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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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133/353

109、これで最後の彼女。

遅くなりましたm(_ _)m

ビジネスホテルで一夜を過ごし、ネットカフェにこもる彼女は、片っ端から『昔の知り合い』と連絡を取り合っていた。

彼女は焦っていた。あれほど「日本に帰ってきたら声かけて」と友好的だったネットでの友人達と、なぜか連絡がとれない。


「どうなってんのよ……」


このままだと少ない貯蓄はすぐに尽きてしまう。実家だけには頼りたくなかった。

そこに一通、メールボックスに受信が入った。


「先生?」


日本でメジャーデビュー直前まで、事務所が用意してくれていたダンスの女性講師からだった。どうやら彼女はまだ講師を続けているらしい。

戻ってきているなら、仕事を手伝って欲しいとの事だった。


「厳しくて嫌な思い出しかないけれど、今は贅沢言ってられないわ。仕事の話って言うし今はお金が欲しいし……まぁ、そこから良い所を紹介してもらえるかも!」


デビューに向けてレッスンしてきたチームを解散に追い込んだという、彼女にその自覚は無かった。そこにはメジャーデビューに向けて動いている『チーム以外の人間』も存在しているというのに……彼女は人として救いようのない性格をしているようだ。










「お久しぶりね」


細っそりとしたスタイルに、姿勢が良いせいか年齢を感じさせない若々しい雰囲気の女性が、ダンススタジオに勇んでやって来た彼女に話しかける。


「先生! 懐かしいです! お会いできて嬉しいです!」


「あら、ふふ、私はそうでもないのだけど言葉だけは受け取っておくわね。さぁ皆さん、今日はこの方に手伝ってもらいます」


スタジオには数人の男女がいて、ダンスのレッスンをしていた。


「彼らは最近売れてるアイドルユニットのバックダンサーをするのだけど、足りなくて……」


「そこで私なんですね。あれから少しブランクはありますが、動きは大丈夫ですので何でも出来ます!」


「それを聞いて安心したわ。じゃあよろしくね」


「はい、先生」


早速着替えて柔軟を始めようとすると、なぜか全員荷物をまとめている。


「え?練習するんじゃないの?」


「そのアイドルユニットとリハーサルするから、スタジオに移動なんだけど……」


一回りは年下であろう女性ダンサーに少し苛つくが、この中では自分は新入りだからと平常心を装う。これ舐められていると、違う人間に声をかける。


「私、海外でダンスの経験があるのよ」


「はぁ、だから何? 自分も海外にいたけど」


変な人だなと言われ、ポカンとした顔をする彼女を気にすることなく移動を始める若者たち。そんな彼らに置いていかれそうになり、慌ててついて行く。

目の前にあるビルで収録が行われるらしく、中に入ると大部屋の控え室で皆が衣装に着替え始めた。慌てる彼女。


「先生! ちょっと!」


「はいはい、何、どうしたの?」


「いきなりですか! 私は何も準備……」


「何言ってるの! ほら、早くこれ運んで頂戴!」


「え?」


練習服のTシャツにジャージ姿の彼女は、そのままダンボールの箱を持たされる。

混乱したまま講師について行く彼女はスタジオに入り、リハーサルの打ち合わせをしている男性三人に目をやる。


「ジューン!!」


見知った顔を見て思わず叫んだ彼女に、スタジオにいた番組プロデューサーが男性スタッフ達に「何だこいつは!追い出せ!」と指示を出し、彼女は無理やり連れ出される。


「彼とは知り合いなの! パートナーなのよ!」


「そう言ってファンは彼らに近づくんだ!」


彼女の言葉に誰も耳を貸さない。そこに黒髪のフワリと甘い空気を纏った男性が近づく。


「どうしたんですか?……ああ、雑用のバイトの方ですか。見学しても良いですけど静かにしてくださいね」


「ちが、私は……」


「あ、先生。今日は急に生徒さんにバックダンサーをお願いしてすみません」


「いいのよ。344(ミヨシ)には愛弟子シジュ君がいるもの。彼は基礎が出来てるから教えがいが無かったけど、本当に素晴らしいダンサーになってくれて嬉しいわ」


「他の人たちも俳優さんとか舞台監督とか、有名人になってますものね。俺も鍛えて貰ったから大成するよう頑張ります」


「ミロク君なら大丈夫よ。今日はうちの子達をよろしくね」


「はい」


輝く笑顔で返事をして、再び打ち合わせに入ったミロクを彼女は呆然と見送る。


「雑用……私が?」


シジュと二人の男性は、均整のとれた体躯を燕尾服で身を包んでいた。バックダンサーもスタジオに入り、リハーサルを始める。


「さすがシジュ君よね。海外のダンスチームはあなたで釣ろうとしたみたいだけど、結局失敗したって話だったそうね」


「何よそれ、何よ! 何なのよ!」


叫ぶ彼女に気づき、再びスタジオのスタッフが行こうとする。そこにアッシュグレーの髪の男性が素早く近寄り、叫び続ける彼女の肩に手を置いた。


「静かにして。君は今、とても良くない状況にいるよ」


「何が! 私はアメリカの有名ダンスチームのメンバーだったのよ! 雑用なんてふざけた事言いやがって!!」


「海外のダンスチーム?……でも正規のメンバー選抜のテストで落とされて、そのまま練習にも顔を出さずにクビになり、滞在する為にアメリカ人と無理やり結婚して、最近離婚された。自分勝手な女、だよね」


「なっ……んで……」


「あと、君はシジュと組むとか言ってるけど、釣り合うのかな。君じゃ無理でしょ」


彼の指差す方向には、女性と組んで踊るシジュがいた。数人いた女性は皆美しく、昔はそれなりだった彼女とは比べるには、レベルどころか次元の違うスタイルと美貌を持っていた。

女性と組む度に年齢を重ねた男の『色香』が漂うシジュの様子に、唇を噛みしめる彼女の顔は嫉妬に染まった醜い顔になっている。


「ああ、あとこれ警告文。これ無視したら法的に動くし警察も動くよ。同じものを君の実家にも送ったけど、電話で話したらご両親が迎えに来るそうだ。良かったね」


「そんな……ジューン……」


彼女が最後に見たシジュは、今まで見たこともない嬉しそうな笑顔で、若く美しい女性と見つめ合っていた。

もはや化粧も崩れ、力なく膝をついた彼女はスタジオを追い出され、平謝りしている両親が連れて出て行った。


「また来た時の準備もしておかなきゃね。無いとは思うけど、備えあれば……だし」


そう言ってヨイチはにっこり笑うと、ミロクとシジュの元に戻って行った。






お読みいただき、ありがとうございます。

地味なザマァですが、じわじわしてます。傷口に都度、塩を塗る的な。


感想の返信遅れてすみません。

本編更新したので、今からします。

ありがとうございますm(_ _)m

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