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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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136/353

112、離れる仁奈と、尾根江の打診。

遅くなりすみません。


活動報告にハロウィンSSありますーm(_ _)m

「ぶはぁ……」


着替えるために控え室に誰よりも早く飛び込んだニナは、思いっきり息を吐く。彼女は息をずっと止めていたかのような胸の苦しさを感じ、実際あの場でうまく呼吸出来なかった……ような気がしていた。

兄のミロクからの無茶ぶりは、今まで彼に与えられることがなかった友人であり、兄のようであり、大切なメンバーの一人の危機だからというのは分かっている。分かっているのだがしかし……


(あれは、ずるい)


いつもはヘラヘラとして、だらりとした退廃的な印象のシジュが、フォーマルな衣装を着ただけであれほど変わるとは反則だとニナは大きく息を吐く。


(あれは反則だ。ずるい。息苦しい)


ドレスを脱いでいると、ドアを叩く音がする。びくりと身をすくませるが姉だと分かり力が抜ける。


「入って大丈夫?」


「うん。着替えたから大丈夫」


「あら、もう着替えちゃったの? 写真撮りたかったのに……でもしょうがないわね」


ニナの少し青ざめている顔を見て、ミハチは記念写真を撮ることを諦める。何よりも大事なのは妹だ。


「姉さん、ごめん」


「ニナ。顔色悪いけど大丈夫?」


「うん、ゴメンね。ちょっとドレスがきつくて」


「バカだな、俺と姉さんの前で強がらなくていいんだよ」


「ううん。本当に平気だから」


固まっていた表情を少し緩ませ、兄と姉に微笑んでみせるニナは言った通り平気そうに見える。それでもミロクは心配そうにしていたが、ニナの頭にぽんと手を置いた。


「無理させてごめん、ニナ」


「自分で協力するって決めたんだから気にしないで。シジュさんからのお礼は姉さんと一緒で良いって言ってくれる? さっき聞かれたから」


「了解」


いつもの動きやすいシャツとジーンズにジャケットを羽織り「先に帰るね」と、控え室から出て行ったニナを、ミハチとミロクは微妙な顔で見送る。


「好きになっちゃいけないって思ったら、もうそれが恋なのよね」


「はぁ、俺のせいだよね……今まで色々頼んじゃったし」


「そうかしら。遅かれ早かれじゃない?」


シジュは自分の側に女性を近づけさせない。それが誰であっても……だ。ニナはそれを感じ取り、自分の中に芽生えたものを閉じ込めることにしたようだ。


「ま、なるようになるわよ」


「姉さんはヨイチさんがいるからって、お気楽なんだから」


「ミロクにはフミちゃんがいるじゃない」


「……好かれてるとは思うけどね」


言いながらもミロクはションボリと俯く。まだまだ自分に自信を持てない弟に、ミハチはやれやれとため息を吐いた。











「な、な、なんですかこれ……」


事務所にて無心でキーボードを打ち続けていたフミは、スマホに何通もメールが届いているのに気づかなかった。すべてミハチからのメールだったため、ミロクに何かあったのかと慌てて確認すると、思わず床にへたり込む。


「か、か、か、かっこい……かっこいい……」


薄化粧のミロクは、普段の殺人的なフェロモンに妖しげな色気がプラスされ、女性どころか男性も虜にしてしまうだろう魅力に溢れている。

さらに、着ているのは燕尾服。そう。燕尾服だ。


「ああ、程よくついた筋肉、シジュさんの指導のおかげでミロクさんのスタイルがもう、もう、本当に素晴らしいの一言だ……!!」


黒の線の入ったスラックスが、ミロクの長い足をさらに長くみせていた。


「待ち受けにしなきゃ……」


まさか自分と血の繋がった叔父が、ミハチのドレス姿をフミと同じく待ち受けにしているとも知らず、ホクホク顔のフミは再び画像をうっとり眺めていたが、来客を知らせるチャイムが聞こえてきて我にかえる。


「はい、如月事務所です」


「あ、すみません! 番組でお世話になった、声優の大倉です!」


「大倉さん?」


以前、アニメの情報番組の司会で344(ミヨシ)と仕事をした、声優アイドルの大倉弥生はフミの出したお茶に笑顔で礼を言う。


「今日はサイバーチームのしらた……白井さんから、マネージャーさんしか居ないと聞いて、ちょうど良いと思って来ました」


「はぁ」


「実は、尾根江プロデューサーから、企画を持ちかけられて……私が今やっている番組『アニメ緊急発信』で好評だった344の方々に再度出演していただこうかと」


「え? 尾根江さんから?」


「そうです。そこは話せば長くなるんですが、一言で言うと私は尾根江さんと血縁関係でして」


「え? 一言? え? 血縁? ええええ!?」


驚くフミに、弥生はにっこり笑って頷いた。


「なので、色々コネを使ったり使われたりしてるんですけどね。今回は私も個人的にやってみたかったので、マネージャーさんからも協力を仰げればと思いまして」


「は……あ……」


しばらくポカンとした顔を晒していたフミだが、仕事だと思い出すときりりと背すじを伸ばして座り直す。


「分かりました。尾根江さんに連絡は……」


「メールきていませんか?」


慌ててノートパソコンを立ち上げると、フミの会社メールに尾根江から入っている。『アニメ緊急発信』の番組に協力するよう指示があった。


「確認できました。ではお話を聞きます」


「良かった。では今からテレビ局についてきてください。白井さんが344メンバーが来るまで事務所に残っててくれるそうなので」


「分かりました」


会議室から出ると、空いているデスクに座った白井が、二人にヒラヒラと手を振っている。


「行ってらっしゃい」


「いってきます。事務所をよろしくお願いします」


「了解でーす」


白井に見送られ、フミは少し緊張しながら弥生と共に番組の打ち合わせに向かった。








お読みいただき、ありがとうございます。


明日は所用のため、更新お休みします。

最近、多くてすみません…(>_<)

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