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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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51. アレイナの強引な演技(※sideダリウス)

「あ……あります、だと……?!ダリウス……、この、馬鹿息子が!!」

「っ!!ぐ……っ」

「きゃあっ!ディンズモア公爵夫人!……夫人をベッドへお運びして!」


 父が俺のそばにやって来るやいなや胸ぐらを掴み上げると同時に、フィールズ公爵夫人が侍女たちに母を介抱するよう命じる。場は一気に騒然となった。


「……これが真実ならば、もうどうにもならないではないか……っ!何てことをしてくれたんだお前は……っ!」

「……もっ……、もうし、わけ、…ございません、父上……」


 もちろん、本当は身に覚えなど一切ない。だが俺たちが一緒になるためにはこの強引な方法をとる他なかった。案の定、父の目は燃え上がる怒りで充血している。フィールズ公爵家との縁を切るつもりでいたがアレイナの妊娠でそれができなくなり激怒しているのは明白だ。


「ちゃんと言いなさいアレイナ!」

「そうだ、何故セバーグ医師では駄目なのだ。言いづらいなどと言っている場合ではない。説明しなさい」


 向こうも必死だ。胸ぐらを掴まれている俺のことなどお構いなしに娘に詰め寄っている。

 アレイナは深く息をつくと、観念したようにポツリと話しはじめた。


「……今まで、怖くてずっと言えなかった……。実は私、子どもの頃から何度か、あのセバーグ先生に、…悪戯をされたことがあるの…」

「……。……何だと?」


 アレイナの言葉に、俺に掴みかかっていた父もポカンとした顔になり、俺から手を離してアレイナに見入っている。


「…周りに誰もいない時だけよ。お父様やお母様、侍女たちが離れた隙に、セバーグ先生は診察しながら私の足や胸を不必要に触ってきたわ。…最初は、ただの偶然かと思ってた。こんな子ども相手に、高名な先生がまさかそんな変なことするはずがないって…。…だけど、数年前の往診の時に気付いたの。私が風邪をこじらせて寝込んだ時よ。セバーグ先生は私を診て帰る前に、天蓋を下ろしておきましょうって言ってベッドのカーテンを閉めたでしょう?…覚えてないかしらお母様…。その一瞬よ。天蓋の中で二人きりになったその瞬間、セバーグ先生は私の頬を撫でて…………み、……耳元で囁いたわ。可愛いよ、アレイナって……そして……私の耳を、舐めたの」

「な…………っ、何ですって……?」


 フィールズ公爵夫人はアレイナの告白に顔面蒼白だ。全員が動きを止め、アレイナに見入っている。注目を集めている当のアレイナは顔を覆って泣き出した。


「だ……だってあなた……!最近までずっとセバーグ先生に診てもらっていたじゃないの!ほら、先日顔や体に傷がたくさんついた時だって……」

「我慢してたの!い……言えなかったのよ、ずっと……。怖くて……でも気持ち悪くて……。本当は、私具合が悪くなるたびに、あの先生が来ることが何より怖かったわ……。だから自分が妊娠したかもって思った時、真っ先にあの先生の顔が浮かんでしまった…。セバーグ先生が病気だけじゃなくて妊婦の診察も出産も診られることは知っていたから…。絶対に嫌、あの先生に妊娠を診てもらうなんて……死んだ方がマシだって!!う゛っ…………うぅぅぅ……」

「……アレイナ……。……本当なのか?……お前、まさか、……虚偽の妊娠がバレないためにそんなことを言っているんじゃあるまいな」

「ひどいわお父様!!私を信じてくれないのね?!私……長い間ずっとずっと独りで苦しんできたのに……!」

「……。…………いや……、だが……」


 うちの父とフィールズ公爵夫妻は顔を見合わせた。……無理がある気がする。あの善良で高名なセバーグ医師が幼いアレイナに性的悪戯をしていたなどにわかには信じがたいだろう。こんな嘘、誰も信じないのでは…。

 だが目の前で実の娘が肩を震わせながら涙をポロポロ流し嗚咽する様を見て、フィールズ公爵夫人はその肩にそっと手を添えた。


「……ともかく、セバーグ先生に話を聞…」

「認めるはずがないわ!!証拠なんてないんだもの!!あるのは私自身の証言だけ!だから言えなかったのよ!誰もあの人望のある医師よりも私のような小娘の発言の方を信じてくれたりはしないって分かっていたからよ!!あぁぁぁ……っ!」


 フィールズ公爵の言葉を遮るように怒鳴ると、アレイナはますます大きな声を上げて泣き出した。


 困り果てた様子の大人たちは、しばらく黙って互いに視線を送ったり、思案したりしていた。そのうち俺の父が口を開いた。


「…まぁ、では一旦セバーグ医師のことは置いておくとして…。他の信頼のおける医師に再度きちんと診てもらった方がいいでしょう。スウィニー医師はどうだろうか。彼なら紹介できるが」

「嫌です!!男の先生はもう絶対に嫌よ!貴族家に往診する高名な医師は皆男の先生ばかり……。それが嫌だから私、友人に教えてもらった女性の先生に診てもらったのよ」


 たしかに、妊娠の診察ともなれば毎回局部を見られ、触られることになる。男性医師にトラウマがあるという設定ならば、自分で女の医者を探したというのもおかしな流れではない。…と思う。


「……どこの医者なんだ、その人は」

「普段は平民たちを診ている町医者よ。でも腕はたしかだと評判の方なの。とても親身になってくださって、私心強かったわ。もう出産まで絶対にその先生にしか診てもらわないわ」


 頑ななアレイナの態度にフィールズ公爵は深い溜息をついた。


「……ともかく、一度うちに来てもらおうじゃないか。その女性医師に」





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