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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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58. 屈辱の結婚生活(※sideアレイナ)

 2週間前に出した我がディンズモア公爵家での茶会の誘いは、全員が不参加の返事だった。


「……何なのよ、どいつもこいつも……!本当に薄情ね。こんな露骨に手のひらを返してくるなんて……!」


 共に学園で学んだ友人たちは、かつては私に擦り寄ってきては私を褒めそやしていた。そのうちの大半は私を通して王太子殿下の婚約者であるミリーにおべっかを言っていたようなものだったけれど、それでも私があのフィールズ公爵の娘というだけで皆がチヤホヤしてきたものだ。何かにつけてさすがはフィールズ公爵家のご令嬢、素晴らしいわ、素敵ですわと皆できるだけ私に失礼がないように、嫌われないようにと必死なのが窺えたものだ。


 それが、今では。


 私はテーブルの上に今日届いた茶会の招待に対する欠席の手紙を放り投げた。そこにはすでに数十通もの欠席の返事が投げ出されていて、見ているだけで胃が滾るほどの怒りが湧いてくる。その日は家の用事があり…、や、誠に残念ですが先約がございまして…、だの、何かしらの言い訳めいた理由が書いてあるのはまだ丁寧な方だ。ひどいものになると礼儀作法も良識もすっ飛ばしてただ一言「茶会のお誘いですが、欠席させていただきます。」とだけ、まるで殴り書きのように書いてよこしたものまであった。


(私が……この私が、ここまでないがしろにされるなんて……!)


 全身が怒りと屈辱でガクガクと震え、私はテーブルの上の手紙たちを乱暴に床になぎ払った。






 ダリウスと結婚してからの毎日は苦痛の連続だった。

 私は学園を中退したけれど、彼はまだしばらく学生だ。ディンズモア公爵と夫人は、その彼に代わってこの私に公爵領の仕事を叩き込もうとしてきたのだ。


「なぜ私に領地経営の話なんかなさいますの?!それは全部ダリウス様のお仕事でしょう。私に教えられても困りますわ!」

「馬鹿を言うなアレイナ嬢。あれは何の役にも立たん。学園での勉強さえついていくのがやっとという奴なんだぞ。あいつにここまで傾いた我が領地の事業を再興する力量などない。君がしっかりしてくれなくては」

「むしろあなたがダリウスを引っ張っていくつもりで頑張ってちょうだい。私たちを騙してまで息子と結婚したんでしょう?!自分のやったことに責任を持って、死に物狂いで働いてもらわなくてはね」


 ディンズモア公爵夫妻の言葉に私は驚愕した。はぁ?!何を言っているのこの人たち。自分たちが手塩にかけて育て上げてきた息子でしょう?


「なぜそんなにもダリウス様のことを信用なさらないのか分かりませんわ。彼にはこのディンズモア公爵家の一人息子として最高の教育を受けさせてきたんじゃありませんの?!彼だからこそ、この窮地を脱する秘策を思いつき実行できるはずですわ!その辺の男たちとはワケが違うはずよ」


 私が反論すると夫妻は顔を見合わせた後、深く溜息をついた。


「……君は一体息子の何を見てきたのか。これまで金と手間を存分にかけて受けさせてきた教育は、あいつには微塵も身についておらん。広大なディンズモア公爵領の仕事というのは多岐に渡るんだ。たかだか貴族学園の進級ごときも危ぶまれるような知能では経営などとても任せられん」

「…あなたたちの一連の騒動でね、主人もすっかり心身共に弱ってしまっているのよ。先日も心臓が痛いと言って医者を呼んだわ。ストレスは厳禁ですって。これ以上負担をかけないでちょうだい」

「な…………っ」


 二人の責めるような視線が心外でならない。たしかにディンズモア公爵はここ最近一気に老け込んだ。突然痩せ細り、目の下は真っ黒になり髪は反対にどんどん白くなっていく。だけどそれは単に歳をとったからでしょう?まるで私のせいのように言われたって困るんですけど。言いがかりも甚だしいわ。


「従業員も大幅に解雇したのよ。領内の大型の店舗は慰謝料支払いのために何軒も畳んだし、もう給料も払えないから…。…あなたも店に立って働いてくれなくては困るわ」

「は、……わ、私が、ですか?!」


 公爵夫人の言葉に耳を疑った。店に立って働く?!私に……そんな下々の者のような労働をしろと?!


「何もおかしな話ではないだろう。君ももうこのディンズモア公爵家の一員だ。その健康な体があるのだから、我が家のために働きなさい。それくらいの手伝いをしている貴族家の嫁などいくらでもいる」

「で!ですが!その前に私はまだ花嫁修行として勉強しなければならないことがたくさんありますわ!忙しいのですからそんなことしていられません!」

「今のあなたに働く以上に大切なことなんてありません。明日からすぐにでもお店に立ってもらいますからね」

「…………っ、」


 私を見つめる二人の目は敵意か憎悪しか感じられない。何よそれ。おかしいでしょう。こんなの、息子の元に嫁いできてくれた高貴な令嬢に対する態度じゃないわ。うちの実家が男爵にまで降格させられたからって侮ってるのかしら。失礼な人たちね……!






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