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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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135、事故と弥勒と悩める芙美。

慌てて駆けつけるヨイチとシジュが見たものは、散乱するオブジェと壁際にいるミロクとフミの座り込む姿だった。

幸いにもオブジェの素材は軽いものだったらしい。ミロクは右の手の平を前に出し、左腕はフミを抱え込んでいた。あの瞬間にここまで動けた彼は賞賛に値するだろう。


「無事かい二人とも!」


「あ、はい。咄嗟に発勁(はっけい)で落ちてくるものを吹っ飛ばしたんでオブジェが壊れてしまいましたが……フミちゃん大丈夫? 怪我はない?」


「わ、わたし、だいじょうぶ、です」


ミロクに抱きかかえられたフミは、息も絶え絶えに返事をする。真っ青だった顔も密着しているミロクのおかげ(?)で、徐々に顔が赤くなっていく様子にヨイチはホッと息を吐く。


「おま、発勁使うって何者だよ」


「いやぁ、拳法の達人動画を見ておいて良かったです」


「普通見ただけじゃ出来ねぇからな?」


ヨイチはフミを立ち上がらせ、シジュはミロクに肩を貸す。二人で何事かを会話しているのをボンヤリと見ていたフミだが、慌ててミロクに頭を下げる。


「ごめんなさいミロクさん! 助けてくれてありがとうございます!」


「いいよいいよ。可愛いフミちゃんに怪我がなくて良かった」


にこりと微笑むミロクは、いつも通りの甘いトーンと口調でフミを赤面させる。しかしフミは頭をプルプル振ると、オブジェを片付けるスタッフに頭を下げようとして止められていた。


「こちらも前方確認せずに動かしていたので、気になさらないでください。お怪我がなくて何よりでした」


「でも、これ壊れてしまって……」


「一部割れてるのも替えがあるので大丈夫ですよ。組み立てれば元通りになるので」


スタッフ達は怪我人が出なかった事に喜んでいた。事故となると色々と手続きがあって大変な事になってしまうらしい。


「邪魔になるといけないから、僕らは舞台の方に行こう。ミロクとシジュは立ち位置と振り付けの確認をするよ」


「あの、私は……」


「フミは客席から見てて。おかしい所があったら教えて欲しい」


「分かりました。すみません社長」


「うん。あまり考えすぎないようにね」


フミの悩みを知っているかのように、ヨイチは社長らしく一言残し、舞台にいる二人と合流して打ち合わせの続きを始める。


(やってしまった……)


立ち見のブースまで行き、思わずため息を吐きそうになって飲み込む。落ち込んでいる場合ではない。挽回しないとと心で叱咤するも、正した背筋は再び丸くなっていく。


(ずるいよミロクさん。格好良すぎだよ……)


明らかに前を見ていなかった自分が悪いのに、あの瞬間ミロクはフミを左手で抱き込み、次の瞬間には壊れたオブジェが床にある状態だった。

服を着ていると分からない厚い胸板と、ミロクの甘い体臭がフミの身体を包み込むのが分かった。

絶対に守ってくれる。そんな安心感をあの数秒で得られたのだ。


(ずるい。ずるい)


自分ばかり助けられている気がしているフミ。ほとんど弱音を吐かないミロクに、マネージャーとして自分は助けになっているのだろうかと不安を感じ始めた所での事故だ。

舞台の三人は、いつもよりも狭いスペースでの振り付け確認をしているようだった。舞台が違うせいか少し動きがぎこちないように感じるが、ダンスが進むにつれスムーズに踊れるようになっていた。

会場の設営準備をしているスタッフ達も手を止めて、舞台にいる三人の美丈夫に見惚れている。若い男性とは違う完成された身体と筋肉、合わせて香る色気に女性陣はすっかり当てられてしまっているようだ。

そんな彼らを、フミは改めて素敵だなと思った。

オッサンだと言われる年齢でも、こんなに素敵に歳をとれるのなら自分もそこに加わりたいと思う。


(そっか。私は……)


まだ社会に出て間もない自分。若い自分が歯がゆかった。

求めても得られない事なのに悩むなんて、ますます子供っぽい自分に腹が立つ。


(こんなんじゃ、ミロクさんに頼ってもらえないよね)


舞台からミロクがフミに向かって手を振る。そんなミロクに少し何かを感じながらも、子供みたいと笑顔で手を振り返した。


(成長しなきゃ)


フミは密かに心の中で決意する。

そして「ミロクに頼られたい」と考えている中で、そこにヨイチとシジュが欠片も存在していないことに、彼女は気付かずにいるのであった。








本番である翌日、早朝からコンテスト会場に集まった344(ミヨシ)の三人とフミは、リハーサルとしてマイクテストをしていた。

幸いにもダンスの振り付け変更は少なくて済むらしく、立ち位置が変わる際に体が触れないよう右肩を意識するというやり方で上手くいくとシジュは太鼓判を押した。

リハーサルの様子を、フミは観客席で見守る。

マイクを手に持つ三人が音声のチェックをしている。その様子にフミは違和感を感じていた。


(何か、違う)


昨日も感じていた違和感。それでもダンスはスムーズだったし、舞台の広さの問題かと思っていたのだが……


(何で!?)


慌てて舞台に駆け寄るフミに、三人は驚いて彼女の方を見る。


「何でですか!」


「どうしたのフミちゃん」


フミの勢いに驚くミロク。そのまま彼女は舞台に駆け上り、三人の持つマイクを見て険しい顔をする。


「すみません。とりあえずこれで大丈夫なので、次に進めてください! ……控え室に行こう」


ヨイチが進行のスタッフに声をかけ、控え室に向かうよう指示する。ミロクは困った顔をし、シジュは苦笑している。

部屋に入るやいなや、フミは険しい顔のままミロクの右腕を掴む。ビクリと体を震わせるミロクに、泣きそうな表情でフミは言った。


「やっぱり、皆さんがマイクを左手で持っているから、おかしいと思ったんです。怪我しているんですね、ミロクさん」





お読みいただき、ありがとうございます。


異世界には行けませんでした。

でもカップル転移とか好物ですw

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