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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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145、尾根江の話と様々な思惑。

 尾根江のオネエらしからぬ様子に、驚くオッサン三人。フミはあまり気にしていないように見える。

 その体格通りの低い声に威圧されるような気がしたミロクは、少しだけ背筋を伸ばした。


「何から話そうか。うーん、始まりは君達のCM撮影から……と言えば、どう?」


「……そこからでしたか」


「ん? どういう事だ?」


「さぁ?」


 難しい顔で頷くヨイチの隣で、首を傾げるミロクとシジュ。フミはペコリと一礼すると席を離れて何やらスマホを取り出して操作している。


「そういえばそっちにもあるのよね。忍者チームだっけ?」


「サイバーチームです」


 如月事務所『サイバーチーム』。彼らの情報収集能力はとある機関でも現代最強忍びと称される程だ。そして特殊能力保持者が多くいる集まりでもある。

 彼らの事をヨイチは全容を把握していないのだが、下手に縛るよりも自由にさせておく事こそが多くを手にいれる方法だと分かっている。こういう風に人を上手く使うことが出来るヨイチという人間は、経営者として高い能力を持っている事が分かる。


「社長、これを……」


 席に戻ったフミがヨイチにスマホを渡す。画面を見てヨイチは苦々しく呟いた。


「あれじゃ足りなかったみたいだね。まったく」


「CMっつったら、ヨイチのオッサンが押し倒されたのと……」


「そっちは穏便に済んだからね。問題は……」


「俺の時の、ですか。彼女は中学生でしたよね?」


 ミロクは思い出していた。

 あの化粧品のCM撮影で予定していた相手役の女の子は、ミロクに近づきたいという理由でわざと下手な演技をして撮影を長引かせた子。撮影の様子を見て、激怒した尾根江プロデューサーによって役を下りることになってしまった。

 彼女の自業自得とはいえ、最後に泣き叫ぶ女の子の声を思い出し、ミロクは悲しげに目を伏せる。


「彼女は確か、尾根江さんのプロデュースしているデビュー前のアイドルでしたよね」


「そうよ。本当はあの三人で出す予定だったけど、変更で他グループ三人と合わせて五人でのデビューになったの。評判が良いみたいだからこれで良かったんだと思うけど」


「そう、でしたか」


「ミロクさんのせいじゃないですよ。あれは彼女自身が幼かったんです」


「でも、彼女は中学生だった」


「ミロクきゅん。優しいのは良いことだけど、その優しさは一生懸命、真面目に頑張っている人達に向けてあげて。自分勝手な人間には不要なものよ」


「……はい」


 それでもやはり、まだ子供である彼女を一度の失敗で責めるのは可哀想な気がするミロク。彼の気落ちする姿に心配するフミは、ミロクの背中をそっと撫でている。


「で、そのサイバーな子達は、ちゃんと調べ上げたのかしら?」


「そうですね。その子の姉が今回のドラマの生徒役になったと……そして原作者の同級生だとあります」


「なんか話が入り組んでて面倒クセェ」


 シジュがため息を吐き、未だ気落ちしているミロクの頭をワシワシと撫で回す。その様子を見ているヨイチは珍しく舌打ちをする。


「ミハチさんの言う通り、徹底的にやるべきだったかな……」


 その言葉を聞いて顔を上げるミロク。一体姉は何をしようとしていたのか。そしてヨイチはそれを止めたものの、今出来るならやろうとしているように見える。っていうか言ってる。


「ヨ、ヨイチさん?」


「ん? 何だいミロク君」


「……何でもナイデス」


「オッサン、黒い。笑顔が黒いから」


 言い合う三人を見て「相変わらず仲が良いのねぇ」と、尾根江はオネエに戻って熱い視線を彼らに送る。


「今回のドラマに携わっている広告代理店の系列会社がこのビルにあってね、そこでまぁ色々と聞けたのよ。原作者の学生作家さんのお陰で」


「ああ、同級生だからですか」


「件の子はよくある名字だから気づかなかったのよね。姉妹だって知ってたら考えたんだけど……でも、姉妹だからって何かするのもね。聞いたところによると、どうやらあなた達に良くない感情を持っているって話よ」


「同級生っつっても、ヨネコちゃんよくそこまで聞けたよな」


「作家であることは隠しているみたいよ。まさか原作者が同じクラスにいるとは思っていないんじゃない?」


「流石、ヨネダヨネコ先生。ご自身でも仰ってましたが、学校ではステルス機能を全開にしているって話です」


「そんな機能を全開にすんなよ……楽しめよ学校生活を……」


「引きこもり体質の俺には分かります。ヨネダ先生の心が」


「お前の体質も大概だな」


 ちなみに、ミロクにステルス機能は搭載されていない。色々とだだ漏れである。


「ミロクきゅんの感動はともかく、あともう一つ問題があるのよ」


「その姉妹以外で、ですか?」


 尾根江は、その大柄な身体を縮こまらせて囁き声になる。


「男子生徒役に、シャイニーズの実力派グループを押し込んできたのよ。一応アイドルである344(ミヨシ)が出るならっ良いだろうって」


「シャイニーズの……」


ヨイチの顔つきが変わる。元所属していた事務所ではあるものの、ヨイチとシャイニーズの社長との関係は良好な筈だ。となると……


「副社長派の息のかかった子達ってことですか」


「派? 派閥?」


こてりと首を傾げるミロクの仕草に尾根江が身悶えている。それをスルーしてヨイチは説明を始める。


「シャイニーズほどの大手ともなると、一枚岩ではないんだよ。全国からタレントを集めて、対象となるファンのニーズに合った多種多様なアイドルを生み出そうとすると、社長一人では無理なんだ。それでいくつかの派閥に分かれて、それぞれアイドルを抱え込んで売り出す。まぁそれでもメリットデメリットはあるけどね」


「うちもタレント事業とサイバー事業(?)があるしな」


「彼らの目指すところが分からないけどね」


「つまり、シャイニーズのヨイチさんと仲良しじゃない人のアイドルと、共演するかもしれないって事ですか?」


「そうよミロクきゅん。かもしれないじゃなくて、ほぼ決定だけど」


「「「え!?」」」


「あの、オーディションがあるって話では?」


固まるオッサン三人を見て、フミが尾根江に質問をする。


「それって脇役の話よね。主要キャストなんだから、あなた達三人がOKすれば決まるわよ」


「「「主要!?」」」


広いラウンジルームに、オッサン三人の裏返った叫び声が響き渡った。






お読みいただき、ありがとうございます!


ここに来ての回収…

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