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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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99、弥勒のCM撮影でのトラブル。

若干のイライラ含みます。

アニメ『ミクロットΩ』のキャラクターに扮した少女は、事前の資料だとまだ十三歳とのことだった。フミはまだ中学生の少女がすっかり落ち込んでいるのを見て心を痛めていた。

ミロクとシジュが動こうとするよりも先に、自然と体が動いてしまう自分に驚きつつも「マネージャーとして円滑に仕事を進めるというのも大事だ」と強く思う。


「あの、よろしかったらこれを……」


フミはペットボトルの水を少女のマネージャーにそっと渡す。男性マネージャーは少し戸惑うも受け取る。


「ほら、由海(ユウミ)、お礼を言って。すいません、いつもはこんな風ではないのですが……」


「……」


泣いている所為か、由海は無言で頭を下げる。化粧が落ちかけているのに気づいた彼女のマネージャーは「メイクさん呼んできます」とその場を離れた。休憩時間のためスタッフはスタジオの外に出たらしい。


「……」


「ええと、大丈夫?」


ストロベリーブロンドの髪をゆるく巻いた髪型は、由海によく似合っていた。もう涙はひいたらしく、濡れた睫毛がその名残を感じさせている。


「……」


「ええと、私は344(ミヨシ)のマネージャーの……」


「知ってる」


「あ、そう、なんだ」


何故か不機嫌そうに見える彼女にフミは戸惑う。彼女は演技が上手く出来ずに落ち込んでいたのではないのだろうか。


「……何でアンタが来るの?」


「え?」


「共演者が落ち込んでるんだから、彼が来るべきじゃないの?」


「ええ?」


思わぬ由海の言葉にフミは驚く。彼女の発した言葉に脳の処理が追いつかない。なぜ、どうしてとフミが考えている間に、不機嫌な彼女はそのまま続ける。


「アニメから飛び出したみたいな、すっごい格好良い王子様と共演だって昨日から楽しみにしてて、考えて考え抜いた策なんだから……マネージャーなら王子様を呼んで来てくれない? ほら、私は今落ち込んでるんだから慰めてとか、何でも良いから」


「……」


やっと脳内の処理が追いついたフミは、ふつふつと怒りが沸き上がるのを感じる。


つまり彼女はミロクに近づきたいからという理由で、ワザと下手な演技をしたという事なのか。

周りを巻き込み、大人を巻き込み仕事に支障をきたすという、やってはいけない事をやったのか。

子供だからと言い訳はできない。この世界では年齢関係なくカメラを向けられた時点で『プロ』とみなされる。お金を貰って動くからには、自分の持てる最高のパフォーマンスをしなければならない。


それを彼女は『全くの私情』で、この撮影を長引かせたのだ。


「もう、使えないなぁ! 早く王子様を連れてきてよ!」


瞬間、何かが切れたような感覚と、無意識に振り上げた手。

由海の怯えた顔は影が入って見えなくなり、フミは甘い香りと温かい何かに包まれた。


「もういいよ、フミちゃん」


「ミロク……さん……?」


気がつくとフミはミロクに抱きしめられている。いつの間に側に来たのかは分からないが、無意識に彼女を叩こうとしたのをミロクは止めてくれた。他事務所のアイドルを傷つけるところだったフミは、自分のしようとしたことに気づいて恐ろしくなる。

震えるフミに気づき、抱きしめる力を強めるミロク。


「大丈夫。俺がちゃんと止めるし何もないから」


「……ごめんなさい」


「マネージャーが謝るこたぁねーだろ。何もしてねぇし。な、新人」


「な、何が! 何なのよ! この女が私を叩こうとして……」


顔を真っ赤にして怒りを露わにする由海に、シジュはため息を吐く。


「アンタ、気づいてねぇかもだけど尾根江プロデューサーが来てたぜ?」


「は?」


ミロクとシジュは知っている。ヨイチもだが、撮影の様子を見に『サラリーマンスタイル』の尾根江が見に来ていた。フミはずっと前ばかり見ていて気づいていなかったが……。


「そんな……」


「さっき君のマネージャーが誰かと電話で話してたみたいだよ。ずっと謝ってたみたいだけど」


抱きしめているフミの頭を撫でながらニコリと笑うミロク。目の前にいる憧れの王子様は別の女を抱き、自分のした行動はプロデューサーに筒抜けだったという事実は、由海にとって受け入れがたい事実である。

しかしそこに顔色の悪い自分のマネージャーが来る。


「今日はもう帰るよう事務所から連絡が来た。かえるよ由海」


「え、だって、まだ……」


「残念だけど……344の皆様、本日はうちの者がご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「謝罪は受け取りました。スタッフさんとは……」


「はい、事務所から連絡が入ってます。大丈夫です」


「そうですか」


男性マネージャーは由海の腕を掴み、引きずるようにスタジオから出て行った。

泣き叫ぶ声が聞こえたが、これはもうしょうがないだろう。


「CM、どうなるのかな」


「んだなぁ。会社さんは予算無いっつってたのになぁ……って、おいミロク。うちのマネージャーが茹だってんぞ?」


「わ! 大丈夫フミちゃん!」


「ふああ、ら、らいじょうぶれす……」


ミロクの胸元で真っ赤になったフミは、ポワポワ頭が揺れている。

可愛いなぁとメロメロになっているミロクと、それを苦笑して見ていたシジュは「そうだ」と手を叩く。


「フミちゃんが代わりに出れば良いんじゃね?」


「え!?ええええ!?」


「あ、それ良いですね」


「そりゃ名案だ!」


シジュの提案に驚くフミ、笑顔で同意するミロクと監督。


「え? マジで?」

「ええええ!?」

「フミちゃんと共演……」


まさか聞かれてたとは思わなかったシジュは、ノリノリで意見を言い合う監督とミロクに何も言えず、涙目のフミはメイク担当に連れて行かれてしまった。


「俺、冗談で言ったんだけど……」


ポツリと言ったシジュの呟きを聞く者は、誰も居なかった。













予想されてた方もいらっしゃるかな、と。



お読みいただき、ありがとうございます。

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