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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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147、二日酔いの弥勒と、実家へ戻った芙美。

遅くなりました!

(うー……飲みすぎた、かも)


 昨日のクリスマスの突発的なパーティーで、珍しく飲みすぎたミロクは痛む頭を押さえて起き上がる。そして思い出すのは昨日フミの扮装した、ちょっとエッチなサンタコスプレ。

 恥ずかしがるフミをミロクの隣に座らせる姉のミハチ。彼は昨日ほど自分の姉に感謝した事はない。


(アレは可愛すぎた。姉さんグッジョブだった)


 そんな姉のミハチは気分良く酔っ払ったシャイニーズスマイル全開のヨイチに腰砕けにされ、その後の行方は知れない。今日は事務所は休みにしているから、きっと二人はどこかで元気に爆ぜているだろう。

 そこでミロクはふと気づく。


「あれ? シジュさんはどうしたんだっけ?」


 自分は妹のニナに支えられて家まで帰った。フミは最終電車で実家に向かって父親が迎えに来るという話だった。真紀も冬休みだからとフミに付いて行くと言っていた。

 首を傾げながらリビングに行くと、そこにはシャツの胸元を大きくはだけさせ、だらしなくソファに寛ぐシジュがいた。


「……なんで家にいるんですか」


「なんだ、途中でお前が『おんぶしてー』って言うから、ブラコンなニナちゃんが鼻血出そうで動けなくなってて、しょうがなく俺がお前を背負って来たんだろーが」


「え? そうでしたっけ? そんな恥ずかしい事……」


 昨日の事を思い出していくミロク。何やら温かい背中を感じて癒されたその相手は……

 瞬間、ミロクの白い肌はサッと朱に染まり、羞恥のあまり両手で顔を覆ってしゃがみ込む。


「うあ……すっごい恥ずかしい……」


「おいミロク、照れるな色気を出すな意識するな。酔っ払いにはよくある話だろ」


 頬を赤らめるオッサン二人。それを冷めた目で見るニナ。


「二人して何やってんの。ほら兄さん二日酔いみたいだからスポーツドリンクにする?」


「あ、うん。ありがとうニナ」


「どーいたしまして!」


 頭痛を感じながらも笑顔でニナに礼を言うと、途端に機嫌よくミロクにスポーツドリンクを渡す彼女の様子にシジュは「扱いの差…」と呟いている。

 そんな不貞腐れるシジュには、ミロクがコーヒーメーカーを稼働してやった。コーヒーの良い香りにほっこりしつつ、彼にブラックコーヒーを出すと、向かい合うようにミロクは座った。


「昨日はご迷惑をおかけしました」


「おう。マジで気をつけろよ。お前酒飲むと普段の数倍の甘えたになってんぞ」


「うわぁ、記憶があまりないです……」


「テレビ業界は曲者が多いからな。酔って迂闊な行動すれば何があるか……俺かヨイチのオッサンが居ないところでは酒を飲むなよ」


「はい。すみません……」


 落ち込む弟の様子に苦笑するシジュ。彼もそれなりに業界に関しては知っている為、ミロクを心配して言っているのだ。そしてあの業界には多くいる同性の肉食獣に関しても言っておこうと思ったが、そこはヨイチに任せることにする。


(ピュアな所ミロクの持ち味だしなぁ)


 シジュは心の中でヨイチに丸投げすると、美味しいコーヒーを堪能するのであった。







「なんだ、ミロク君を連れて来なかったの?」


「な、なななな何言ってるのよ! お母さん!」


 夜遅くに実家に到着した為、母親のシトミとは翌朝に顔を合わせることとなった。そして開口一番がコレである。


「もう。こっちが気を使ってあげたのに。私の見舞いってことで、そのまま連れて来れば良かったじゃない」


「まだ彼らは仕事が残っているもん! ラジオのスペシャル番組のカウントダウン放送だってあるし……」


「……なんだ。こっちには来ないのか」


 父親のヨミまでがミロクの事を言い始める。驚くフミに「お父さん楽しみにしてたのよ。なぜかミロク君の事は気に入っていてね」と耳打ちするシトミ。

 彼の『人タラシの力』は、頑固な自分の父親をも軟化させるようだと、驚きながらもフミは納得していた。


「それに、そもそも私達付き合ってないんだから、ミロクさんに変な事言わないでね!」


「え? あなた達付き合ってないの?」


「つ、付き合って、ないよ!」


 顔を赤くするフミに、夫婦はミロクに会った時の事を思い出す。あれはどう見ても初々しい恋人同士といった雰囲気だったが……


「ああ、そういえば真紀ちゃんは? 朝ごはん食べないの?」


「真紀はまだ寝てるけど、そろそろ起こそうかな」


 そうフミが言い終わると同時に、二階から叫び声が上がっている。真紀の声だ。慌てて彼女が寝ている部屋のドアを開けると、布団に包まり丸くなっている真紀らしきモノがいた。


「えーと、真紀? 二日酔いとか大丈夫?」


「……うう」


「あ、でも真紀はお酒強いし、二日酔いになった事ないもんね!」


「……うう」


「真紀、私じゃないよ? ちゃんと言ったよ」


「……分かってる。分かってるけど……」


 布団をバサっと跳ね除ける真紀は、全身茶色だった。否、全身茶色タイツであった。

 ズレている赤い鼻と、トナカイのツノカチューシャが痛々しい。心も身体も痛々しい。

 少しツリ目気味の目を潤ませて真紀はフミに問う。


「正直に答えて」


「うん」


「私は、この格好で寝たの?」


「うん。脱ぎたくないって言ってた」


「フミのご両親にも見られた?」


「うん。可愛いって言われて喜んでた」


「これ、私このまま電車乗った?」


「コート着せようとしたけど、暑いって言うから」


「うあああああああもうおわりだあああああああ!!」


 号泣する真紀に、フミは慰めの言葉を並べるが効き目がない。


「ほら知り合いとかいなかったし、大丈夫だって!」


「うえ、うう、ひっく、ほ、ほんとぉ?」


「うん。本当だ……ん? どうしたのお父さん」


 真紀の鼻水と涙を拭いてやるフミは、ドアの所に父親がこっそり立っているのに気づく。さすがに中に入っては来ないが、何か言いたいようでフミは父親の側に行くと目の前にスマホの画面を出される。

 そこにはネットニュースで「はしゃぐ若者達のクリスマス」という写真が載っていて、後ろ姿のミロクを含めた男性陣と、フミを含めた女性陣と、そしてジャンプする真紀が……


「えっと。顔はぼやっとしてるし、大丈夫かな?」


 なかった事にしようとフミと父親のヨミは顔を見合わせ、無言で頷く。

 世の中には知らない方が幸せという事もある。フミは部屋に戻ると優しく真紀の頭を撫でてあげるのであった。






お読みいただき、ありがとうございます!

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