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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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88、どんなCMか少しだけ確認。

謎が謎を呼ぶ。

事務所での打ち合わせを終え、ミロクはデスクワークをするフミを少し離れたフリースペースから眺めつつ、スマホでネット仲間とやり取りをしていた。

世情に疎くなりがちなミロクにとって、彼らの集めた情報のまとめサイトは安心安全であり、たまに自分の心をくすぐるマニアックな情報も入っている為、色々と助かっている。


ここ最近よく見る客の対応していたシジュが「差し入れもらったー」とマネージャーのフミに手渡して、ミロクの座っているフリースペースにやって来た。


「最近よく見ますね。薫さんでしたっけ?」


「ああ、今日はCMの資料持って来てたぞ。ヨイチのオッサンが確認してから今日はまた打ち合わせになるな」


「よく見ますね、薫さん」


「……まぁ、参観日に俺が代わりに行った礼とかもあったからだろ」


ミロクはシジュを少し睨むように見る。少し気まずい感じに咳払いをする彼に、ミロクは大袈裟にため息を吐いてみせた。


「泣かさなきゃ良いですよ」


「よく言う。お前が焚きつけたんだろうが」


「求められたからです。俺は早々動きません」


「マジか。でも俺十三年は動けねぇんだけど」


「何で幼女のプロポーズを本気にしてるんですか」


「俺は誠意をだな」


「ハイハイ」


ミロクはシスコンだが、恋愛に対しては個人の自由だと思っている。シジュのボイストレーニングに妹を当てたのは、彼女が求めていることとシジュの歌唱力向上という二つの点がうまく噛み合ったからに過ぎない。

だが、誠意の無い接し方で泣かせたら……ミロクは薄っすらと微笑む。


「顔が怖えよ」


「そうですか?」


そのまったく目が笑っていない笑顔を見て、シジュはぶるりと震えた。












「春のコスメということで、ルージュ、チーク、アイライナー、アイメイクの四点を三種類のCMで取り入れるそうだよ」


「四つですか。増えましたね」


「アイライナーってなんだ?」


「目元に濃い色で縁取るアイライン用のペンシルみたいなものだよ。これをやると目がはっきりして見えるからね。舞台用にも使えるよ」


「へぇ。まぁ舞台は遠くからでも顔をハッキリ見せなきゃだからなぁ」


「それでね……絵コンテなんだけど……」


「ああ?…… なんで俺とオッサンが?」


絵コンテを見たシジュは驚きのあまり目を見張り、ミロクはふむふむと頷きながら詳細を確認している。


「アイメイクはヨイチさん、確かに切れ長なヨイチさんの目元は俺よりも飾りがいがありそうですね。アイライナーをシジュさんにするのは、少しタレ目なシジュさんにはピッタリかと」


ここぞとばかりに笑顔でミロクは言う。死なば諸共だと心で呟きつつ。


「なるほど……」


「俺そんなに目がタレてるか?」


少し悲しげなシジュの物言いに、会議室に微妙な空気が流れる。ちなみにフミはミロクの精神衛生上に良くないということで、会議室には入らず別の仕事をしていた。

シジュのタレ目疑惑はサラッと流し、ヨイチは話を進める。


「曲は三曲使われるし、344(ミヨシ)として使わないかと売り込んだのは僕だしね。ミロク君はともかく、僕とシジュみたいなのを使うとは思わなかったけれど」


それよりも、化粧品のCMで男を使うってどうなんだろう。基礎化粧品ならともかく……と、ミロクは基本的な部分を今更ながら思っていた。


(まぁ、インパクトは出せるかな?)


あとはプロデューサーの尾根江が悔しがるくらいだろうが、そこは売り込んだ社長のヨイチが上手くやるだろう。











意外とデスクワークを溜めていたらしいフミは、ヨイチと共に残業となるらしい。午後からオフのミロクは食事でも誘おうかと思っていたが、今日はやめておこうと諦める。ちなみにシジュは「今日はちょっと野暮用あんだよな……」と言って、打ち合わせが終わると早々に事務所を出て行った。


サイバーチームに日課の挨拶を済ませて、事務所のあるビルから出ようとすると、ビルの中を覗き込む一人の女性がいた。

見覚えのある黒髪ショートボブに、メガネがよく似合うスラッとしたスタイルの若い女性だ。


「えーと、フミちゃんの友達の真紀ちゃんさん?」


「ふぁ!! ミ、ミロク王子キタコレ!!」


「王子はヤメテ……」


思わず膝から崩れ落ちそうになるミロクに、真紀は一生懸命に語る。


「いやいや、アニメ『ミクロットΩ』では主人公達よりも敵役の人気が、今やすごいことになってるんですよ! 王子と家臣二人の絡みゲフンゲフン、やり取りも神回って言われるくらいに盛り上がりますし!」


「そうなんだ」


一瞬不穏な何かを感じるも、アニメのミロク達の人気がある事も良い事だ。


「それに、当初声が軽すぎるって言われてた王子役の声優の大野光周も、最近急に声が良くなったって話題になってて、リアルなミロク王子に近い声が出せてるって話題になってます。これがまた人気の後押ししてるみたいで」


「そ、そうなんだ……」


「そうなんです!」


どうやらヨイチの荒療治は良い方向に行ったようだ。意識的にアニメのニュースは見ないようにしていたけど、もう大丈夫かなとミロクは少し心の荷が降りたような気がした。


「ああ、それよりもフミちゃんに会いにきたの? 今日残業って言ってたけど……」


「あ、そうなんですか……どうしようかな……」


少し困った顔をしている真紀。彼女はフミの友人だし、ミロクはそのままにして帰るという選択は浮かばなかった。


「俺、この後オフだし、そこのカフェでお茶でもする?」


「え、でも……」


「まぁまぁ、フミちゃんの友人は俺の友人だよ」


ふわりと微笑むミロク。

真紀はその微笑みに少しどぎまぎしつつ、先に店に入るミロクについて行くのだった。






お読みいただき、ありがとうございます!


真紀ちゃんも可愛いですよ。

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