126、制服パラダイスな二人。
一般公開日はまだですよ。
(さすがに、この背の高さじゃ無理があるような気がするんだけど……)
何故か顔を赤らめながら「チラシを配ってこい」というヨイチとシジュの命令で、ミロクは校内を散策がてら歩いている。
行く先々でチラシを配ろうとするも、手に取る生徒は殆どいない。特に男子生徒はミロクの顔をぼんやり見てたり、真っ赤になってどこかに走って行ったりと、どうやら生徒達には不評らしいと彼は感じていた。
(執事服の方が良かったんじゃないか?)
歩く動きに合わせて柔らかく揺れる黒髪、白い肌に薄く施された化粧は彼の黒目がちな瞳を引き立たせ、その瞳は好奇心に満ちてキラキラしていた。
(こんな風に文化祭を見たのは初めてだな)
そんな楽しそうなメイドなミロクを見た生徒たちは、とにかく事件だと大変な事になっている。
「あれって、生徒会が言ってた『執事・メイド喫茶』ってやつか?」
「外部の人を入れたとかって」
「執事の人達も格好良かったけどメイドさんもすごい美人……」
「声かけていいのか? いいのか?」
「あ! こっち見た!」
生徒達のヒソヒソ話が聞こえたミロクは、とりあえずそっちを見て笑顔を見せてみる。その艶やかな姿にうっとりする男子生徒と、「お姉様……」と呟く女子生徒達。
「あの、チラシを……」
その甘く響く声に、さらに「はぅんっ」と数人の男子生徒が前屈みになりどこかへ走り去る。女子達は顔を真っ赤にして動かない。
(やっぱりチラシを手に取ってもらえないなぁ)
どうしたものかと途方に暮れていると、遠くでポワポワした茶色の猫っ毛が見えた気がした。
「ミロクさーん!」
遠巻きにミロクを見ている女生徒に紛れて、茶色のポワポワが見えたり消えたりしている。思わず相好を崩してポワポワの元に向かうと、女生徒達からは悲鳴が上がる。
満面の笑みで駆け寄る美人というものは、男女問わず迫力があるだろうし彼の発する色気が半端ない。ミロクはフミに対して色々とコントロールが利かないのは毎度のことである。
「きっとこの人集りの真ん中にいると思いましたけど、大当たりでしたね!」
どうやら走ってきたらしいフミは頬を紅潮させてニッコリと笑った。
そしてミロクはミロクで、フミを凝視したまま固まっている。
「うぇ? ミロクさん?」
そう言うフミの格好は、先程まで着ていた露出の多いメイド服ではなく、その後着ていた執事服でもなく。
「あ、この格好ですか? すみません……ミロクさんのチラシ配りのサクラをやってこいって、美貴ちゃん……真紀ちゃんの妹さんから制服借りたんです。お恥ずかしいです」
紺のブレザーに赤いリボン、グレーのタータンチェックのプリーツスカート、紺のハイソックス、上履き、肩までの茶色の髪を揺らし、恥ずかしげにモジモジと膝を擦り合わせているフミは上目遣いで「もう似合いませんよね」と小さな声で呟く。そういう彼女の胸元がきつそうなのも、未だ固まるミロクの何かに拍車をかけていた。
「……」
「ミロクさん?」
「……」
「えっと、大丈夫ですか?」
「……フミちゃん」
「はい」
「ちょっと、一回戻ろう」
「え? はい?」
ミロクは殺人的な可愛さを周囲に振りまく女子高生の制服姿のフミの手を取ると、そのままスタスタと喫茶店となっている音楽室へと即行戻ることにした。
「君、どこのクラス?」
「ふぇ!? いえ、あの、ちがいま……」
「うわ、めっちゃ可愛い。こんな子うちの学校にいたっけ?」
「あの、私、この学校の生徒じゃなくって」
「ああ、制服交換して今日回ってんの? 交換した友達はー?」
「だから、ちがうんで……」
ミロクに待っててと言われたフミは、ちょうど音楽室のある校舎の外で立っていた。そして童顔なフミは、案の定ナンパに遭っていた。
ミロク曰く「殺人的な可愛さ」のフミは、高校生と思われていることにショックを覚えつつ、なんとか断ろうとしているのだが、彼女を取り囲む男子生徒の人数は多くなってくる。
(ど、どうしよう)
早く来てくれと祈るフミは、目の前にいる男子生徒の後ろに影ができた事に気づく。
「ごめんね。この子は俺が予約してんの」
紺のブレザーに、下はグレーのタータンチェック、上履きではなくスニーカーを合わせている。ネクタイは苦しいのか、だらりと緩めたその格好は「少し遊び慣れている感じの高校生」といったスタイルだ。
いや、そうじゃない。
フミはあまりの事に呆然としている。
さすがに現役の高校生と一緒にいれば大人の雰囲気があるため、高校生には見えない。見えないが。
(テレビドラマだったら、高校生だ!! 高校生にしか見えない!!)
ミロクの迫力(?)のある微笑みに気圧され、フミをナンパしていた男子生徒達は立ち去って行く。それを見送ったミロクはフミの方を振り向く。
「どう? フミちゃんとお揃い」
「う、あの、似合いますね……」
自分と遜色ない、いや、それ以上に似合っているミロクの高校生スタイル。
(この人、本当に私より十三も年上なの!?)
今更である。
今更なのだが、これほど制服が似合ってしまうミロクを見たヨイチとシジュも、まったく同じようなことを考えていたりする。恐るべしはミロクの肌年齢十代である。
そんなフミの心の葛藤はつゆ知らず、こうやって並んだら高校生カップルに見えるかなぁなどと、はしゃいでいるミロクはスマホで撮影しまくっていた。
「あの、ミロクさん、店に戻らなくて良いんですか?」
「ん、ヨイチさんが遊んできて良いって。シジュさんは文句言ってたけど、最後には涙目で送り出してくれたよ」
「なぜ涙目……」
大方ミロクの高校時代の話をヨイチから聞いたのだろうと、フミは正解を導き出していた。
なんだかんだ、年上二人は弟のミロクに甘いのだ。
「フミちゃん、せっかくだから俺に付き合ってくれない?」
「私も、良いんですかね?」
「俺、一人は寂しいって言ったら、ヨイチさんもシジュさんも良いって言ってくれたよ」
なんだかんだ、本当に、年上二人は末っ子ミロクに甘々なのであった。
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