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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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159/353

134、コンテストの準備中に打ち合わせの344。

高級住宅街が多くある都心から少し外れた場所に、その会場はあった。

七福神の一柱の名がついたそのビルは、イベント会場、展示場として建築されただけあり、音響や撮影などの機材は充実している。


先日のラジオ番組で告知した通り、ダイヤの原石を発掘する『エルルガール・コンテスト』は、十二歳から二十五歳までの事務所に所属していない女子をターゲットとしたコンテストである。

今年で30回を迎えるこの企画は、ファイナルに残らずとも『エルルガール出身者』は世間一般でも一種のステータスとなっているほど有名なコンテストとなっていた。


そんな一年に一度の大きなコンテストを翌日に控え、準備に大忙しの人々の中をポワポワした茶色の頭がぴょこぴょこと動き回っているのが見える。


(うん。今日も可愛い小動物フミちゃんだ)


ミロクは進行を担当しているスタッフと打ち合わせしつつ、その場所からマネージャーとして動き回るフミを驚異の速さで見つけ出すことに成功し、隙あらば愛でて和んでいる。

ヨイチは何度か事務所として人材をスカウトするために来たことがあるらしいが、今回は如月事務所は参加しないこととなっている。如月事務所は現在多くの所属タレントを抱えており、ヨイチの活躍もあって新規の人材確保は来春までストップしているのだ。

ダンス担当であるシジュはステージの大きさを歩幅で測り、振り付けの見直しをしている。


「横は良いけど縦ラインには動けないな。曲はCMのだから何とかいけるか」


「シジュ、このスペースで一度合わせたほうがいいかな?」


「んだな。やっていいか聞いてみてくれ」


「了解。ミロク君はフミを呼んできて」


「はい、喜んで!」


パッと花咲くような笑顔を見せるミロクを、現金だなぁとヨイチは苦笑して見送った。






フミは事務所で新たに創設された『344企画チーム』に頼まれて、一般枠でくるファン倶楽部の会員が観覧するスペースを確認していた。会場の後ろに作られた凸の字のようなスペースがそれだ。


「一列十人として、十列……何とかなるかな」


「へぇ、立ち見になるんだね」


「ひゃっ……!! もう、ミロクさん! 驚かさないでください!」


一生懸命スペースの広さを確認しているフミの耳元で突然話しかけるミロク。彼は別にフミを驚かせたかった訳ではなく、周りの音がうるさかったから耳元で話しかけただけなのだが素直に謝った。


「ごめんフミちゃん、驚かせるつもりはなかったんだけど」


「い、いえ、私こそ驚きすぎですよね。すみません」


「謝ることはないよ。小動物は警戒心が強すぎるくらいが丁度いいんだから」


「ふぇ? ショウドウブツ?」


「あっ、ヨイチさんがフミちゃんを呼んでいるんだった。舞台の方に行っても大丈夫?」


「社長が? はい、大丈夫です」


舞台の方を見ると、ヨイチとシジュが手を振っている。彼らに手を振り返したミロクは笑顔でフミを振り返った。


「行こう」


一瞬息を飲むほど綺麗に笑ったミロクに、今までにない安心感を覚える。それは何かとは言えないが、フミはミロクがその「何か」を乗り越えたのかもしれないと、そう思ったのだ。

その笑顔に飲まれ、無言で頷いて彼について行くフミは、自分の心が疼くのを感じていた。


(ミロクさん、やっぱりあの時事務所で何かがあったんだ)


この前の会議室での騒ぎは、ミロクの知己である来客と盛り上がった為と知らされていたが、それだけじゃなかったような気がしている。


(私には、教えてもらえないのかな……)


ミロクの事だから聞けばきっと教えてくれるだろう。でもそれでは意味がない……というか、フミは「水臭い」という気持ちでいっぱいだった。

自分は彼のマネージャーで、パートナーみたいなもので、何でも話して「頼って」欲しかった。


(頼ってなんて、こんな子どもな私に言われても、ミロクさんも困るよね)


「フミちゃん? どうしたの?」


思わず下を向いてしまったフミの様子に、ミロクはすぐに声をかける。彼の最重要ポイントは常にフミであり、そこはブレないのだ。


「いえ、大丈夫です。ほら社長が呼んでますから行きましょう!」


勢いよく駆け出すフミは、周りを確認せずに動いてしまう。


「危ない!!」







舞台の上でミロク達の様子を見ていたヨイチは、マネージャーでもあり姪でもあるフミがここ数日考え込んでいる姿をよく見ていた。彼女の視線が常にミロクにあるのを見て、考え込む内容は大方予想がついていたのだが、フミから言い出すまで放っておこうとシジュと決めていた。

肝心なミロクはフミの様子に気づいてはいるものの、踏み込むべきか躊躇しているようだった。


「青春だよねぇ」


「あん? 何がだ?」


「ミロク君とフミが」


「まぁな」


ステップを踏んでいたシジュが、ヨイチの隣にきてミロクのいる方向を見ると、「危ない!」という声が響き渡り、積んであった大きな四角いオブジェがフミの上に落ちるのが見えた。


「フミ!?」

「おいっ!!」


ヨイチとシジュが舞台から降りた時には、崩れたオブジェは辺りに散乱しており、フミの姿は見えなくなっていた。






お読みいただき、ありがとうございます。



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