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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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128、文化祭の一般公開の日、午前中。

この高校の文化祭は、三日に渡って行われている。

一日目は生徒のみで、所謂プレオープンの状態だ。ミロク達も少ない人数で臨んだが大盛況だった。

二日目は生徒と保護者のみでの解放となる。前日の客だった生徒たちが親に宣伝したらしく、保護者らしき客が多かったのと、ミロクのメイド姿で男子生徒が格段に増えた。


そして、三日目の今日は、一般客へ文化祭を公開する日である。




「ねぇシジュ様、今日は貴方とヨイチ様とミロクきゅんがライブとするというのは本当?」


「本当ですよ、奥様。それと俺を呼ぶ時は『シジュ』と呼び捨てに」


「え……でも……」


生徒の母であろう女性は、シジュの熱い視線を受けて動揺し俯く。その顎に指を潜らせ、そっと上を向かせるシジュ。


「ライブで、俺の名前を呼んでくれ。奥様」


「シジュ……」


「「はいアウトー!」」


ニヤつくシジュを後ろからスパコーンとダブルで引っ叩く、ヨイチとミロクの手にはスリッパが持たれていた。


「うふふ、昨日も来たけどやっぱり貴方達は面白いわ」


「光栄です奥様。うちの不良執事がご迷惑を」


「ごめんなさい奥様」


「いいの。これが見たくて来てしまったのだから」


「お母さん本気でときめいていたでしょ」


「うるさいの!」


シジュに口説かれていた客である女性と、その娘であろう女生徒は、言い合いながらも楽しそうにティータイムを過ごしている。

それを見ているミロク達三人の視線も柔らかい。


真紀の妹である美貴達生徒の企画した『執事・メイド喫茶』に、オッサンアイドルである344(ミヨシ)が寸劇を加えて、なかなか楽しいアトラクションのような喫茶店になってしまったが、客には非日常を感じると好評だ。

最終日におこなわれるライブの宣伝もしつつ、彼らは一般開放日である今日を迎えていた。

そこにサイバーチームの一人である白井の姿を見て、ヨイチはそっとその場を抜け出し彼の話を聞く。


「今日もご苦労様。色々手を回してもらって悪いね」


「いえ、社長に言われた通りに手配をしました」


「変な人はいなかった?」


「事前に非公式の344親衛隊には伝えてありましたし、組合長の知り合いのみですから大丈夫です。あとうちのチームである程度の身辺調査もしましたし」


「え? この短期間で?」


「はは、社長は自分達にこういう能力もあるから雇っていたんですよね?」


「いや、これは想定外だよ。僕は人格とかしか見てなかったから……はぁ、ミロク君には頭が上がらないな」


「そう、でしたか」


ヨイチは予想以上の能力や才能をもつ人材を得ていたと嬉しそうに笑った。その笑顔を見た白井は、彼にしては珍しく照れたような表情を見せる。

能力を買ってくれるのも嬉しいものだが、ヨイチが純粋に自分を内面を良いと思っていてくれた事が、気恥ずかしく、それでいて嬉しいものだったのだ。


「どうしたの? 白井君」


「いえ、何でも。それでは巡回に戻ります」


「ああ、悪いね。よろしくね」


「はい」


どこか軽い足取りで去る白井をしばらく見送り、ヨイチは店へと戻っていった。










茶色の猫っ毛をポワポワ肩口で揺らし、頭に付けているホワイトブリムとエプロンの白さを引き立てる、黒いメイド服はロングスカートのチューダーメイド服である。

肩で膨らんだ袖は二の腕でしぼられており、そのまま袖口まで長い袖口は白で折り返されている。少し高めのウエストから白いエプロンがふわりと広がり、その曲線を描く胸元を強調させていた。


「ああ、可愛い。フミちゃん可愛い」


「はいはい、可愛いな。うちのマネージャーは」


うっとりとしながらピアノを弾くミロクの側で譜面をめくりながら、シジュはおざなりに返す。ミロクがあまりにもフミを見て色気をだだ漏らすから、ヨイチの指示でミロクはしばらくピアノを弾く係になった。

彼としては弾きながらフミを鑑賞出来るので否やはない。むしろ嬉々として弾いている。

たまたま暗譜していない曲をリクエストされたため、シジュが譜面係となったが早くも後悔していた。

弾き終わって少し休憩しているミロクに、シジュは小さい声で話しかける。


「おい、色気を抑えろよ」


「抑えろって言われても、フミちゃんが可愛すぎて勝手に出ちゃうんですよ」


「このままだと『フミのせいで色気がだだ漏れる』ことで、マネージャー変わるかもしれねぇぞ?」


「それは嫌です!」


その言葉を聞いた途端ミロクの表情が変わり、そのキリッとした表情に客からはキャアという悲鳴が聞こえてくる。先程の熱に浮かされたようなものとは違い、男女共々意識はしっかりしているようだ。

今のミロクは王子然とした整った顔に、柔らかな笑顔を乗せている。


「やれば出来るじゃねぇか」


「フミちゃんに意識を集中させずに、今はピアノに集中しようとしているので」


「いや、さっきも今はピアノ優先にしとけよ」


小声でやり取りしているため、譜面に手を置きミロクの耳元で囁くシジュと、それに答えるミロクの構図は客達だけではなく、従業員をもざわめかせていた。

彼らの行動に特に意味はないが、ざわめくのである。それが萌えな世界なのである……と、思われる。


一般客も続々と顔を出してくる。ヨイチがミロクの様子を見て、もう大丈夫だろうと接客に呼び戻す。

昼過ぎから始まるライブの宣伝は午前中が勝負だ。フミと真紀と、美貴達生徒一同はギリギリ今日の朝一で刷り終わったライブのチラシを配りまくっている。


忙しそうに給仕するフミが、ふとミロクの方を向いて恥ずかしそうに微笑む。思わずドキリとした彼に向かって、「ライブ頑張ってくださいね!」と言ったフミに「ありがとう」と返すその笑顔で、周囲が再び腰砕け状態になってしまう。

果たしてこの一件は自分一人が悪いのだろうかと、スリッパで二連続叩かれたミロクはどこか腑に落ちない様子で、頬を膨らませて不貞腐れるのであった。


無論、その顔にも悶える人々がいたのは言わずもがなである。









お読みいただき、ありがとうございます。

次回はライブです。

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