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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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187/353

160、撮影後に話し合うオッサン三人女子二人。

 茹だっているポワポワ頭の女子を宥めたり、シャワーを浴びるミロクの元に行こうとする美少女をオッサン二人が慌てて止めたりというイベントをこなした三人と一人。

 とりあえず茶でも飲もうとテレビ局側にあるカフェテラスにて、疲れた顔で椅子にぐったり寄りかかっている三人と一人。

 そんな疲れた大人達の中、一人元気なのは十代半ばの美少女のみである。


「私は尾根江プロデューサーの指導を受けております、須藤(すどう)美海(みうみ)と申します。妹が迷惑をかけただけでなく、私まで突然のボディタッチ等々申し訳ないです。興味のあるものには触れずにはいられない性質でして」


「性質……ミロク君はともかくとして、なぜ僕まで?」


「服の上からでも分かる、上腕二頭筋のバランス良い太さの筋肉……つい、心惹かれまして」


「お! 分かってるなぁ! ヨイチのオッサンは筋肉付きやすいから、ここまでの状態をキープするのに苦労してんだ」


「なるほど……」


 美少女、美海の言葉に、オッサンアイドルグループ344(ミヨシ)ダンスとヘルスケア担当のシジュは、筋肉批評に対して嬉しそうに返す。そんなシジュを彼女はじっと見る。その強い視線にいささか腰が引けるシジュ。


「あなたは無駄な部分が無いように見えて、自分の体型で一番スタイル良く見えるであろう部分に筋肉を付けているのですね。それでいてダンスに支障が出ないようにしています」


「う、な、なぜそれを……」


「へぇ、シジュはやっぱり努力家だよね」


「さすがですねぇ、シジュさん」


「やめろ! ニヤニヤしながら俺を見るな!」


 メンバーから生温かい目で見られ、目尻を赤くして照れているシジュの様子は微笑ましい。そのほんわかムードの中でもフミの目は氷点下のままだ。

 美少女である美海の隣にはヨイチが座り、フミとミロクとシジュは対面に座っているのだが、隣から漂う氷点下の空気にミロクは珍しく居心地が悪そうにしている。


「フミちゃん?」


 シャワーを浴びたせいか、まだ少し濡れた髪を揺らし、困ったよう笑顔でフミを見つめるミロク。そんな彼の眼差しには勝てず、少し頬を赤らめて俯くフミ。


「い、いくらなんでも、年頃の女性が男性に気安く触れるのは、良くないです」


「そうですね。私は人を観察するのが趣味でして、相手の承諾を得ずに触ってしまった事は申し訳ないと……ああ、もしや」


 フミの様子に美海はポムっと手を叩く。


「マネージャーさんは、王子様と付きあってらっしゃるんですね?」


「「違います!!」」


「そ、そんな……!!」


 息ぴったりなミロクとフミに切り返された美海は、大きなショックを受ける。


「私の完璧な人間観察スキルが間違えるなんて……!!」


「ええと美海さんで良いのかな? 安心してくれていいよ。誰しも皆が思っているから。『いいから付き合っちゃえよ』ってね」


「付き合ってない意味が分かんねーよな。まぁこのバカップル仮は放っといて、さっき尾根江プロデューサーがどうとか言ってなかったっけ?」


「はい。お恥ずかしながら妹である由海の愚行により、私の事務所で少し問題が……そこで、尾根江プロデューサーが如月社長を紹介してくださったのです」


「はい?」


 ヨイチは一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐに真剣な表情でタブレット端末取り出し操作する。メールがあったようで、文面を読むヨイチは眉間にシワを寄せ深くため息を吐いた。


「力になれるかは分からないけれど、とりあえず分かったよ」


「叔父さん!」


「フミ、これは社長としての決定でもあるし、尾根江さんには年末お世話になったんだよ」


「私からもお願いします。ミロク王子様の婚約者様とはつゆ知らず、ご無礼致しました」


「え? こ、婚約者?」


「お付き合いされていない、恋人同士ではない、ご結婚されてもいないという状況から導き出される答えは『婚約者』であると」


「ち、違います!」


「ですが、王子様の慈しむようなオーラは、明らかに特別な関係性を……」


「ち、違いますー!」


 顔を赤くしながらメロメロな表情で否定するフミを、蕩けるような笑顔で愛おしそうに見守るミロク。そしてたまたま注文したコーヒーを持ってきた店員の女性が、彼の顔を見た瞬間コーヒーを零しそうになるのをぐっと堪え、震える手で置いているのをヨイチとシジュは感心したように見る。

 飲み物が行き渡ったところで、ヨイチは口を開く。


「須藤さんは大人っぽいね。その年にしてはとても落ち着いているように見えるし……」


「そうですね……見かけはともかくとして、心は老成していますね」


「え? それってどういう……」


 フミを愛でるのを一時中断させ、美海へ問うミロク。少し疲れた微笑みを浮かべてミロクを見返す彼女は、とても十代には見えない。


「私は、転生者ですから」


「て、転生者!? あの、生まれ変わりとかいう、あの!?」


 思わず叫んで立ち上がりかけるミロクは、周りの客の視線を感じて慌てて座り直し声のトーンを落とす。


「そんな、嘘ですよね?」


「はい。嘘です」


「嘘なの!?」


「うちの純粋培養フェロモン王子を揶揄うのは、可哀想だからやめてやってくれよ」


 がくりと項垂れるミロクの頭をよしよしと撫でながら苦笑して言うシジュに対し、美海は不思議そうに首を傾げる。


「ラノベごっことしては、定番だと思ったのですが……」


「どこで聞いたんだよ、それ」


「尾根江プロデューサーが言ってました、仲良くなる秘訣とのことで」


「……あのオネエは、うちの事務所に盗聴器でも仕掛けているんじゃねぇだろうな」


「それは違うよ。良い出来のものを公式サイトで流しているだけだから」


「何やってんだよオッサン!」


「ええ!? 叔父さんそんなことしてたの!?」


「フミが出ているのは流してないから」


「ならいいです」


「ミロク君に流してるけど」


「良くないです!!」


 叔父と姪のやり取りを横目に、シジュは美海と向かい合う。


「それで、嬢ちゃんは具体的に何がしたいんだ?」


「私はアイドルというよりも、女優になるのが夢です。出来れば皆さんの観察をさせていただきたいのです。邪魔はしません」


「観察……ねぇ」


 顎の無精髭を触りつつ意味深な目で美海を見るシジュだが、彼女の表情に変化はない。整った容貌は無表情のまま。冷たい人形のような美少女だ。

 尾根江の依頼であれば断れないだろう。自分の姪にポカポカ叩かれている社長と目が合うと、仕方なさそうに頷かれる。


「やれやれだな。ま、よろしくな」


 シジュの言葉に、無表情だった美海の顔が少しだけ綻んだ




お読みいただき、ありがとうございます!

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