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恋の魔法が解けた時 〜 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました 〜  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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18. ミリーからの虐め

 あの夜会の翌日、私は早速大好きな小説たちを引っ張り出していた。


(“自由へと続く道”、“あなたが帰ってくるまで”、“風が見える丘で”……、うん、この辺から始めてみよう!)


 私はそれらの小説の原書を探しに国立図書館へ行き早速借りてくると、侍女に本屋で買ってきてもらった数冊のセレナス語の辞書とともに机にかじりついた。


(……。……あ、…へぇ、ここって翻訳だと『彼はゆっくりと振り返って言った』ってなってるのに、原作のニュアンスはもっとかなり躊躇して立ち止まって、悩んだ末に振り返ってるのね。……ええ、やだ、面白い!)


 殿下のおかげで見つかった新しい趣味は、私を夢中にさせた。

 学園から戻るなり机にかじりつき、そんな日々を数日過ごしているだけで、たしかに私をずっと苦しめていたあの二人の存在にもさほど動揺せずに済むようになってきていた。


 きっと、このまま順調に前に進めるはずだわ。


 そう思っていた。






「クラリッサさん、ちょっといいかしら」

「……?……はぁ」


 そんなある日の放課後。私は突然目の前に現れたミリー・フィールズ公爵令嬢とその他数人のご令嬢方に呼び止められた。…ミリー嬢はアレイナ様の1つ年下だから、周りの方たちも私の1学年下だろうか。

 一体何の用があるのだろうか。




「……あなたねぇ、調子に乗るのも大概にしなさいよ」

「………………。………………え?」


 人ひとりいない空き教室に連れて来られたかと思うと、突然周囲をそのご令嬢方に取り囲まれた。目の前にはミリー嬢。な、何?これ……。


「あなた、自分の立場を分かってるわけ?しらを切らないでよね。先日の夜会で自分がしでかした大失態、忘れたとは言わせないわよ!」

「っ!!きゃっ…」


 語気を強めてそう言ったミリー嬢は、私の肩を拳でどんっ!と強く突いた。


「な……っ、何をするのですか突然!」

「あなたがミリーさんを傷付けたからよ!」

「そうよ!格下の侯爵家のくせに、フィールズ公爵家のお嬢様に楯突くような真似、許せないわ!」

「は……、え……?」


 周りのご令嬢方が口々に私を罵りはじめる。意味が全く分からない。

 困っている私にミリー嬢は言い放った。


「あなた……先日の夜会で、()()殿()()と密着していたでしょう。いやらしい。肩を抱かれて頭を撫でられているのをこの目で見たのよ!どうやって殿下に取り入ったのよ、この変態!!」


 パァンッ!!


 その言葉の勢いのままに、ミリー嬢は私の頬を叩いた。


「きゃあっ!…………い、痛っ……」


 私は呆然となった。驚きのあまりそれしか声が出ない。人に頬をぶたれたのは生まれて初めてのことだった。家族や家庭教師から厳しく躾けられることはあったけれど、叩かれたことなど一度もなかった。


「あなたねぇ、私がどこの誰だか分かってないの?ねぇ。私はミリー・フィールズ。この国で最も由緒ある、格式高いフィールズ公爵家の娘なのよ。その私の婚約者がエリオット殿下だってこと、まさか知らないはずがないでしょう」


 腰を抜かしてへたり込んだ私を上から見下ろしながら、ミリー嬢は汚いものを見るような目で言う。


「あなたって、あざとい見た目を武器にして格上の男たちを(たぶら)かす娼婦みたいねぇ。ディンズモア公爵令息のみならず、エリオット殿下にまで擦り寄っていって籠絡(ろうらく)しようとするなんて。薄汚いわ。娼婦なら娼婦らしく場末の娼館ででもお仕事しなさいよ」

「…………っ!!」


 まぁ、ほんとね、などと言いながら、ミリー嬢の取り巻きのご令嬢方が笑っている。信じられない。どうしてこんなひどいことが言えるのだろう。


「……私は……、…元々、私がディンズモア公爵令息と婚約していたのです。擦り寄っていったなんて、……あまりにも、ひどい言い草です。…ち、ちゃんと、両家の間で決められた、婚約者…」

「まぁぁぁっ!!嫌だわこの人!さすがの泥棒猫根性ね!この私に反抗してくるなんて!……あなたとお姉様とディンズモア公爵令息のいざこざはこの際どうでもいいわ。それよりも殿下に色目使って近づいたことを……謝りなさいよ!!」

「っ!!」


 今度は顔を蹴られそうになった。咄嗟に庇った手の甲をしたたかに蹴られて痛みに呻く。屈辱に涙が溢れた。


「ほぉら!見て皆さん!こうして夜会の時も簡単に涙を流していたのよ。あのエリオット殿下の前でよ?!信じられる?あんな高貴な方にまで泣き落としで近づいていくなんて……。殿下はお優しいから、この女を放っておけなかったんだわ!そのせいで、私があの夜ないがしろにされたのよ!!」


 ミリー嬢の目は怒りに燃えてつり上がっていた。






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