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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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22. エリオット殿下の気遣い

(……なんだか最近、ちょっと平和だな…)


 ここ数日、毎日のように私の前に現れては睨みつけたりぶつかってきたりしながら酷い言葉を浴びせ続けてきていたミリー嬢とその取り巻きの人たちが、突然ピタリと姿を見せなくなった。普通に学園生活を送っていれば、1年生と2年生はほとんど顔を合わせることはない。わざわざ向こうからやって来ない限りは顔を見ることもなく済む。


 ミリー嬢たちがやって来なくなるにつれて、遠巻きに私の方を見ながらヒソヒソと噂話をする生徒たちもいなくなってきた。あんな目立つ嫌がらせでもされていない限り、皆も私のことなど特に気にならないのだろう。もう婚約破棄からもだいぶ経った。人の興味は移ろうものだ。


(…ミリー嬢もやっと気が済んでくれたのかしら。それとも、もう飽きたのかな…)


 いずれにせよこのまま平穏な日々が戻ってくれたらと願うばかりだ。


(気を付けなきゃ。私ももう、エリオット殿下には二度と不用意に近付かないようにしよう)


 下心や不埒な気持ちが一切なかったとはいえ、やはり婚約者のミリー嬢にしてみれば不愉快だったのは間違いない。今後はどんな場面であれ、あのお方と二人きりにならないようにしなくては。

 まぁ、そんな畏れ多い機会は滅多にないとは思うけれど。


(…あのお方の包み込むような優しさに、あの夜私が甘えてしまったことは事実だわ。でもあの方は、この国の王太子殿下。雲の上の人なのだから…)


 あの夜会での殿下の温かいお言葉をありがたく心に刻んで、もう二度と同じ過ちは繰り返さないようにしよう。




 そう思っていた矢先のことだった。




「えっ?!エ……エリオット殿下、から……?」

「ええ、そうなの。一体何が入っているのかしら。あなた宛てなのよ。急いで開けてみてくれない?クラリッサ」


 学園から帰宅するなり、母が飛びつく勢いで私の元にやって来て言ったのだ。エリオット殿下から私宛てに小包が届いていると。


 私は母と連れ立って急いで自室に上がる。部屋のテーブルの上に置かれていた、両手で抱える程度の大きさの小包は、ずしりと重かった。


 食い入るように包みを見つめている母の横で、私はおそるおそる箱の包みを開けた。一体何だろう。何が入っているのかしら……。


「……。……あ……」

「まぁっ……、これは…、……本?小説かしら。こんなにたくさん…!殿下は一体どうしてあなたにこんなものを贈ってくださったのかしら」


 箱の中には10冊ほどの真新しい本が入っていた。一つ一つ手に取って見てみると、それらは全て、私が以前に殿下とテラスでお話した時に大好きだと言った作家の小説だった。それも、全てセレナス語で書かれた原書ばかり。私がまだ見たことのない作品まである。これは新作かしら……?


「……お手紙が……」

「よ、読んでちょうだい」


 母が緊張した声で言った。これがもしも殿下からの贈り物であったのなら、それ相応のお礼をしなければ…と考えているのだろう。私は封を開け、紙を開いた。



『 親愛なるジェニング侯爵令嬢



 先日は楽しい時間をありがとう。

 

 もしよかったら、君の趣味のひとときのお供に。もう持っているものもあるかもしれないけれど。


 君が進んでいく道に明るい日射しが降り注ぐことを祈って。




             エリオット 』



(……殿下……)


 その短い文面の全てが温かさに満ちていて、私はあの夜の殿下の優しい微笑みを思い出し、思わず涙ぐんだ。


(本当に、どこまでも優しいお方…)


「何て?何て書いてあるの?この、贈られてきた本の意味は…?」


 隣で狼狽えている母に、私はあの夜会の日のテラスでの出来事を全て話した。


「…そ、そんなことがあったの?やだ、あなた言ってよ、そんな大事なこと…」

「ごめんなさいお母様。…この贈り物には、私がお礼状を書きますわ」

「そうね。心を込めて丁寧に書いてちょうだいね」


 母は殿下が特に深い意味なく、その日の会話にまつわる贈り物を個人的にしてくださっただけだということに安心したようだった。




 その夜、私はゆっくりと手紙を書いた。たくさんの本を贈ってくださったお礼、あの日の素敵な時間のお礼、そして殿下の体調を気遣う文面で締めて、その手紙を侍女に託した。

 私は殿下に心から感謝しながら、箱の中からセレナス語で書かれた新作の小説を取り上げた。


(…ふふ。嬉しい。これが原書のままスラスラ読めるようになるまで、勉強頑張らなくちゃ)




 このやり取りは、ここで終わったものだと思っていた。

 殿下があの日の会話を覚えていてくださって、優しいお気遣いで本を贈ってくださって、私がそれに対してお礼状を書いた。

 それだけのやり取りだと思っていたけれど。



 なぜだかそれからしばらく経った数週間後、殿下からまたお手紙が届いた。

 それは私の体調を気遣い、学園生活は順調かと問う内容のもので、私も慌ててそのお手紙にお返事を書いた。元気にしております、学園は毎日楽しいです。勉強を頑張っています。先日殿下からいただいた本を、毎日夢中になって読んでおります、どうかエリオット殿下もお体にお気を付けてお過ごしくださいませ、と。


 すると数週間後にはまた新たにお手紙が届いた。


 私は驚き戸惑いながらも、またそれに対して返事を出した。


 いつしかそうして私と殿下との間で手紙のやり取りをすることが習慣化してしまい、最初は戸惑っていた私もそのやり取りに慣れてきて、やがて殿下からのお手紙が届くのを心待ちにするようになった。


(…もう個人的に関わってはいけないと思っていたはずだったのに…。…だけど、こんな内容の文通ぐらいなら……許される、かしら…)


 別に誰かに読まれて困るような変なことは殿下も私も書いてはいない。当たり前だけど。内容はあくまで互いの近況報告や普段の生活にまつわること、考えていることなど、まるで友人同士のようなものだった。


 だけどいつの間にか殿下とのそんな手紙のやり取りが、私の日常生活の中の大きな楽しみの一つになっていったのだった。





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