139、養生する弥勒と実羽千の頑張り。
熱でぼんやりしたまま、ミロクは自分の部屋の天井を見ている。
「見慣れた天井だ……」
昨日は映えある『エルル・ガールコンテスト』のオープニングアクトとしてライブをして、その記憶はあるものの、その後からが定かではない。
思い出すのは泣きそうなフミの顔、それがひどく愛おしくて、ひたすら可愛いと連呼していたような……。
(……っ!? まさか俺、フミちゃんに何かしたとか!?)
再び熱が上がるような感覚を覚え、慌てて冷静になるよう何度か深呼吸をする。風邪をひいたのは数か月ぶりで、久しぶりの感覚にミロクは少しおかしな気分になる。
(俺って、いつの間にか体が丈夫になったんだなぁ)
適度な運動とバランスの良い食事で作られた体はすごいと、母親とジムのトレーナーに感謝するミロク。昔とは違う自分に、くすぐったいような気持ちになる。
深呼吸を繰り返し落ち着いた所で、ミロクは昨日のことを順を追って思い出すことにした。
「情けないわねー」
「……姉さん?」
控え室で横になっているミロクに声をかけてきたのは、姉のミハチだった。正直、今の状態ではフミに車で送ってもらう事が精神的にきついなと思っていたミロクは、姉の登場にホッと息を吐く。
「社長さんがね、念のため病院に連れて行くようにって」
ミハチがこっそりミロクの耳元で囁くのは、フミに聞こえないよう配慮しているらしい。ヨイチから事のあらましを聞いたと思うと、気恥ずかしくなるが今回は仕方がないとミロクは我慢する。
「ミハチさん、344のステージ観れたんですか?」
「ええ、うちの会社が協賛しているから、関係者席に呼んでもらえたのよ。今日は休みだしミロクはとりあえず私が送っていくわね」
「ごめんなさい。マネージャーの私が気をつけないといけなかったのに」
「とんでもない! このバカ弟が変に気を使っているからこうなったんでしょ。昔よりも丈夫になったって過信してるからこうなるのよ」
「え? ミロクさん体が弱かったんですか?」
「ふふ、そうなのよ、それがね……」
「姉さん!」
昔の話をされそうになり、慌てて止めようと起き上がったミロクだが、そのままふらりとして再び横になってしまう。
「もう、熱があるのに急に起き上がるから……」
「姉さんが変な事を言うからでしょ」
「ほら、姉弟でケンカしない。ミロク君は僕たちが肩を貸すから、とにかくミハチさんの車まで行こう」
「……はい、すみません」
ヨイチとシジュの肩につかまって歩いて会場裏口から駐車場に出る辺りから記憶がない。
病院でミハチがやたら恥ずかしいと言っていたが、自分が何をしたのかその辺りの記憶はなく、そこにフミが居なかったのなら良いだろうと、ホッとひと息つく。
「ミロクー、起きてるー?」
「起きてるよ」
「入るわね」
そう言って入って来たのは姉のミハチだ。思わずホッとした顔をするミロクを見て、悪い笑みを浮かべる姉。
「この様子だと、昨日のことをあまり覚えてないんじゃない?」
「姉さんに病院連れていってもらった所からあやふやで……」
「なんだ。結構覚えているのね」
「……変なこと吹き込もうとしたでしょ。やめてよ病人なんだから」
「馬鹿ね、病人じゃなくて怪我人よ。手の甲の骨にヒビが入ってて、熱もそのせいみたいよ?」
「え! そうだったんだ! もうちょっと練習すべきだったな、発勁……」
「あんたね……」
呆れたようにため息を吐くミハチに、ごめんと笑うミロク。まだ右手は痛そうにしているが、気持ちは元気になったようだと安心したように微笑む。
「まぁ、病院のことは覚えてない方が良いかもね。フミちゃんも居なかったし結果オーライね」
「え? なんで? 俺なんか変な事した?」
「ほら、熱が上がると、顔が赤くなるでしょ?」
「うん」
「目も潤むし、息も荒くなるでしょ?」
「うん」
「そういう事よ」
「うん?」
相変わらずミロクは、自分の容姿を周りがどう見ているか自覚が少ない。
いや、以前は「自覚が無い」だったのが「自覚が少ない」に成長できて良かったと言うべきであろうか。
あの後のミハチはとにかく大変だった。ヨイチかシジュあたりについて来て貰うべきだったと、後悔したほどだ。
看護婦はどの年代でもミロクの苦しそうな様子に腰砕けになり、男性の医師を呼んでもドギマギして診療出来ているか不安だった。それでもミハチが真剣な顔でお願いすると、美男よりも美女へ意識を向けることによって自分を取り戻した男性医師は、普段通りの診療をなんとか出来るようになった。
その時にはミハチを始め、病院関係者一同がぐったりしたのは笑い話にもならない。それほど多くの患者が居ない時間帯で良かったと思う。
ちなみに、待合室で元気のない患者数人が色気だだ漏れなミロクを見て、巷で話題の『オッサンアイドル』であることを知り、彼らを追いかけたいという目標を持ったそうだ。その後、元気を取り戻していくというのはまた別の話である。
「まぁいいけど。もう変に我慢したらダメよ」
「分かった。ありがとう姉さん」
ミロクは心からの感謝をそのまま笑顔に乗せて、姉に礼を言う。
「それ、ちゃんとフミちゃんにもしてあげるのよ。あんたの笑顔は皆を笑顔にするんだから」
「ん、そうする」
少し頬を染めて俯く弟の姿に、家族の自分だから何も思わないが、世間一般にこんな三十六という年齢のオッサンは受け入れられるのかと少し不安になる。
(そこは、あの人が上手くやるんだろうけど。いや、やってもらうけど)
色とりどりの果物とお粥を乗せたトレーをベッドサイドに置く。スプーンくらいなら右手で大丈夫だというミロクの様子を見て、ミハチはやれやれと言いつつも、安心した様子で部屋を出て行った。
お読みいただき、ありがとうございます。
最近、ツイキャス始めました…(・ω・)ご興味ありましたら是非ー。




