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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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150、年越し生放送な音楽番組に飛び入り参加。

今年もよろしくお願いいたします。

 車から降りたミロクはその場の緊迫した空気に少しだけ気圧される。そこにはテレビ局内外で忙しそうに動き回る、局員番組スタッフの気配を感じられたのだ。


「ミロク君?」


「ミロク、どうした?」


「いえ、行きます」


 静かに、それでも声の温度は熱く、ミロクは言葉を発すると歩き始める。

 前を行くのは音楽番組スタッフとカメラマンだ。彼らの後を追うように三人は足並みを揃えてテレビ局に入っていった。


「え?誰だ?」

「放送中だろう! 誰だワイプで流している奴は!」

「ゲストか? 聞いてないぞ!」


 声が飛び交う中、ミロクは一瞬歩みを止める。そんな彼の様子を見てヨイチとシジュも歩みを止めた。

 毛先にパーマをかけ柔らかにセットした黒髪は彼の白い肌を際立たせ、その綺麗に整った顔に表情は無く、人形のように生気が感じられない。しかしその高身長を黒の燕尾服で身を包み、スタイルの良さを遺憾なく発揮させている彼は、否が応にも周囲から視線を集めていた。

 その視線を集めに集めたところで、ミロクは意識して匂い立つ色香を解き放ち、大輪の薔薇が咲くような笑顔を見せた。騒いでいた周りの人々は思わず息を飲み、動きが止まる。その中の数人は、男女関係なく口が開きっぱなしだ。

 そんな彼の表情の変化はしっかりとカメラはしっかりと捉えていた。カメラの向こう側がどうなっているかは、想像にかたくない。


「これは負けていられないね」


 ミロクと同じく燕尾服を着たヨイチが、その切れ長な目でふわりと周囲を流し見ると、女性番組スタッフはトドメとばかりに腰砕けとなる。


「ミロクめ、本気出してんな」


 ニヤリと男くさく笑うシジュは燕尾服の首回りを緩めながら、やれやれと気怠げに二人の後を付いていく。その彼の力強くも広い背中に、熱い視線を送るお姉様方と一部の若者(男性)達。シジュの懐の深さは男性にも強い憧れを抱かせてしまうようだ。罪(?)な男である。


(ここが勝負だってヨイチさんが言っていた。怖がっている場合じゃないな)


 ミロクは笑顔を絶やさぬままカメラマンの導く先へと歩みを進めると、大御所である演歌歌手『中森小夜子』が歌うスタジオへと辿り着く。

 重たいドアをスタッフが開き、その中へと入る三人。スタジオ観覧する客達の間を通り、呆気にとられているキラキラした衣装を着た若者三人を横目で確認する。

 彼らがこの音楽番組で新年一発目に歌う『TENKA』という三人組のアイドルだろう。ヨイチから聞いた情報では「シャイニーズ副社長の息がかかっている」ユニットだ。


「あんたら何考えて……」


 その内の一人であろう金髪の若者が止めに入ってくるが、そんな彼をミロクは真正面から見てふわりと甘い微笑みを浮かべる。


「よろしくね」


「……っ!?」


 その笑顔に一瞬頭が真っ白になった気の毒な青年を尻目に、三人はスタジオ内の舞台へとあがる。口をパクパクさせて真っ赤になっている金髪青年がメンバーらしき二人に支えられていたのを確認し、ヨイチとシジュはホッとする。今日のミロクは色々な意味で危険だが、勝負のためには仕方がないとも思っている。しかし出来れば被害は最小限に留めたい。


「久しぶりねヨイチ君。リハーサル無しの一発勝負になるわね」


「臨むところですよ」


 フルコーラス歌う予定をワンコーラスで終わらせ、どうやらヨイチと顔見知りらしい彼女は年齢を感じさせない艶やかな笑みを浮かべて三人を迎え入れる。

 マイクはオフの状態となり、ミロク達にはスタッフからマイクが付けられる。

 そこで新年のカウントダウンまでの短い時間を344(ミヨシ)に明け渡した彼女が、舞台を降りようとするのをミロクは引き止める。


「何度か、いらっしゃってますよね。俺たちのイベントに」


「え?」


 驚いたヨイチとシジュが小夜子に目を向けると、二人の視線に戸惑っていた彼女は小さく頷く。


「なら、合わせられますよね」


 そういうやり取りの間にも前奏が始まっている。

 曲名はもちろん、344(ミヨシ)デビュー曲であり、CDシングルの売り上げ上位をとった『puzzle』である。

 とっさの判断か、シジュは振り付けを抜くようにミロクとヨイチに耳打ちし、小夜子は指先を軽く動かし振り付けを思い出している。

 ミロクは彼女をイベント会場で見て覚えていたのは偶々だ。サングラスにマスクに帽子という異様に浮いた女性が、さすがに暑かったのかそれを取った時の顔を見たからだ。そこですぐに『中森小夜子』だと気付いたのは、ミロクの観察力の賜物であろう。


『僕は君に恋をした。そんな簡単な話じゃない。

 恋はするものじゃない、落ちるものでもないんだよ。

 僕はハマってしまった。君にハマってしまった。

 それはもうぴったりと、隙間のないパズルのように』


 サビに入るとミロク達と一緒に踊る小夜子。数回イベントに来ているなら踊れるような、シジュ作の覚えやすい振り付けなのだ。

 カメラの位置を大きく動かさないように、小夜子と三人オッサンアイドルはポジションチェンジをせずに歌う。リハーサル無しである為、彼らは歌と己の『顔』で勝負することにしたのだ。


『僕はハマってしまった。君にハマってしまった。

 二つで完成するパズル、それが君と僕ならいい』


『二つで完成するパズル』という所で、ミロクは両手で、ヨイチとシジュは片方ずつでミロクの両側にハートを二つ手で作るのだが、今日は四人並んで三つのハートを作った。

 少し照れながらも手でハートを作る彼らに、女性達は萌え上がって歓声を上げていた。

 ワンコーラスである為に短いながらも、存在感のある歌声と素晴らしいスタイルの美丈夫三人が、大御所と呼ばれる歌手の舞台に上がって歌っている。そして彼女が三人のファンだとひと目で分かる満面の笑みと、一緒に合わせた振り付けを見た若い観客は、演歌歌手である彼女に親近感が湧いたらしく声援を送っている。


 カウントダウン。

 年明け一発目に出て歌う、シャイニーズのアイドル『TENKA』は、興奮冷めやらない会場で予定通り歌い始める。

 その笑顔は精彩を欠いていたものの、彼らはアイドルらしい存在感を出していた。

 それでも世間では、そして芸能関係者は、ワイプで未だ抜かれている飛び入り参加した三人の男性を注目しているに違いない。

 金髪の青年は指先が白くなるほどにマイクを握りしめ、懸命に笑顔を作り上げる。そんな彼を心配そうに見るメンバー二人。

 ヨイチの作戦は一応成功したが、年明け早々新たな火種を生み出したのかもしれない。





お読みいただき、ありがとうございます!

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