133、社長達の思惑。
前話を少し書き直しましたが、説明不足ですみません。
やって来た社長は、ミロクが営業で回っていた先の社長です。
ミロクの会社の取引先の社長です。
ややこしくてすみません…m(_ _)m
床に座ってオイオイと泣いていた男性とミロクを立ち上がらせ、ヨイチは忙しそうにする事務スタッフに無理を言って温かいお茶を用意させる。
シジュは素早く濡らしたタオルを二人に渡していた。彼の前職からすると当たり前のことである。ホストという仕事は細かい気配りが重要であり、そうでないホストは客を逃してしまうのだ。
「ああ、申し遅れました。私はこういう者です」
事務所の社長であるヨイチと遅ればせながら名刺交換する男性。彼は菅原と名乗った。
「菅原……菅原建設の社長さんでらっしゃったんですか」
「いやぁ、もうそろそろ社長職も引退しようかと思っていますがね。大したことはしていないので畏まらないでください」
菅原は目尻のシワを深めて笑顔になる。ミロクは泣いた事が恥ずかしいらしく、赤い目元を隠すようにタオルを当てて俯いているが、肩の力が抜けている様子に大丈夫だろうとヨイチとシジュは顔を見合わせて頷く。
「なんで建設会社にミロクが営業にしてたんだ? 取り扱っていたのは健康食品だろ?」
「それはあまり知られてはいないのですがね。我が社の経営理念というか、社員のために『健康第一』というのを掲げているのですよ」
「それは素晴らしいですね。でもそれを知られていないとは?」
「これはあくまでも上に立つものの理念なのですよ。健康な人間がいなければ会社は成り立たない。人あってこそですからね。もちろん社員にも健康に関して取り組んではもらってますが。その経営者の理念を彼はどこかで知り、健康食品を売り込んできたんです。私に」
「え? 社長に直接?」
「うう、それはもう言わないでくださいよ……」
目元をどころか首まで真っ赤にしたミロクは、顔をタオルで覆って小さくなってしまう。そんな彼にシジュはニヤニヤしながら「やるなぁ」と小突く。
「彼は社外に移動しようとした私に直訴してきましてね。『これは自分でも試して、血液検査で良い数値が出ました! 良いものですから是非御社の社員の方々の健康の一助に!』なんて必死な顔をして言ってきたんですよ。私も秘書も、周りの社員もぽかんとしましたが、何だかおかしくなってしまって……ついついその場で購入することを確定してしまったんです」
はははと明るく笑う菅原に、ヨイチとシジュも釣られて笑う。一つのことに一生懸命になると突っ走るミロクを知るが故に、彼らしいと微笑ましく思った。
「笑わないでください! 俺も若かったんですよ!」
「いや、お前なら今でもやりそうだぞ?」
「そうだね。ミロク君ならやりかねないね」
顔を赤くして言うミロクをサラリと躱す年長組は、二人とも優しい笑顔をしている。そんな三人の様子に菅原は安心したように微笑む。
「うん。確かに大崎君はあの頃と変わっていないね。こういう仕事なのに驕った所もない。良い上司に恵まれているし、安心してメンバーに報告出来るよ」
「メンバーですか?」
やっとタオルから顔を上げたミロクは、菅原の言葉に首を傾げる。
「そういえば、菅原さんは取引先の代表みたいな事を言ってましたが……」
不思議そうに問うヨイチに、シジュも同意したように頷いて菅原を見る。二人の美丈夫に見つめられても特に表情を変えずにいる菅原は、さすが『社長』である。
「ミロク君が急に辞めた時に、私は『損害を受けた取引先』を探してね。その時に彼らと意気投合したんだよ」
「ほう」
ヨイチは興味深そうに菅原を見ると、その視線を受けた彼はニヤリと笑って続ける。
「結局そんな『取引先』は見つからなかったんだけどね。それで彼らと密かに取り決めた事があるんだよ」
「取り決め、ですか?」
「私達の繋がりで、君の勤めていた会社からは多くの食品を仕入れている為、今は取引先から得意先になっているんだよ。私の会社だけではなく業種問わずに」
「なんか、すげぇ話だな。それとミロクがどう関係するんだ?」
菅原はシジュの粗野な物言いに嫌な顔をせず、笑顔のまま話を進める。ミロクだけではなくヨイチも困惑気味だ。
「つまりね。大崎君が望むなら、あの会社との取引を今すぐ停止しても構わないんだよ。私は大崎君の担当だった全ての会社の代表として今日は来たんだ」
「「「えええええええ!?」」」
菅原社長の爆弾発言の後、動揺したミロクは再び泣き出し、周りは大いに慌てた。
お茶を持ってきたスタッフはミロクの涙に動揺して、大慌てで会議室から出てきたためにサイバーチームの一人がそれを見て、会議室に詰めかける騒ぎとなったりもした。
「結局、何もするなって言うんだよな。まぁミロクらしいっちゃらしいけどな」
「うん。ミロク君らしいね」
「当たり前じゃないですか。前の会社の一部の人が嫌だっただけで、他の社員に罪は無いんですから。……まぁ俺が言わなくても菅原社長は分かってたみたいですけどね」
君ならそう言うと思ったよと笑って去ったその人の背中に、ミロクは姿が見えなくなるまでお辞儀をしていた。彼の、彼らの心意気が嬉しかったのだ。
「今度は、俺が会いに行きたいです。他にも良い人達はいました。お礼が言いたいです」
「おう、俺も付いて行くぜ」
「僕も付いて行くよ。344(ミヨシ)として挨拶に行こう」
「はい! ありがとうございます!」
「バーカ」
シジュはくしゃりと笑ってミロクの黒髪をわしわしと掻き回す。やめてくださいと言いながらも嬉しそうにするミロクは、すっかり柔らかな表情になっている。その目元が赤いのを見てクスッと笑うヨイチ。
「ふふ、今日の仕事がラジオだけで良かったね」
「ぷぷっ、そうだな。ウサギみてーに赤いもんな。でも安心しろ。可愛いぞ。ぷぷぷっ」
「ちょっと! 笑うなんてひどいです! 感動の涙なんですからね!」
お返しとばかりにシジュのセットされた髪をぐしゃぐしゃに乱すミロクに、やったなとシジュは反撃に出るもミロクはヨイチの後ろに隠れる。
「おい! 社長の後ろに隠れるのは反則だぞ!」
「なら未来の義弟の為に、僕も参戦しようかな」
「それはなんかイヤです」
「ひどいよミロク君!」
オッサンアイドル三人のワチャワチャで騒がしいやり取りに、マネージャーのフミが「会議室で騒がない!」と怒りに来るのは数分後のことである。
お読みいただき、ありがとうございます。
明日は所用のため、お休みするかも……
ここに来てペースが落ちてますが、しっかり色々見て吸収しておりますので、作品に生かせるよう頑張ります。
よろしくお願いします!




