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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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113、出張・アニメ緊急発信〜弥勒編〜

まずは王子から。

薄暗いホテルの廊下。

深夜二時を越えて誰もが寝静まっているであろうこの場所に、黒髪セミロングの女性が佇んでいる。絨毯を敷き詰めた廊下とはいえ、足音にも細心の注意を払い目的地に到着した彼女は、囁くような声で挨拶をした。


「おはよ〜ございま〜す」


声優アイドル大倉弥生は『アニメ緊急発信』というアニメの情報番組の司会者である。そんな彼女が深夜のホテルで何をしているのかというと……


「今回は『出張・アニメ緊急発信!』ということで、スタジオを飛び出し某ホテルまでやって参りました。最近人気急上昇中のオッサンアイドル、344(ミヨシ)の皆さんが、今日、このホテルで宿泊されているということで、わたくし、寝起きを! 寝起きドキドキ撮影を!敢行したいと思う次第であります! はい!」


言いながらも興奮してきた弥生を、カメラマンが慌てて「静かに」とゼスチャーをしている。


「す、すみません。344といえばアニメ『ミクロットΩ』の挿入歌やキャラクターソングを担当されている方々です。そしてオッサンである身を最大限に活用されてまして、大人の色香というかフェロモンというか……」


声の大きさを落としたものの、語り出す弥生にカメラマンが「早くしろ」とゼスチャーをする。


「え? まだまだ語り足りないんですけど……はいはい分かりました。それでは早速マネージャーさんからお借りしたカギで、寝起きの王子に突撃したいと思います〜」







ドアをゆっくり開けると真っ暗かと思いきや、部屋にある間接照明が光量を落とした状態でぼんやり光っている。

そっとドアを閉じる弥生。


「マネージャーさんからの情報によりますと、えーと、メモには『ミロク王子は真っ暗だと寝られないそうで、小さな明かりをつけて寝るそうです』ってんがふっ、子供かっ」


途中、女性らしからぬ音が出たかもしれないが、それは彼女の努力ゆえだと視聴者は認識するだろう。そしてそこを弄っている場合ではない。


「では、参りましょう」


再び音もなくドアを開けて、するりと忍び込む弥生。そっと入っていくと、サイドテーブルには寝る前に読んでいたであろう小説が置いてある。


「おお、さすが噂に違わぬラノベマニアの王子ですね。ええと『異世界転生でハーレムは作らない!』ですか。王子には直球ど真ん中なタイトルですね」


ライトノベルが好きだというミロクだが、どうしてもハーレム物が受け入れられないというのはファンには有名な話である。それはミロクの一途さを際立たせる結果となり、ファンは「好きになったら一途な王子、ステキ!」という心理になっていた。それが計算ではなく天然であるのが、彼のすごいところなのだろう。


「あとは……楽譜が置いてありますね。練習と努力の王子。さすがです」


いよいよとカメラマンと近づいていく弥生。


「ふぐぅ!!!!」

「んぶふぅ!!!!」


悲鳴を無理やり抑えるあまり、妙な音を立てる弥生とカメラマン。

それも無理はない。

部屋が暑かったらしいミロクは、腰から太ももにかけて布団をかけていた。


そして、全裸だった。


(な、なんで! どうして! フミちゃんは『可愛らしいルームウェアを着て寝るらしいです』って言ってたし、部屋に浴衣もあったし、なんで、なんで、なんで全裸になっちゃうかなー!!)


ワタワタするしかない弥生とカメラマンの物音に、さすがにミロクは気づいて目をうっすらと開いていく。

黒く長い睫毛に、整った顔には黒髪がハラリと額に落ちている。薄く開いた唇からは吐息交じりの声が漏れている。


「んぅ……だれ?」


着痩せするタイプらしいミロクは、その程よくついた筋肉と透き通るような白い肌を惜しげもなく晒し、上半身をゆっくり起こす。お腹にかかっていた布団は下に落ちて、引き締まった腹筋を露わにした。

立膝をつき、そこに肘を乗せるようにして前髪をかき上げるミロクは、如何にも『王子』だった。

幸いにも大事な部分は上手く布団が落ちて隠れている。隠れているがしかし。


「ダメ! これダメなやつ! やり直しなやつ!」


「へ? 大倉さん? どうしてここにいるんですか?」


小声で叫ぶという器用な弥生を見て、ミロクはハッキリと目を覚ます。全裸である自分を認識はしているが、下半身が出ているわけではないのでとりあえず状況だけを問いかける。


「どうしてもこうしてもないです! ミロクさんはやり直しです!」


「やり直し?」


弥生の後ろにいるカメラマンも、苦笑して頷いた。そこでミロクは「寝起きドキドキ」だと認識したのである。


「なんでミロクさん全裸なんですか。いつもはモフモフなルームウェアを着て寝てるって情報だったのに」


「寝る前にシジュさんが『全裸で寝るとリラックスして体が休まる』って言ってたので、早速やってみたんですけど」


「あのオッサン、余計な事を……」


ぐぬぬと呻く弥生。ミロクはどうしようかと困っていると、顔を真っ赤にしたフミが真新しいルームウェアを手渡してきた。その様子にホワリと微笑むミロクに、再び現場は大混乱となる。




結局、フミが(何故か)用意していた『モフモフわんころ餅・着ぐるみパジャマ』を身につけたミロクは、業界でも禁忌?とされている『寝起きドキドキ撮影』テイク2をする羽目になった。






お読みいただき、ありがとうございます。


お休みするお知らせに対して「無理しないで」という温かいお言葉をいただきました。

ありがとうございます。

なるべく途切れないよう頑張りますが、少し忙しくなりそうなので……

温かく見守っていただけると嬉しいです。

これからもオッサンアイドルをよろしくお願いします!m(_ _)m

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