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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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19. 執拗なミリー

「ねぇ、分かる?あんたのせいであの夜、殿下はうちの家族に苦言を呈したのよ。私の態度がなってないとかなんとか。絶対にあんたに(たぶら)かされていたせいよ。昨日のただならぬ様子を見て、私ピンと来たのよ。この女、自分の婚約者が私の姉に夢中になっちゃったからって、()()殿()()に近付いて奪い取って復讐しようとしてるってね!」

「っ!!そ、そんなことしてな…」

「口答えしないで!!今後()()殿()()に近付くことは絶対に許さないわよ!もしもまた私の、いえ、私たちフィールズ公爵家の目を盗んで殿下に色目使ったりしたら、もうただじゃおかないわ。父に言ってあんたの家を潰してやるんだから!!」

「…………っ!」


 な、なんてひどいことを……。

 目の前にいるこの野蛮な女性が、あのフィールズ公爵家のご令嬢でありエリオット殿下の婚約者だなんて、とても信じられない思いだった。

 

(……家を……潰してやるだなんて……)


「今度の()()()()()()()()の時に、殿下にもあんたの本性をちゃぁんと言っておくんだから」


 そう言い捨てるとミリー嬢は最後に私を睨みつけて教室を出て行った。取り巻きの生徒たちもそれに従い出て行き、私は一人ポツンと取り残されたのだった。


「…………う……、……ふ……っ、」


 熱い涙が次々と頬を伝う。これほどの屈辱を受けたことがない。あることないこと言われ、暴力を振るわれるなんて。


(……たしかに、私にも反省すべき点はある。あの夜会でテラスに抜け出し、偶然出会ったとはいえ、殿下と二人きりの時間を過ごしたことがそもそもいけなかったのだから…)


 あそこで私が涙など流さなければ、殿下も私にあんなに優しいことをなさらなかっただろう。

 だけど傷付き疲れ果てていた私の心に、あの夜の殿下の穏やかな(いたわ)りの言葉は、とても深く沁みたのだ。堪えようがないほどに。


 それを…………


(……娼婦、とまで言われた)


 悔しさと疲労とで、私はしばらく立ち上がることができなかった。






 その翌日から、ミリー嬢の私への悪質な虐めともいえる行動が続いた。

 わざわざ取り巻きを連れて私の教室の前を通りながら、「最低ね、あのピンクブロンド」「地獄に落ちればいいわ」「娼婦のような真似は止めなさい」「泥棒猫」などと周りの令嬢に言わせ、通り過ぎていく。1年生がここに来る用事なんてないはずなのに。

 クラスの皆はフィールズ公爵令嬢と取り巻きのただならぬ様子を目の当たりにして怖々と私のことを見ている。一体何事かと思われているのだろう。


 その上、「クラリッサ・ジェニングがアレイナ・フィールズ公爵令嬢に婚約者を奪われたことを根に持って妹のミリー・フィールズ公爵令嬢からエリオット王太子殿下を奪おうと夜会で色仕掛けをしていたらしい」などという噂を学園中に広められてしまった。教室にいる時、廊下を歩いている時、登下校の時…、どこからでも私のことをヒソヒソ噂する声が聞こえてくる。


「……あ、ほら、あれ……例の方」

「綺麗よね、本当に。……ねぇ、でもあの噂ってどうなのかしら。あの方がそんなことすると思う……?」

「だって子どもの頃から大好きだったらしいわよ、ディンズモア公爵令息のことが。それも一方的な想いだったんですって。相当根に持ってるらしいのよ」

「怖いわ。人って見かけによらないのねぇ」

「あんなに大人しそうなのに……」


 まるで誰も彼もがわざと私に聞こえるように言っているとしか思えない。全てが耳に入ってくるようで頭がおかしくなりそうだった。


(私が、もっと強い人間だったなら……。大きな声で堂々と言えたのかしら。くだらない噂話は止めて!私はそんな恥ずかしい真似はしないわ!って……。だけど……)


 私にはそんな勇気はない。


「クラリッサ……、大丈夫?」

「元気を出してね。私たちがついているわ」

「……ありがとう、みんな…」


 元から親しくしてくれていた数人の女子生徒たちが私のそばから去っていかずにいてくれたことだけが、私のこの地獄のような学園生活の唯一の支えだった。




 そんなある日。


(……っ、ダリウス様……)


 廊下を一人で歩いていると、珍しく向かいから私と同じように一人で歩いてくるダリウス様とすれ違った。


「…………あ……」

「…………。」


 立ち止まろうとした私の前を、チラリとこちらを一瞥(いちべつ)したダリウス様がそのままスッと通り過ぎていった。


「………………っ、」


(……何も、言ってくれないんだ……)


 私が苦しんでいるのは、きっとダリウス様も分かっているはず。ダリウス様との婚約破棄にくわえて、ミリー嬢からの執拗な攻撃で学園中の噂の的になり、ほとんど孤立無援といった状況なのに。


 少しも気にかけてくれることはないんだ。


 やっぱりダリウス様にとって私は……もうどうでもいい存在なんだ。


 ううん、そもそも、好きだったのは私の方だけ。子どもの頃からずっと、ダリウス様にとって私はどうでもいい存在だったのだろう。


(……せっかく、殿下のおかげで楽しい趣味を見つけたと思ったのにな…)


 このまま少しずつ心の傷が風化して、前を向いて生きていけると思っていたのに。


 この期に及んでまだダリウス様に期待してしまった自分が、とても惨めだった。






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