82、立ち上がる三人。
遅くなりましたm(_ _)m
何度か打ち合わせをしてきたが、ここまで人数が多いことは無かった。
ミロクは大会議室という名称と、雰囲気から幹部の人間が集まっていることを予想する。隣にいるフミも緊張のあまりカチコチに固まっていた。
全員が着席したのを確認し、一人の女性が立ち上がり司会を進行する。
「さっきの人だね、シジュ」
「ああ、そうだな」
ヨイチとシジュが小声で確認し合う。ミロクはかなり後ろの方に姉のミハチがいる事を確認した。来る途中に聞けたことは、他メーカーが大きく打って出た為に、今回のCMを一から見直す必要があるというところまでだ。
司会の女性はマイクを使っている。静かにしているとはいえ、防音機能もあるこの広さの部屋で肉声はきつそうだ。
『早速ですが、我が社はこれまで基礎化粧品に力をいれておりました。そのため来期での新作ではメイク商品に力を入れ、シェアを広げるというスタンスでCM制作に取り組む予定でした』
資料をめくる音がする。ヨイチが難しい顔をしているのを見て、ミロクが彼の手にある資料を覗き込む。
「……なるほど、ビジュアル系ロックバンドの『slate』が同時期にCMするメーカーに曲を提供したんですか」
「うん。しかも彼らは今まで音楽活動以外に楽曲を提供したことはない。話題性として充分に目をひく事になるね」
「俺らじゃ弱いってヤツか」
ところで、アラフォーアイドル344(ミヨシ)である彼らは、この会議室に入るなりものすごく目立っていた。若くチャラチャラしている訳ではない、落ち着いた中にも華のある美丈夫が三人も居れば、ひたすら目立つ。目立ちまくっている。
そもそもCM制作に関わっていなかった部署の者達は、デビューしたてのアイドルを起用することに反対だった。だがお偉方の(主に奥様達の)猛プッシュに押されて、反対意見を言えずにいた。
そこで今回のニュースだ。
今まで音楽活動以外での露出が無かった『slate』が、化粧品のCMに楽曲提供するという、これだけでも充分な宣伝効果のあるニュースが流れてしまった。
緊急会議でせめて新人アイドルを使うことだけはやめさせたいという意見を出そうと、勇んで会議に参加した者達は344(ミヨシ)というユニットを実際見て、一瞬で戦意を喪失させてしまう。
(どこがデビューしたてだよ。熟したイケメンが過ぎる)
(彼らは楽曲提供だけするって話…だよな?)
(え? 出演は無いの?)
ヒソヒソ声があちらこちらから聞こえる中、司会者は淡々と進めていく。
CMは外注先で絵コンテの状態で進んではいないが、再度考え直す必要があるのではという話になっていた。
『当初の予定では、アニメとのコラボという事で344の方からは楽曲を提供していただく予定でした……ですが、他のアーティストを当たる時間も、全てを白紙に戻すほどの予算もありません』
ざわめきが大きくなってくる。
ミロクが「うーむ」と唸る声に、ヨイチが気づく。
「どうしたミロク」
「いや、俺らは曲だけなんですよね」
「そうみたいだね」
「アニメの部分はイチゴちゃん達が出るんですか? リアルの人間じゃなきゃ口紅の質感は出せないですよね」
「部分的にタレントを使うんじゃないかな」
ヨイチは苦笑しながらミロクに言う。言いながらも確かにインパクトに欠けると思ったのだ。自分達の楽曲提供を変えても、CMの出来上がりはそんなに変わらないだろうと。
シジュは「ククッ」と笑い声を洩らした。
「下手な女より、綺麗な男もいるのにな」
「え? 誰ですか?」
盛大なボケをかますミロク。そんな二人を見ていたヨイチはフミに何か言うとシジュの方を向いた。
「……シジュ」
「あん?」
「ちょっと……」
ヨイチはヒソヒソと耳打ちすると、シジュは一言「出来る」と言った。
「でも、なんで俺がやるんだ?」
「僕は出来ないからね。それにこれは僕らがやる事に意味がある。ミロク君も……」
「なんか嫌な予感がします」
「うん、さすがミロク君だね。じゃあ行こうか」
何の合図もなく同時に立ち上がる三人。
思わず口を閉ざす人達を見ることもなく、ヨイチを筆頭に司会者のもとに行くと、シジュが小声で「薫ちゃん、ちょっと借りるわ」と、薫の持っているマイクをそっと抜き取りヨイチに渡す。
『さて皆さん。突然ですが、僕ら344(ミヨシ)から一つ、ご提案があります』
その心地よいバリトンボイスを響かせ、会議室にいる全員の注目を集めることに成功したヨイチは、その切れ長の目をスッと細めると不敵に笑ってみせた。
お読みいただき、ありがとうございます。
頭痛が痛いー( ;´Д`)




