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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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閑話13、エキストラな女子高生ファンBの場合。

 通っている高校では演劇部に所属している女子高生……仮にBとしておこう。

 そんな彼女はシャイニーズ事務所の大人気若手アイドルユニットである『TENKA』のKIRAが主演のドラマに、見事エキストラとして参加することが出来た。

 応募者数が多く激戦だった為「さすがシャイニーズのアイドルのドラマだ」と驚くスタッフが多かったそうだが、実情は違う。女子高生Bとしても、そこだけは否定したいと思っている。


(これぞ、十代ファンだけの特権!! そして演劇部に入ってて良かったー!!)


 年齢層の高いオッサンアイドルユニットの344(ミヨシ)は、デビューして間もないが知る人ぞ知る、美形で色気満載な妙齢の男性ユニットなのだ。

 Bは友人のAが見せてくれたファッション雑誌でストンと落ちた。彼女も自身で「チョロいな」と思ったようだが、これがきっかけだというファンも多かったと後で知る。

 ちなみにBの母親は早々にハマっており、近所の商店街のヒーローだと言っていた。それからしばらくしてアニメの挿入歌を344が担当した時、多くの若者達が彼らにハマっていったらしい。その時に「今知ったの?」と友人と共にドヤ顔したのは良い思い出だ。


(ヨイチさんとシジュさんに会えないのは残念だけど、ミロクきゅんにはバッチリ見れるチャンスがある! お母さんには悪いけど、ミロクきゅんのフェロモンを存分に堪能させてもらおう!)


 Bは三人三様の色香を発する彼らが大好きなのだが、中でも最年少(と言っても三十代半ばなオッサン)のミロクが特に好きなのだ。

 その透き通るような白い肌に黒い髪が、いかにも「王子」であるミロク。母親は彼を可愛いと言うが、Bからしたら年上の超絶美形な男性である。しかも年をとっているという事が最大限に熟成させた色香を放つ要因ともなっているからタチが悪い。

 しかしそれでも、いや、それだからこそBは世界の神々に等しく感謝の祈りを捧げた。

 そう。彼らの色香は神々の奇跡に違いない、と。


『はい、撮影入りますよー。外のエキストラさんは指示通りに通学中という雰囲気で。学校内のエキストラさん達は朝練の部活してる生徒ね。声は出さないようにー』


 主要の人達の声を綺麗に拾えるよう、エキストラは基本声を出さない。

 しかし、そのルールを破りたい訳ではないのに、今回のドラマでは勝手に声が出てしまう人々が多数出ている。かくいうBもその内の一人である。


 その人が現場に立つと空気が変わる。


 初めてKIRAを見た時に感じた『煌びやかなアイドル』オーラとはまた違う、独特な空気感。

 まず彼が現場に来ると、周りの人間の肩から力が抜け、皆リラックスしたような顔になる。しかし、彼が演技に入った瞬間、その甘やかな空気はガラリと変わる。その時の彼は、とにかく「すごい」の一言だ。


(ミロクきゅん、ラジオでつい最近まで素人だとか言ってたけど嘘でしょ)


 ミロクの演じる役は、戦国時代らしきところから現代日本に転移してきた武士だ。ウイッグをつけて長髪を一つに結わえている彼の姿は無駄に色っぽい。

 少し大きめに仕立てられている制服を着ている彼は少し華奢にも見えるが、それは大間違いだとB(と、他の344ファンなエキストラ達)は知っている。彼の服の下には、細マッチョよりも気持ち太めに鍛えてある筋肉があるということを。


「司様、どうか弥太郎をお側に……」


「しつこいな! なんで俺なんだよ!」


 死んだはずの主人そっくりな司(KIRA)に、家臣にしてくれと何度も頼む弥太郎(ミロク)。しつこいと嫌がる司に、弥太郎はまるで痛みを堪えるかのような笑顔を見せる。


「司様だからです。司様を、ずっと、お守りしたいのです」


 そう言うとくしゃりと顔が歪み、長い睫毛に溜まった透明な雫は、彼の頬をポロポロと転がり落ちていく。


『はい、カットです』


 ミロクの元にマネージャーらしき女性が駆け寄り、おしぼりを渡されて笑顔になったと思うと、再びふにゃふにゃと泣き出してしまっている。

 慌てるスタッフ。

 慌てるKIRA。

 マネージャーが何か言ったようで、ミロクは落ち着いたようだ。

 ホッとするスタッフ。

 ホッとするKIRA……と思ったが、急に大声で何かを言ってそっぽ向いている。


(KIRAってよく知らないけど、ツンデレ……だったら面白いかも)


 どんなに演技が上手くてもミロクはやはり素人で、周りの助けが必要なようだった。344古参のファンとしては彼らを助けるべく、しっかりとエキストラをこなさなければならない。

 そう。しっかり最後まで、である。

 ミロクの発するフェロモンに、ぼんやりとした脳を覚醒させるべく顔をパンパン叩く。


「あなた大丈夫?」


「あ、はい、ありがとうございます」


 エキストラの一人がBに声をかけてきた。少し驚いて返すと、そんなBの様子に彼女は苦笑している。


「警戒しないで。私はシジュさん推しだけど、あなたは王子推しでしょ? 私でさえ王子のフェロモンに当てられてるくらいだから、大変だろうなと思って」


「ああ、ファン倶楽部の部員でしたか。はい。ミロクきゅん推しで幸せなんですけど辛いですねー」


「頑張ってるね。一回でも意識なくしたら、次回から出られないから皆必死なんだよね。私童顔だから何とか潜り込めたの。実際は成人してるんだ」


「そうなんですか! それはそれですごいですね!」


「そうそう、辛かったらあそこでエキストラ用に飲み物とかあるよ。344の事務所の人が用意してくれてるみたい」


「えっ、そんな事まで……至れり尽くせりですね」


 早速その場所でお茶をもらいリフレッシュしたBは再びエキストラとして、344(ミヨシ)というユニットの一人のファンとして、気合を入れ直し現場に戻って行くのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

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