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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/353

100、話題のCMの行方。

どうなるどうなる。

その日、同時に放送された化粧品のCMは、全国で大きな話題を呼んだ。


方や大物アーティスト初の楽曲提供したCM。

それに対抗するのは、大人気アニメとコラボしたCM。

話題性としても、化粧品メーカーの商品としても前者が勝っていた。なぜなら後者は今まで基礎化粧品を主体に開発していた為、今回の新商品に関しては新規参入。しかも使用している楽曲は人気アニメの挿入歌とはいえ、所詮新人アイドルの曲であったからだ。










「どういう事だ!!」


「はぁ、どういう事かと申されましても……」


昼間のオフィスビル内の会議室にて、怒声が響き渡る。

コの字型に並べた席には、それぞれ重役と思しき人物が座り、その真ん中で一人の気弱そうな男が大汗をかいて立っている。


紫水王、誰もが知る化粧品メーカーである。そして多くの人気商品を排出してきた。

今回の季節限定の新色も、その一つになるはずだった。


「駅などにポスターは設置されているんだろう」


「はい」


「うちの広告の割合は?」


「化粧品メーカーのみでいえば、我が社は七割ほどかと……」


「何故そんな少数の広告が話題になる」


「はぁ、少数だからこそかと……あの、まだ皆様がCMを観ていないようですので、勝手ながら今ここで確認して頂きたいのですが……」


大汗かいている男性は、今回緊急会議に呼ばれて自分が責められるであろうことは分かっていた。新商品のCMやポスターなどの宣伝を統括する、統括部長の部長の補佐であるからだ。ちなみに上司である部長は体調不良の為お休み中だ。昨日までは元気そうだったのだが……。

どうせ自分を責めたてるお偉方は他メーカーのCMや広告を見ていないだろうと考えていた。

現に自分を責めず、ただ渋い顔でその場にいる人も数人いる。その数人は今回の異常性に気づいているのだろう。

論より証拠だと。彼はプロジェクターを設置し、持ってきたデータを流す。


「テーマは少女と蝶。三部作だそうです」












日に焼けた肌に、少しクセのある黒髪を後ろに結わえ、サングラスをかけた男が道なりに並ぶ大きな広告板を見上げている。


「おお、圧巻だなぁ」


三つポスターが貼られていて、通りすがりの女性達がそのポスターをスマホで撮影していたりもする。どうやら人気急上昇というのは本当のようだ。


アイラインをひいたシジュの『囚われる黒』

アイメイクをしているヨイチの『目覚める青』


そして、『君は、誰に染まる?』と、抱きしめている少女の首筋に触れるか触れないかくらいに、ローズピンクのルージュをひいた唇を近付けているミロクは、今にも蕩けそうな微笑みを浮かべている。


「幸せそうな顔しちゃって」


サングラスを少しずらして呟いた男は、未だ撮影が続いている人達の間を縫って歩いていると、目の前に見覚えのある女性が歩いている。


「どーも」


「あら、シ……小野原さん」


「え、何それ」


「一応ね。一応」


クスクス笑いながら隣を歩くミハチは、グレーのスーツに身を包んでいた。ピタリとしたタイトスカートは彼女のスタイルに良く似合っている。

シジュは女性たちの視線をちらほら感じ、ミハチが名字で呼んだ意味を知って苦笑する。どうやら少しは名前が知られてきているらしい。


「それにしても、弟さんの所為でマネージャーが未だ復帰出来ていないんですけどー」


「え? そうなの?」


「ミロクと一緒にいるときは耐えてるみてぇだけど、ミロクが居なくなるとグッタリしてるからなぁ」


「まぁ、アレはね……やりすぎ、かな」


CMに出ていた少女達は、殆ど顔は出ない。声も声優を使っている。なので『相手役は誰だ?』という点でも話題になっていた。


「あの撮影は、俺も大変だったな。倒れるスタッフの介抱とか、むしろ俺がスタッフの代わりだったしなぁ」


「愚弟がご迷惑をおかけして」


「ああ、全くだ」


「で、その愚弟は?」


「今から合流する。今日は初のロケだ」


「そう。だから昨日あんなに嬉しそうだったのね」


ミハチは艶やかに微笑むと、通りすがりのサラリーマン達の鼻の下を伸ばしていく。姉も弟の事言えないだろうとシジュは苦笑した。


彼らの通り過ぎた家電量販店前に並ぶテレビに、ちょうどCMが流れる。

足を止める人々。

隙間なく並ぶ液晶画面にたくさんの青い蝶が飛び、一気にローズピンクに染まっていく。

走る少女の手を取り、そのまま抱きしめる画面の中のミロクの微笑み。

甘く、ひたすら甘く微笑む彼は、その唇を微かに動かしている。


少女は何を言われたのか。

彼は何故こんなにも幸せそうに微笑んでいるのか。

世間を騒がせているCMは、これからさらに世間を騒がす事となるのだった。





お読みいただき、ありがとうございます。


明日は所用があり更新が難しく、お休みを頂きます。

次はラジオ回の予定です。

本編100話まできました。

ここまで続いたのも、応援して下さる方々のおかげです。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。


もちだもちこ

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