98、与一のお仕置き。
何とかこの時間に更新…デスm(_ _)m
朝、目覚めるとヒヤリとした空気。遮光カーテンを開けると秋晴れの空がみえた。
ストレッチをゆっくりと始めながら、ミロクは今日のCM撮影について考える。シジュの言っていた女の子との絡みというのはどこまでなのか、自分に出来るのだろうか……と。
ちなみに、男慣れしていないフミに対してはハグとかデコチューとか、色々やらかしている癖に今更何をと言いたいが、彼の中でアレは『スキンシップ』であり『絡み』では無いのである。
そして彼は殆ど本能で動いている為、意識して女性に触れたりという経験が無い。
(今日はフミちゃんが付き添ってくれるって言ってるし、何とかなるだろう)
引きこもって外に出たくない心を押し殺し、朝食をとろうとリビングに行くと朝から色気迸る美中年がダイニングテーブルでのんびりコーヒーを飲んでいる。。
「おう、邪魔してんぞー」
「シジュさん、おはようございます。オフなのにどうしたんですか?」
「ミロクの付き添いBだ。Aはマネージャーな」
「ご心配かけてすみません…」
「いや、色々あるって昨日で分かったから、一応予防策な」
「色々?」
ミロクが首を傾げていると、母イオナが息子の朝食をテーブルに置く。温かいカフェオレに角砂糖を一つ入れたミロクはかき混ぜながら先を促す。
「何だ。昨日ヨイチがここに泊まったのも知らねぇのか。プロデューサーのおかげで何とかなったらしいがな、CMの撮影後にヨイチのオッサンが新人アイドルの女の子に押し倒されてな」
「はい? 何ですって?」
「だからプロデューサーのおかげで大事にならなかったって」
「その後ですよ」
「オッサンが女の子に押し倒された」
「逆ではないんですか?」
「いくら何でも十五歳は無いだろう」
「ですよね」
あの姉のミハチを恋人にする男だ。そこら辺の小娘なぞ目にも入らないのだろうが……。
「あれ、ヨイチさん俺の部屋に居ませんでしたけど……」
「ま、そこはアレじゃねぇのか?」
シジュが誤魔化そうとしていると、話題の中心人物がリビングに入ってきた。キラキラな笑顔で、心なしか肌ツヤがいつもより良い気がする。
「おはようヨイチさん、朝食は食べます?」
「おはようございます! お言葉に甘えて!」
将来の義母の言葉に、さらに倍の輝く笑顔を向けるヨイチ。無駄に振りまくシャイニーズスマイルに、昨日の出来事と結びつかせるのは難しい。
「おはようございますヨイチさん、昨日は姉の部屋に?」
「ああ、ミロク君おはよう。そうなんだよ。昨日の一件でミハチさんに怒られてね」
「ええ、まぁ、そうでしょうね」
「当たり前だ。プロデューサーが手を回せて良かった」
「最初は隙がありすぎるとか、もっと考えて行動しろとか、反省するよう言われてて僕も大人しく聞いていたんだけどね」
「はぁ、確かに」
「そうだなぁ、正論だ」
「次第にやっぱり若い子の方が〜とか、私なんか〜とか言い出したから、これはいけないと思って」
「え?」
「おい、まさか……」
「そりゃあもう一晩中、彼女がいかに素晴らしいか教え込んだよね。懇切丁寧に」
「……」
「……」
ミロクはこの場に居ない姉を思う。
まぁ、しょうがない。自分で選んだ道だ。弟に出来ることはただ一つ。
「えっと、姉も若くないので、お手柔らかに?」
「大丈夫。今日は有給休暇とらせたから」
そうじゃないだろう! と、ミロクとシジュは盛大につっこみたいが、グッと堪える。そろそろ家を出る時間ということもあるが、話を広げると惚気られそうで面倒くさかったからだ。
シジュは早々に上着を着て、玄関に向かっている。野生の本能が知らせるのだろうか、危険から離れるのが早い。
とりあえず、姉にはマッサージのチケットでも渡しておこうと、姉思いのミロクは心に決めると、未だキラキラしているヨイチを置いて家を出たのであった。
「準備入りまーす」
「少女のワンカットからー」
「は、はい! お願いします!」
撮影現場で入りを待つミロクとシジュ、そしてフミは、軽食や飲み物が置いてあるスペースに座っていた。
最初マネージャーのフミは立っていたのだが、少し長くなりそうだと気を利かせたスタッフに椅子をすすめられて、遠慮しながらちょこんと座っている。
無論、そのスタッフは心の準備をする間も無く、ミロクとシジュからのフェロモン特盛りスマイルを受けてしまい、平常心を取り戻すのに苦労する羽目になった。
(今日の撮影は、嵐が起こるかもしれない……)
ミロクについての事前情報を得ていて、それに対しての準備をしていても尚、彼らの不安は拭えない。
現在はCMに出てくる少女役の新人アイドルが、一生懸命監督に従って演技をしている。あまり顔が映らないとはいえ、アニメの人気の手前しっかりとやらせないといけないのだ。
「はい、カットー」
「もう一回撮るけど、一旦休憩しまーす」
「……すみません」
ぺこりと頭を下げ、泣きそうな少女にはマネージャーが駆け寄っていった。
「どうやら新人アイドルちゃんは、同じグループで俺らの相手役するみてぇだな。俺ん時の子と同じマネージャーだ」
「俺たちと同じ三人ユニットですかね」
「尾根江は奇数が好きみたいだからな。五人かもな」
そんな事を話していると、新人アイドルは本格的に泣き出してしまったようだ。マネージャーが慌てて宥めるも上手くいっていない。
「長引きそうですね…」
「んだな…」
しょうがない、と、二人が立ち上がろうとすると、ミロクの横から茶色のポワポワが駆けて行った。
ヨイチのお仕置き回でした。
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