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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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85、サードシングル発売イベントのライブ。

何とか今日の更新…

フミの両親である、ヨミとシトミは後列にいた。

弟の舞台をこの目で見れる日が来るとは……と、ヨミは感慨深く会場の熱気を見回し、知らず高揚感を覚える。

この歳になってまたアイドルをやると聞いた時はどうなる事かと思ったが、客の入りを見ると「アラフォーアイドル」というものにも需要はあるのだろう。

いや、きっと彼らだからこそなんだと、ヨミは眩しそうに準備中の舞台を見る。


「ふふ、ヨミくんも出たいの?」


「…………」


何も言わないヨミの太い腕に、シトミはそっと自分の腕を絡ませた。




客席の顔ぶれは様々だ。Tシャツの人達は確実に344(ミヨシ)のファンだと分かる。最前列には十代から妙齢までの女性が詰めかける。一部幼い女の子達が集まっているが、騒ぐ訳でもなく熱い視線を無人の舞台に送っているのは、ハタから見ると不思議な光景だろう。

端の方の席にいる携帯端末を持った若い男性たちは、ひたすら液晶画面を操作し何か作業をしており「拡散!」などと言い合っていた。

なぜかスーツ姿の男性がいたり、後ろの方に横断幕を持った老人達もいる。

グッズを売っているテントは意外と盛況で、無料で紙パックのお茶が配られていた。まだ日中暑い時期には有難いことだろうが、中身がセンブリ茶なのが謎である。


「なんだ、誰かライブやんのか?」

「さんよんよん?……何だこれ」

「マジか!ミクロットΩの歌やってるヤツらじゃね!?」

「知らねーし。行こうぜー」


会場は室内ではなく、ビルの前に設営されているため通行人からも丸見えだ。好奇の目や嘲りの目にも晒されているであろう彼らは、意外と平然としている。


「おお、バッチリ聞こえてくるなぁ」


「そうだね。あ、覗かれた」


「良かったら見ていってくださいねー」


ミロクが笑顔で手を振るのを見て、ヨイチとシジュも合わせて手を振ると、言いたい放題言ってた若者たちは顔を赤くし逃げて行った。

それを見て残念そうな顔をする三人に、スタッフからスタートの合図が出る。









(結構人がいる……あ、ヨミさんだ!)


舞台に出てきた三人は歓声に包まれる。ミロクはまずヨミの位置を確認し、ヨイチに視線を送ると彼は笑顔で頷く。シジュは幼女に「シジュたーん!」と言われ、若干顔を引きつらせている。


お馴染みとなったアニメ『ミクロットΩ』のキャラクターコスチュームに身を包み、歓声に笑顔で応える三人。

ミロクはヨイチとシジュにそれぞれ耳元で何かを囁くと、歓声が悲鳴に変わる。


(音とっただけなのに何故!?)


突如起こった悲鳴に内心ドキドキしつつ、ミロクは深呼吸して立ち位置につく。

ミロクが一音出すと、重なるヨイチとシジュのバリトン。三人の歌声は見事にハモる。



『あの日

見てるだけで良いと思っていた

そんな君が僕の手をとる

想いが現実(リアル)になる』



メインがミロクからヨイチに切り替わり、ゆったりとしたバラード調の曲に乗せて、朗々と歌うヨイチに、寄り添うようにシジュが音を乗せる。ミロクの高音も加わると嫌が応にも盛り上がる。

いつものキレの良いアップテンポなダンスはなりを潜め、ゆったりとした動きの中にも繊細な振り付けで、指先まで美しく魅せる。



『制服の君は眩しくて、いつもの距離が保てなくて

離れる僕に文句を言う、君の怒った顔も眩しくて


意識してしまえば簡単に、転がっていく気持ちを

追いかける気もなくて、遠くから見つめていた』



ヨイチのソロは、低音から高音へとつながる。綺麗に響かせるファルセットに、ヨイチ推しのファンはうっとりと聴き惚れている。

そして再びミロクメインに戻ると、ヨイチとシジュは音を重ねつつバレエのような優雅な動きで何度もターンをし、客席に視線を送るのを忘れない。シジュは死ぬほど歌の反復練習をしたおかげで、なんとかダンスに集中できていた。



君が僕を「いい人」と言う度に

少しずつ剥がれ落ちる欠片(ピース)

集めて、固めて、そして出来上がった

もう一人の僕も君を想うのかな


いつか君の側に、そう願っている

離れたくせに、そう想っている

君は怒るだろうな

そして最後に、笑ってくれたらいい』



最後に伴奏が止まると、三人の重なったハミングが残る。

その余韻に浸る観客は静かだった。


「新曲『smile』です」

「「「ありがとうございました」」」


深くお辞儀をした三人に、我に返った観客から盛大な拍手が送られる。

気がつくと通行人も立ち止まり、警備の人が総動員で交通整理をする羽目になっていた。


後ろの方で、顔をくしゃくしゃにしながら拍手をしているヨミが見える。それを見たヨイチが照れ臭そうに笑うと、また悲鳴が上がる。


(良かった……)


大きく息を吐いたミロクは、ホッとしたように笑いながら幼女達に笑顔を返すシジュを見て和む。


(なんとかなった……けど……)


ミロクは今日自分の家族の姿を見ていないような気がしていた。いつも誰かしら来てくれていたから、今回も来てくれると思っていた彼は、少し寂しさを感じている。


(忙しかったのかもしれないな。いけない、まだ終わってないんだ。集中しないと……)


歌の後はトークショーが始まる。

頭を軽く振って思考を切り替えると、ミロクは観客に笑顔で手を振ってそのまま固まる。



何故ならフミの両親の隣で、自分の両親が手を振っているのが見えたからだ。






お読みいただき、ありがとうございます。


く…くじけないぞ!

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