見をまとめますと、『色気ダダ漏れなオッサン三人と一緒に密室とか俺たちを殺す気か。そもそもシャツのボタンを一個だけじゃなく二個も外されてみろ、フェロモン過多で意識なくすっつーの。だからといって一番上までボタンをとめられてみろ、布の下にある鍛え抜かれた筋肉が盛り上がって主張始めやがる。何かに目覚めそうだから、後は勝手にやってくれ』との事です」


「一言一句覚えているフミもどうかと思うよ」


「同感でしたから」


「ははは……」


 自分達の評価が高いのか低いのか、一体どうしてこうなったのかは不明だが344(ミヨシ)というユニットは、男性に対しても魅力的な存在になれたと喜ぶべきなのだろう。

 帰るフミを寂しげに見送るミロクを宥めつつ、寮の一室に入る。

 数人が泊まれるよう、2LDKのファミリータイプの造りとなっており、もちろんキッチンも広い。サイバーチームは独身男性が多い為、あまり使われてないようだった。

 シジュを始め酒好きのスタッフが集めた為、置いてある酒の種類は多い。ミロクは弱くはないが飲む酒は選ぶ。シジュは料理に合う酒を飲み、ヨイチは何でも飲むしやたら強い。


「あ、ミロク君。ニナちゃんに部屋の場所メールしておいてね。今事務所に行くと女に飢えたサイバーチームがいるから」


「まぁ、ミロク妹ならあっさり撃退しそうだけどな」


「ですね。ニナは近所にある道場で最強でしたから。古武術とか色々やってる所なんですけどね」


「あそこ有名な所じゃねーか。怖いな」


 シャワーで汗を流し、三人とも例の着ぐるみパジャマを着ている。

前に着た色とは違って限定色と書いてあり、ミロクはうぐいす餅、ヨイチはみたらし団子、シジュは桜餅だ。

 ミロクの薄緑色とヨイチの薄茶色はともかく、シジュのピンク色はどうなんだろうかと思うミロク。この配色は神聖なジャンケンでの決定のため、シジュは顔を痙攣らせつつ可愛らしいパステルピンクの着ぐるみパジャマ姿になっていた。


「ミロク君、もしかしてミハチさんも強いの?」


「いや、姉さんは強くないですよ」


「そうだよな。いくら何でもそりゃねぇよな」


「無手が苦手みたいで、得物(ぶき)があれば強いですよ」


「マジか。ヨイチのオッサン生き延びてくれよ」


「やめてよ。洒落にならないよ」


 ぶるっと身震いしたヨイチは、ワインセラーの中からミロク母の煮込みハンバーグに合うワインを選んでいる。モフモフな着ぐるみパジャマの長身男性が真剣な顔でワインを選ぶ様は、なかなかシュールな光景だと自分を差し置いて考えるミロクは、玄関のチャイムがなり「ニナだ!」とウキウキ出る。

 ミロクを見た瞬間、背後を吹き荒れるブリザード。


「何やってるの、兄さん」


「お泊まり会だよ。フミちゃんがパジャマを出してくれたんだよ」


「フミさんか。まぁ、いいけど……って、なんで全員モフってんの!! 特にそこの野獣!! ピンクって何なの!!」


「ジャンケンで負けたんだよ。俺だって無難にミロクに着せたかったっつの」


「兄さんも無難じゃないと思うけど。ヨイチさんは写メらせて。姉さんに送るから」


「やめて」


 問答無用とばかりにスマホで写真を撮りまくったニナは、一時床に置いていたタンシチューの煮込みハンバーグチーズ入りを鍋ごとミロクに押し付けると、用は済んだとばかりにさっさと帰って行った。


「なぁ、俺も撮られていたよな」


「考えたらダメだよシジュ。悪用はされないだろうけど、それ以上の辱めを受けると思う」


「良いじゃないですかモフモフ着ぐるみパジャマ」


「ミロク君には聞いていないよ」


「そうだ。そもそもお前がこれ好きだからマネージャーが持ってきたんじゃねぇか。おい。どうしてくれるんだよ」


「えー、俺のせいですかー?」


 あざとく頬を膨らませて唇を尖らせるミロクに、オッサン二人は思わず頬を染めさせるが、次の瞬間その可愛らしさを出す三十六歳にイラっとするオッサン二人。そして目を合わせるオッサン二人。


「ミロク、覚悟は出来てんだろうな」


「お仕置きだよ」


「え? え? ちょっと、やめ、うわっ……苦しい! 筋肉とモフモフで息が……ちょ、くすぐった……!!」


 モフモフと楽しそうにじゃれ合うオッサン三人。

 そこに母親から持たされた焼き菓子を置き忘れたニナが戻ったことにより、イチャつくオッサン達を目の当たりにしてしまう。

 無表情のままスマホで撮影するニナに気づいたオッサン三人は、動画を削除するよう小一時間彼女を説得することとなる。


「せめて中身は年齢通りでいなさいよね」


 一回りは離れている年下の女性に、ため息混じりに言われるミロク達であった。





お読みいただき、ありがとうございます!


再登場のモフモフわんころ餅!

密やかに読者様が仰ってた限定色が美味しそうだったので着せてみましたw

ありがとうございますw


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