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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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21. 募る憎しみと嫌悪感(※sideエリオット)

 あの夜会の日以来、ますますクラリッサのことが頭から離れない。


 大丈夫だろうか。元気にしているのだろうか。学園にはちゃんと通えているのか。食事はきちんととっているだろうか。


「……。……ふう…」


 書類を(めく)る手を止め、深い溜息をつく。どうも気にかかる。


「いかがいたしましたか、殿下。眉間の皺がすごいですよ」


 そこに、ちょうど俺の元に新たな書類を持ってきたウォルターが話しかけてきた。……そうだ。


「なぁ、ウォルター。お前、学園の生徒たちに誰か知り合いがいるか?」

「え?ええ、まぁ、そりゃ何人もいますよ。人脈はたっぷり広げてきていますので」

「ふ、そうだよな。……なぁ、クラリッサ嬢のこと、少し聞いてみてくれないか。学園では友人たちと楽しそうに過ごしているのか、とか。ちゃんとその、…毎日通えているのかを」

「はは。ありがとうございます、殿下。妹のことをそんなにまで気遣っていただいて…」


 感謝されてしまって、なんだか気まずい。たしかに僕がわざわざウォルターの妹君のことをずっと気にかけているのは不自然だろう。


「…いや、先日の夜会で姿を見た折にな、あまりにも(やつ)れていたようだったから…。ミリーやアレイナ、フィールズ公爵家の娘たちが彼女に何か辛く当たるようなことでもしていれば、諫める必要があると思ってな」


 ウォルターに僕の気持ちがバレてしまってはいないだろうかとビクビクしながら、つい言い訳がましいことを言ってしまう。が、やはり気になるものは気になる。日々を無事に過ごせているかどうかを確認しておきたい。


「承知いたしました。たしかに俺も気になっていた…。クラリッサと同学年の者に様子を聞いてみます」






 そうしてウォルター経由で得たいくつかの情報は、僕のミリーへの嫌悪感をますます増大させた。


「…………許しがたい。まさか、ミリーがそんなに執拗にクラリッサ嬢を苦しめていたとは…」

「……俺も正直驚いた。……まさか、殿下の婚約者ともあろう人が、そんな悪質な嫌がらせ行為を学園でしていることに」


 俺に話をしに来たウォルターの口調もいつもより随分とぞんざいだ。まるで学生の頃のように。相当動揺し、彼もまた怒っているのだろう。


「…すまないことをした、ウォルター。ミリーには今まで以上にきつく言っておく。二度と妹君には手出しさせない」

「……そうしてくれると助かる。……はぁ。クラリッサ……あいつは家族に心配かけまいとして何も言わないから……。ますます可哀相になってくる。おそらく誰にも相談できずに自分の胸の内にだけ留めていたのだろうと思うと…」

「…………すまない」


 まさか他の生徒たちの前で泥棒猫だの娼婦だの言っていたとは…。こうやって人づてに聞いただけの内容でも、ミリーならやりかねないと素直に納得してしまえるのがまた悲しいところだ。これが「クラリッサがミリー嬢のことを泥棒猫とか言って虐めていましたよ」なんて聞いたところで、絶対に嘘だと瞬時に思うはずだ。


(……博識で優秀な婚約者だ。普段のふるまいはかなり鼻につくが、社交の場でのふるまいや教養についてはきちんとしている。猫を被るのも上手いのだ。周辺諸国の文化やマナーにも精通していると言って過言ではない。だが、あの人間性では……)


 どうしても彼女を好きになることができないでいたが、今回の件はそんなレベルの話ではなかった。






 次回の茶会で厳重注意を、なんて悠長なことを言っていられなかった僕は、すぐさまミリーを王宮に呼び出した。


 ミリーはやって来るなり言った。


「殿下、突然のお呼び出し、嬉しゅうございますわ。ふふ、一体どうなさいましたの?」

「…………。」


(まさか僕が「急に顔が見たくなった」とでも言うと思ったのか?先日の夜会でのことを忘れてしまったのだろうか。それとも、僕がその日の件で謝罪をするとでも思っているのか……?)


 殿下、先日の態度大変失礼いたしました、と、せめてお前から謝るべきではないのか。


 喉元までこの言葉が出かかったが、もうそれはどうでもいい。

 僕はすぐさま本題に入った。


「……呼び出した理由はただ一つ。君の学園でのふるまいについてだ。……心当たりがあるだろう」

「……。…………?」

「……クラリッサ・ジェニング侯爵令嬢のことだ。君の品位を疑う。くだらない虐めは即刻止めろ。彼女に二度と近づくな」

「……っ、……なぜ……」


 なぜそのことを知っているのか、とでも言いたいのだろうか。げ、マズい、と言わんばかりに頬を引き攣らせるその様に憎しみが湧いてくる。明らかに反省している様子がない。


「いいか。もう二度と言わないから、よく覚えておくんだミリー。君の日頃の行動は王太子妃になる人間として全く相応しくない。僕はこれまで何度も苦言を呈してきたはずだ。いつも周りの人間を見下し、謙虚さの欠片も持ち合わせてないばかりか、校内で堂々と虐めをするなど…、とても看過できることではない。次に同じような報告を受けた時には、君との婚約は破棄させてもらう」

「…………っ!でっ、殿下……っ!あ、あなたご自分が何をおっしゃ…」

「返事をしろ。分かったな、ミリー」

「…………っ、…………分かりましたわ」

「下がれ」

「…………く……っ」


 ミリーは青ざめると唇を噛みしめ、まるで反抗期の子どものような顔で僕を睨み、帰っていった。


「…………はー……」


 深い溜息をつくと、両肩に大きな重荷がのしかかってきたような疲労感を覚えた。







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