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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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108、司樹とメンバーと家族。

何とか20時……

「ま、それはシジュの主観であって、周りの人間からしたら『一番の被害者』としての認識なんだけどね」


「オッサン、いつの間に……」


「あ、ヨイチさん。お疲れ様です」


いつの間にやら二人の後ろに立っていたヨイチは、ニコリと微笑む。その笑顔にシジュは顔を引きつらせた。


「あー、オッサン、悪い。怒ってるよな」


「はは、大部分は僕の大事なタレントに傷をつけた、名も知らぬ輩に対してだけどね」


「それは同感ですね」


美形二人が笑顔で怒っている姿は迫力がある。普段は飄々としたシジュも今回は小さくなっていた。


「呼び出された時にオッサンに相談すりゃ良かったんだが、あんな言われ方をするとは思ってなくてな」


「あんな?」


「また組まないかって」


「「はぁ!?」」


ミロクとヨイチは思わず大きな声を出す。どの面下げてという言葉はあの女専用の言葉じゃないかと思う二人。


「へぇ、そうですか。そういう事を言ったんですか」


ミロクはニコニコしながらスマホを高速操作している。それをシジュは恐る恐る画面を見ると、SNSアプリに何か一斉送信しているようだ。


「ミ、ミロク、何やってんだ?」


「大崎家の家訓に『同じ釜の飯を食った人間は仲間だ』というのと『一度でも家に泊まった人間は家族と見なす』と言うのがありまして」


甘く微笑んで語るミロクに、シジュは「その笑顔は今じゃないだろう」と心の中でつっこむ。そして静かになっているヨイチを見ると、すでにノートパソコンに何かの端末を差して操作している。さらにマスターがLANケーブルも提供し、本格的に何かが始まっているようだ。


「お、おい、一体何を……」


「いやぁ、ミロク君がシジュを家族って言ったじゃない? 僕にとってミロク君は弟になるんだし、僕も大崎家の家訓に殉じようと思ってね?」


「思ってね? じゃねーよ! 何しようとしてんだよ!」


「はは、ああいう輩は懲りずにまた来るだろうから、準備を……ねぇ、ミロク君」


「ハイ!」


「ミロクもいい笑顔で返事してんなよ! それは仕事の時にやれよ!」


「甘いですねシジュさん、これくらいの笑顔じゃ俺のフェロモン・タンクの容量は微動だにしませんよ!」


「意味分かんねぇよ!」


そう言いながらも、シジュは痛んでいた胸のあたりが軽くなっているのに気付いていた。


「馬鹿な奴らだな」


連絡を受けて続々と入ってくる事務所スタッフやサイバーチームに、シジュは「俺も混ぜろー!!」と、ミロクの背中に飛びついて輪に混ざる。

いつになく明るく騒がしいバーに、さらに人が集まっている。マスターは外に貸切の札を下げ、商店街の住人に料理を頼む事にした。













「そんな訳で、そのどうしようもない女がまた来るかもしれないから、対策を練っているんだよ」


「そう、なんですか」


「調べたところ、外国人ダンサーの団体に入ったけど、結局すぐにクビになったみたい。あっちで知り合った人と結婚したけど生活は苦しくて、結局旦那と別れて日本に戻ってきたみたい」


「それは、自業自得、ですよ、ね」


「うん。シジュさんを傷つけた事も謝らないしね」


「あの、ミロクさん」


「何、フミちゃん?」


「それ……その格好のせいで、話している内容が頭に入ってこないんですけど」


「え? そうかにゃ?」


「にゃって……にゃって言いましたね! 言いましたよこの人!」


「そりゃ言うにゃ。キャラ作りだにゃ」


「やめてくださいー!!」


事務所内の会議室にて、これまでの状況をフミに話していたミロクの格好は、黒いモフモフのルームウェア上下に、頭には猫耳、お尻には尻尾も付いている。


「キャラ作りすれば、フェロモンを抑えるってサイバーチームの白井さんが言ってて、アキバに一式売ってたのを試しに買って着てみたのにゃー」


「白井さんは大馬鹿野郎ですか!」


フミは怒ったように叫んでいるものの、顔はずっと緩んでいる。

黒髪のミロクに、黒い猫耳、赤いチョーカーは似合いすぎている。モフモフ素材のルームウェアも、神の創りたもうた最高傑作ではないかという程の触り心地。


(何のご褒美なの! ミハチさんの特訓が全く意味を成してない!)


危うくモフモフしそうになる手を懸命に抑えるフミは、ミロクの「にゃー」を前にして……逃げ出した。


「ミロクさんのバカ! 可愛すぎるんです! もう知りません!」


「そ、そんな……待ってフミちゃん!!」


「知りません!!」


顔を真っ赤にして会議室を飛び出すフミを、追いかけようとするミロクの首根っこを掴むヨイチ。


「はい。遊んでないで打ち合わせするよ」


「遊びじゃなくて俺は真剣なんですよ!」


「なお悪い。それにその格好で外に出るのかい?」


「フミちゃんのためならこれくらい!」


「一応ミロク君は、事務所の看板タレントなんだから考えてね……」


ため息を吐くヨイチは、三十六のオッサンが可愛い格好で違和感がないという事実が一番恐ろしいと、社長としては喜ぶべきなのだろうが、叔父としては微妙な気持ちになっていた。

渋々椅子に座るミロクを見て、ヨイチも気持ちを切り替える。


「じゃ、始めようか」


切れ長の目を細め、その整った顔に微笑みを浮かべる。


自分の、如月事務所の人間を傷つけられたらどうなるか、あの女にはじっくりと教えてあげよう。








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[気になる点] 〉社長としては喜ぶべきなのだろうが、叔父としては微妙な気持ちになっていた。 対象がミロクさんの様なので、立場として叔父よりも義兄(予定)や身内(仲間)の方がしっくり来るかもしれません…
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