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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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86、それぞれの家族と司樹と一人。

遅くなりすみません!

(父さん、母さん?)


舞台袖に入る前にミロクが見たのは、フミの両親の隣にいた自分の両親だ。


(そうか……ということは)


「ヨイチさん」


「どうしたんだいミロク君」


「姉さんとの結婚式は、期末を避けてくださいね。忙しいと思うんで」


「は?」


珍しく驚きの表情を見せるヨイチに、シジュが助け舟を出す。


「あー、アレだよ。さっきオッサンの兄貴夫婦の隣に、ミロクの親がいたってヤツだろ」


「ええ!?そうなの!?」

「えええええ!?」


ヨイチの隣で再起動したフミも驚く。彼女の驚きようにミロクは首を傾げている。


「フミちゃん、遅かれ早かれこうなっていたんだから。驚くことじゃないよ」


「まぁ、そうなんだけどね。ウチは親が早くから居なかったから、兄さんが親代わりみたいなものだしね」


「そうなんですか。ならば尚更ですね」


平然と話すミロクと、乗り気な叔父のヨイチの言葉に慌てるフミ。


「え? え? でもまだ早くないですか?」


「早くねぇだろ。まぁ俺らがアイドルってのもあるか?」


「そうですよ!」


シジュの言葉に便乗し、フンスとフミは勢い込んで言うのを見て、ミロクはそうかと頷いた。


「真面目なフミちゃんには申し訳ないんだけど、姉さんには早く結婚してほしいかな」


「え? ミロクさんのお姉さん? ミハチさん……ですか?」


「うん。でも一応ヨイチさんもアイドルだもんね。考えないと、なのかな?」


「え、あ、その……」


「ん?」


真っ赤になってアワアワしているフミを見て、どうしたの? と優しく微笑むミロク。

なんの事はない。フミが自分とミロクのことだと思っていた話は、ヨイチとミハチの事だったという、それだけの事だ。そんな勘違いに気づいたフミは、ただただ顔を赤くして俯く。


よくよく考えてみると、フミとミロクは付き合っていない。過剰なスキンシップはあるものの、互いが告白をしあった訳でもないのだ。

何故か恥ずかしさとともに、訳のわからない怒りを覚えたフミは「もう!ずるいです!」と、ミロクをポカポカ叩き出した。


「え? 何、どうしたのフミちゃん?」


「ずるいです!!」


「ええ!?」


ミロクは助けを求めて周りを見るも、生暖かい目のヨイチとシジュ、並びにイベントスタッフしかいない。


「な、なんで……」


「まぁ、さすがにこれはミロク君が悪いかな」


「甘んじて受けろ」


「そんなぁ!!」


ポカポカ叩くフミの攻撃が地味に痛くなってくる。

次の出番までミロクは攻撃を受け続け、終いには泣き出してしまったフミを見かねたヨイチが、ミロクに回らない寿司屋に連れて行くことを約束させたのであった。











「お疲れ様、ヨイチくん!」


「ありがとう義姉さん。……兄さんも、ありがとう」


「……うむ」


イベント終了後に着替え終えた三人は、笑顔のシトミと無表情なヨミに出迎えられた。

分かりにくい表情のヨミだが、横からシトミが「ヨイチくんの歌に涙ぐんでいたわよ」と言い、大きな咳払いが聞こえてヨイチは苦笑する。


「ミロク、やっと来れたぞ。すごい人数に応援されているんだなぁ」


「父さん、今日は来てくれたんだね」


「いつも仕事で行けなかったが、会社の後輩に行くように言われてね。来て良かった。感動したよ」


「ありがとう。父さん」


いつになく饒舌な父イソヤに、ミロクは照れながらも嬉しい気持ちでいっぱいになった。駆け足でやってきた事だが、感動してもらえるステージを見せることが出来た。それが本当に誇らしい。ミロクの母イオナはニコニコ笑顔で夫と息子のやり取りを見ている。


魅力的な微笑みを浮かべるイソヤに、少し頬を赤らめ照れているミロク。美形父子が笑顔を交わす光景は凄まじいもの(フェロモン)があり、撤去作業をするイベントスタッフの足を止めまくっていた。


「ああ、もう終わっちゃってたかぁ」


「お姉ちゃん、メイクに時間かけすぎ……」


会場の外から入ってくる大崎家の娘二人。ミロクの姉のミハチと妹のニナが入ってくる。それに反応する男が二名ほどいたが、さすがに大崎家の家長がいるところでの大きな動きはしないようだ。


「ミロクさんの家族が全員揃ったの初めて見たかも……」


「壮観だね……」


フミとヨイチは勢揃いしたミロクの家族の迫力に若干引いている。これならヨミの鍛え抜かれた山のような筋肉は小さいもの……でもなかった。普通に目立っていた。

さすがに部外者になるであろうシジュは、この場の居心地を悪く感じる。


「えっと、俺帰るわ」


引きつった笑みを浮かべてその場を離れる。とりあえず駅に向かって歩こうとした彼の足に、不意に何かがまとわりつき転びそうになった。


「あっぶね! 何だよ……ん?」


「……」


柔らかそうな髪を二つに結わえて、ふっくらした頬を真っ赤にしている。ぱっちりと大きな瞳には今にも零れ落ちそうな涙。

その小さな紅葉のような手で必死にシジュの足にしがみつき、ぷるぷる震える小さな生き物を見て、彼は思わず天を仰いだ。








お読みいただき、ありがとうございます。

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