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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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125/353

103、反省会をする四人。

反省します……

事務所の会議室にて、いつものように打ち合わせに入った344(ミヨシ)メンバー、ミロクとヨイチとシジュ、それにマネージャーのフミの四人だ。

フミに限っては、珍しく硬い表情でこの場に居る。


「反省会です!」


茶色のポワポワな髪を肩で揺らし、普段高く可愛い声を精一杯低くして出すフミ。

先日のテレビ番組のロケで、動物と戯れていたのはいい。そこまでは良かったのだが、いかんせんミロクのダダ漏れフェロモンは非常に問題だ。


「放送はしてもらえるようでしたが、ミロクさんはちゃんと自覚を持ってくれなきゃ困ります!」


「自覚?」


プリプリ怒るフミを可愛いなぁと笑顔で眺めていたミロクは、名を呼ばれて首を傾げる。


「そ、その笑顔とか、仔犬の時の笑顔とか。ここぞという時に使ってください! CMの時は効果的だったので、そういう時にです! 自分が周りからどう見られているのか理解してくれないと……」


そういう時と言われても……と、ミロクは困ってしまう。期待に応えたいのだが、特に何かした自覚は無いのだ。


「そりゃ、アレだ。無理だよマネージャー」


「どういう事ですか?」


苦笑して言うシジュに、怒った表情のままフミは問う。まぁまぁとヨイチがフミを宥めるように話し出す。


「怒らないで聞いて。ミロク君は自覚していないというか、あの表情になるのは原因があるんだよ」


「原因?」


「フミがね、側にいる時限定の表情なんだよ」


なるほどと納得したミロクの横で、ヨイチの言葉を遅れて理解したフミは時間差で顔が真っ赤になって立ち上がる。


「ええ!? でも、仔犬の時は私ほぼ隠れて見てましたよ?」


「それはねぇ」


「アレだよなぁ」


年長二人組が言いづらそうにしていると、ミロクが「ああ!」と思い出す。


「俺、あの時フミちゃんそっくりの仔犬達がいて、すっごく嬉しくて……それかなぁ?」


アレは可愛かった。連れて帰りたかったけど泣く泣く諦めたし、犬達も泣いてるみたいに鳴いてた。

思い出しただけでミロクが蕩けるように微笑み、危険を察知したシジュが頬をムニッと摘まんで現実に引き戻してやっている。


「いひゃい……」


「今は反省会だから、妄想は後でやれよー」


「ひゃい」


「ミロク君は肌がモチモチだと思ってはいたけど、餅のように伸びるね」


ヨイチは感心したようにシジュに頬を伸ばされているミロクを見ていたが、ふと大人しくなったフミに気づき視線を移すと、手遅れだと分かる。


「シジュ、遅かったみたいだよ」


「ああん?」


二人の目線の先には、頭から湯気でも出しているかのように真っ赤な顔のフミがいる。頬を餅のように伸ばされる刑から解放されたミロクは、フミの様子を見て「何か冷たいもの持ってくる!」と、慌てて会議室を飛び出していった。


「お茶なら事務所のスタッフに頼んでるけど……」


そうヨイチが呟く側から、ノックの音がする。シジュが入り口まで行ってスタッフの応対をしつつ、お茶セットを受け取り礼を言うと、何か渡されたシジュが戻って来る。


「ん? どうしたのシジュ」


「ああ、や、別に」


歯切れの悪くなるシジュ。ヨイチはピシッと社長の顔を作る。


「遊びは程々にしときなよ。事務所的にも印象良くないし」


「そういうんじゃねぇよ」


「なら良いけど」


「フミちゃん! 冷たい水とおしぼりだよ!」


バタンとドアを開けて駆け寄るミロクに、年長者二人はため息を吐く。


「ミロク君、もう、何て言うか……」


「このままで良いのか?」


「良くないですよ! 今回原因がハッキリしたんで、俺はチームで対策に取り組みます!」


うっすら意識を回復させたフミはミロクに横抱きにされて介抱されているのに気づき、再び意識を失ってしまうがミロクはそれに気づかず熱弁を振るう。


「うん。何か嫌な予感がするんだけど、チームで対策って?」


「ウチにいるチームは、サイバーチームしかないじゃないですか!」


「おい、何で事務所の人間を私的に使うんだよ」


「それは俺も言ったんです。でもさっき『業務外の時間で協力するよ』って言ってくれたんですよ」


「「さっきの話かよ!!」」


ヨイチとシジュは同時につっこむ。

そもそもサイバーチームはミロクとの繋がりが深い。おかしな事にはならないだろうが一応釘はさしておこうとヨイチは考える。

今日は特に仕事もなく解散となったが、さすがにミロクとフミは引き離す。

ミロクはシジュに任せ、ヨイチはそのまま会議室でパソコンを使いデスクワークを片付けることにする。


「……叔父さん」


「何だか久しぶりに聞いたね。その呼び方」


まだ頬の赤さはそのままだが、何とか起き上がるフミは悲しげに俯いている。


「叔父さん、ごめんなさい」


「何で謝るの?フミはいつも一生懸命やっているよ」


「でも、こんなんで、自分の担当のタレントを好きになっちゃって」


「ああ、まぁそれはしょうがないよ。一目惚れだったんでしょ? 喫茶店で大立ち回りしたミロク君を見て」


「……うん」


「あの頃のミロク君は今と違う体型だったし、それでフミは惹かれてた。だからもうしょうがないよね」


「……でも」


「まぁ、うちは別に恋愛禁止じゃないし。フミはとりあえずミロク君の色気に耐性つけなきゃじゃない?」


「そう、それなの。どうすれば良いかな叔父さん」


久しぶりの姪との会話に頬を緩ませるヨイチは、未だ泣きそうな顔のフミを優しい笑顔で見る。昔から負けず嫌いで、ポワポワしているようで根はしっかりしている子だ。娘のようの見守ってきたというのもあり、こういう相談は受けたくはないが、フミはかなり深刻に悩んでいるようだ。


(しょうがない。ひと肌脱ぐか)


ヨイチはパソコンを閉じ、フミの頭を撫でる。


(兄さんには黙っておこう)


逐一報告するよう言われているヨイチだが、さすがに今回はその任務を放棄するのだった。








お読みいただき、ありがとうございます。


少し動き始めます。

……何かがw

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