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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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8. 傲慢な婚約者(※sideエリオット)

「……そういうわけで、もう昨日のうちに今月提出する論文や課題は全て終わったんですのよ。私にとっては苦にもなりませんわ。時間がたっぷりできましたから、今月は読書三昧にしようかと思っておりますのよ。他言語の勉強も進めたいですし。うふふふふ」

「へぇ、すごいな。さすがはミリー嬢だ。相変わらず優秀だね」

「まぁっ!殿下ったら!ほほほほ。そんなことありませんわ!ごくごく普通のことですもの、私にとっては。なぜ皆あんなに手こずってしまうのかしら、たかだか50枚程度の論文や外国語の本を1冊翻訳するぐらいで。すごく簡単な本なんですのよ。地頭が悪い人が多すぎるんですわ」

「…はは、まぁそう周りの人を下に見るものではないよ、ミリー嬢。勉強の進み具合はそれぞれさ。真面目に努力していれば、皆必ず成長するのだからね」


 目の前でツンと澄ました顔で紅茶を啜っている婚約者をやんわりと諭しながら、僕はひそかに溜息をついた。


 このティナレイン王国の王太子であるこの僕、エリオット・ティナレインの婚約者ミリー・フィールズ公爵令嬢は、先月新年度が始まってから貴族学園に入学した。

 歴史あるフィールズ公爵家の次女で、幼い頃からそのずば抜けた才覚を発揮し、大人たちを驚かせてきた。

 僕と釣り合う年頃の娘が二人産まれたフィールズ公爵家からどちらか一人を僕の妻として嫁がせるのは、至極自然なことだった。姉のアレイナが僕の4つ下、妹のミリーが僕の5つ下だった。順当にいけば姉のアレイナと僕が婚約するところだろうが、…どうやらアレイナはあまり勉学が得意ではないらしい。王太子妃となり、ゆくゆくは王妃教育も受けていき、多くの国内外の要人たちと多様な言語を駆使して政治やその他諸々の会話をしていくことを鑑みても、ミリー嬢の方が妥当だろうという結論が出たのは、ほんの2年ほど前のことだった。


 ……だが…………、


「うちのお姉様ももう2年生になったというのに、いまだに私よりも習得した言語が少ないんですのよ。というか、外国語がそもそも本当に苦手のようで…、私、情けないやら恥ずかしいやら。ふふ。血の繋がった姉妹だなんて我ながら信じられませんわ」


(……自慢話と、周囲を見下したような発言ばかり。月に一度の茶会のたびにこれでは……)


 たしかにミリーは優秀だ。それは認める。子どもの頃から才女として皆一目置いていた。金髪に緑色の瞳は華やかで人目を引くだろうし、家柄に至っては申し分ない。だが……。


「…ミリー嬢。…説教くさいことを言うようで気が引けるけれど、…いつも君には言っているだろう。常に謙虚であってほしいと。君はゆくゆくはこの国の王太子妃として、国民皆の希望となるんだ。君には素晴らしい知力が備わっている。それは分かっているよ。…だけど、王族に必要なものは、それだけではない。民から受け入れられる謙虚な人柄が何よりも重要な資質の一つだ。どうか、自分よりも弱い立場の者、能力の劣る者を蔑んだりせずに、守っていくのだという意識を持っておくれ。……分かるね?」


 僕はこれまで何度も面会のたびに彼女に言い聞かせてきたことを、今日も辛抱強く伝えた。

 ミリーはティーカップを少し乱暴に置くと、こちらを見ずにツンと不貞腐れたような表情をして言った。


「ええ!よく分かっておりますわ。何度も何度も聞いてますもの。謙虚さですわね。分かってます。周りには能力の足りない弱者ばかり。私はそんな連中を束ねて率いて上に立つ、王族の一人となるんですもの。世の中私のような者ばかりでないということを理解して、優しくしてあげなきゃいけませんわよね。ええ」

「…………。」


(機嫌を損ねてしまったようだ。やれやれ…)


 この態度だ。婚約者であるこの僕を、…王太子である僕を見向きもしなくなり、露骨に不機嫌を露わにする。自慢話の腰を折られたのが歯がゆいのだろう。


 ……本当にこの子でいいのだろうか。


 毎月の二人きりの茶会のたびに、僕の不安は増すばかりだった。

 まだ幼いところがあるのだろう。成長するほどに、彼女の内面の未熟な部分も徐々に年相応に成長していくだろう。

 もう少し待てば、王太子妃としての自覚を持ち、勝ち気で傲慢な性質も抑えられていくことだろう。

 

 そう思って辛抱強く待っていたつもりだけれど……。


 ミリーももう16歳だ。いい加減成熟してもらわねば困る。


 すっかりへそを曲げてしまって僕に一切視線を向けることもなくなったミリーの機嫌をとるように、当たり障りのない会話を振ってみるけれど、さぁ、とか、ええ、とか、冷たい態度を崩さない。


(……はぁ。……疲れるな……)


 こんな時、僕はつい、思い出してしまうのだ。


 優しく穏やかに、野に咲く一輪の白い花のように清純な、心癒される彼女のことを。


 僕の心に一生秘めておくべき、初恋の相手のことを。


(……っ、……僕もまだまだ未熟だ。婚約者を目の前にして、他の女性のことを思い出すなど…。ミリーのことばかり責められないな)







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